表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/67

40 和田野 健 3



 中には前と同じおじさんがイスに座っていた。


「どうぞ、こちらに」


 俺は机の前に立った。その机には、この間と同じような古い本が置いてあった。


「手を置いてごらん」


 言ってる事は分かったが、突然すぎて直ぐに動けなかった。が、俺は頷き右手を本の上に置いた。


 その本は優しく光りだし、すぐに消えた。


「良かった。大丈夫だったね。前回も話した通り、もう戻れないけど大丈夫だね? 」


 俺はおじさんの目をじっと見ながらも、既に覚悟が決まっていた。だから、目をそらさずに頷いた。


「じゃあ、それを開いてごらん。君が戻りたい過去の分岐点が示されているから」


(分岐点? )


 その本を開いたら一枚の紙が入っていて、文字が……


【20xx年10月1日 6:00 和田野家 自室】


「これって……」


 おじさんは優しく微笑みながら頷いていた。目の前が煙で見えなくなって……


(夢、か……)


 オレの目の前に懐かしい光景が目に映った。


(はっ!? )




ガン



「い、いって……」


 豪快に頭をぶつけた。

 いまだに2段ベッドの下で寝ている俺は、目の前のスノコに飛び起き、周囲が自室であることに驚きすぎて、ベッドから勢いよく飛び出し……ぶつけた。


 中学入学と同時に一人部屋にはなったが、オレはベッドは新調しなかった。兄さんが使っていた上は、漫画本や剣道の試合のプログラム等置いてあり、限りあるスペースを有効利用していた。


 オレは、頭を押さえながら階段を駆け下りた!


「母さん!」


 慌てて降りてきたオレを見て、兄さんが……


「健!朝からうるさい!久しぶりの学校だからって、一人ではしゃぎすぎだ。落ち着け」


 母さんと父さんが苦笑いをしている。


(待って……ここってオレん家だよな? )


「今日って何年の何月何日? 」

「は? お前大丈夫? 頭打って記憶飛んでない? 」

「いや、だから~……何年の何月何日? 」

「ったく……ほら、今日の新聞。自分で見ろ!あぁ、やばい1時限前に研究室行かないと……遅れる!」


(20xx年10月1日……戻ってる!!これって今日の新聞だよな……?)


 兄さんから渡された新聞を握りしめ、意識が飛びそうになる。


「健? 今日からブレザーだからね。忘れないように。そして放課後でいいから、職員室にその封筒を持って行ってね」

「あ……。わかった……」


 味噌汁をかき混ぜながら、母さんが喋ってる……


(今日から二学期……か……)


 少し落ち着いたオレは、準備されていた朝食を食べ、懐かしい制服を着て無事に登校した。


 何年ぶりかの登校で、自分の靴箱がどこかも覚えていなかった。だから朝、母さんから受け取った封筒に【2-3 No.31】と書かれていて助かった。


 教室に行くと、何となく覚えているクラスメイトが出席番号順で座っていたので、変に混乱もしなかった。

 その後、『おはよ~』と担任の下原先生が来て、ショートホームルームが始まった。この後の通常の1時限、2時限と授業があり、3時限目に始業式、その後に学年集会。お昼休みが入り、ロングホームルームと説明された。


 3時限目の始業式。オレらは体育館で行う為に、ゾロゾロと移動した。校舎を久しぶりに歩いているけど意外と覚えていた。


 オレらがいる北校舎3階の教室から、中央階段を降りて、1階の家庭科調理室と被服室の間の廊下の突き当たりのドアまで歩く。ドアを通ると、そこから2段ある階段を降りたら体育館に繋がる渡り廊下になる。


 階段を降りて直ぐに右側に視線を向ける。


(武道館……)


 校舎と武道館の間、数メートル先に武道館の入口が見えた。武道館に入るにも2段の階段があり、茶色いような赤っぽいような、年季のある建物だ。


 始業式の間にオレは、恵さんを探したかったが、体育館入口から1-1、1-2とクラスごと整列していて。恵さんが隣のクラス2-4なのは検討がついていたが、列の前が男子、その後に女子と並んでいた為に、振り替えることは出来なかった。


 オレは、始業式もホームルームの間もずっと、この後の事を考えていた。


(もう、間違えたりしない……)


 放課後、母さんから頼まれた書類を持って職員室へ向かう。職員室にはやはり担任に顧問にそろっていた。


「失礼します。2-3和田野健です。下原先生に、親から書類預かってきました」


 と、『お~来たな~』と担任に出迎えられ書類一式を渡す。


 次に顧問と向き合う。


「齋藤先生。俺、しばらく剣道は出来ません。けどマネージャーとして、みんなをサポートして行きたいと思っています。だから部活に出てもいいですか? 」


 そんなオレの発言に、先生方は驚いていた。


 俺はまっすぐ顧問を見て答えを待った。何を言われても、譲るつもりは無かった。


 そんなオレの覚悟に負けてか、先生方からは無理をしない条件で、許可が下りた。


 オレは北校舎2階の職員室から、うれしくて武道館へ走った。早く恵さんに会いたいし、話したい。


オレは、武道館の前で一つ深呼吸をした。


(落ち着け、オレ)



ガチャ



「おはようございます。みんな、今までごめん」


 武道館に入り、オレは、深々と頭を下げた。


(あぁ……やっぱり、こうなるよな……)


 顔を上げたオレには、目の前の光景に身に覚えがあった。


(やっぱり武道館の雰囲気は最悪だな……ってもダメだ。同じことをしては……さて、どうするオレ……やっぱり恵さん怒ってるしな……ダメなのか? どうしたらいい……)


 恵さんからの拒絶に、俺は結局……武道館を飛び出してしまった。足が重い。


 渡り廊下から、北校舎の1階を事務室の方に歩いていた。外から野球部の声が聞こえ、窓際から眺めていた。


(せっかくやり直しているのに、どうしたら良いんだ……)


 オレは窓枠に寄り掛かりながらも、途方にくれた。前回と同じ結果に絶望してた。外を見ているはずなのに、思考は前回の記憶でいっぱいだった。


(この後に、恵さんから連絡はくるはずだけど、やっぱりそれじゃダメだろう……)


 お手上げの状態で、どうしたらいいのか何も浮かばず、ただ廊下から外を見ていた。


 前回の俺みたいに、耐え切らず逃げて家に帰りたかった。前回は、1分1秒でも学校にいたくなかった。


 今のオレは、それすら出来なかった。


(オレ、結局情けねえ……)


 窓の外を眺めていたが、先ほどの武道館のことを思い出していた。


(恵さん、制服着てたな……やっぱ可愛いわ……これから、どうするかな……)


「健くん!待って!」


(えっ? めぐ? )


 廊下の奥から、走ってくる人影が見えた。見間違えることは無い人が、近寄ってくる。


(帰らなくて良かった……あの日も追いかけて来てたのか? 帰ってごめん。ヤベ……泣きそうだ)


「あ、あの……今からバイトとかあるの? 休み? 」


(あ……そうか、まだバイトしている事になってるんだよな……泣くなオレ。めぐと話すと決めたろ)


 頑張って気持ちを切り替え、彼女は『いっしょに帰ろう』と荷物を取りに武道館に戻っていった。


 あんなに怖い目をしていた恵さんは怒ってはいなかった。


(帰らなくてよかった……最初の俺なぜ逃げた)


 本当に殴りたいぐらいに、怒ってやりたい。


 病室で三浦に聞いていた『最後までお前の事を信じて庇っていた』コトや、病気を知らなくても、入院中も連絡を入れてくれたコトなど想い出し、さっきの言葉は他の部員の手前、仕方がなかった事で、いつもまっすぐオレを見て笑顔で話してくれるのが【いつもの彼女】だと今更ながら気がついた。


 さっきはほとんどオレを見ていなかった……彼女の本心では無いということだろう。


 しかも『昨日、連絡くれたら~』とか言われても、なんせオレですら、今朝から今までの出来事がまだ半信半疑なんだから、どう答えていいか悩んでしまった。


 昨日か……断罪される前日に戻っていたら、事前に連絡したか? 怖くて今日だって学校に来れなかったかもしれない。


 戻ったのが今朝なのがオレにとって良かったんだと、改めて納得させられる。


(遅いなんて……ないんだな……)


 武道館に向かい、廊下を走る彼女の後ろ姿に……


「追いかけて来てくれてたんだ……帰んなくて良かった……ありがとう」


 きっとこの言葉は彼女には届いていないだろうが、それで良かった。


 被服室前の扉を出て、姿が見えなくなった。オレは、それを確認し昇降口へ向かって歩き出した。


 泣きそうになりながらも、何度も何度も心の中でくり返した『ありがとう』


 自転車を取りに行き、オレは昇降口で彼女を待っていた。今後の話をする為に。しかし、久しぶりに帰ると思うと、落ち着かなかった。まさか『今朝未来から戻ってきました』なんて言えない。


 とりあえず今までの話と、マネージャーの話をしよう。

 そしてきちんと気持ちを伝えよう。


 二度と後悔しないように、やり直すと心に誓う。



※※※



 あの日無事に話せたオレは、放課後マネージャーとして頑張った。今までの経験が役に立って、彼女の隣にいれて楽しかった。


 心配していた症状も安定していた。いや、馬鹿な事はせず規則正しい生活を心掛けた。


 3年生になり、6月の県総体……オレたちは引退した。

 そしてオレはこの経験から、スポーツトレーナーの道を目指すことを決め進学した。

 彼女も短大には進学せず、県内の看護の方に進んでいった。お互い勉強に実習に忙しい日々を過ごしていたけど、連絡を欠かすことはしなかった。


 そして2度目の成人式。


 彼女の地区の成人式は、オレの成人式の1日前だった。

オレは彼女の成人式後に、花束を持って車で迎えに行った。彼女の振袖姿を見ることが出来て、他の同級生らを牽制出来て満足だった。

 彼女の振り袖が、てっきり定番の赤だと思っていたら、紫とピンクの中間の色だった。生地には、桜が散りばめられていて所々の桜は、金で縁取られていて角度によってはキラキラと光っていた。


 会場まで迎えに行ったオレの前で、照れながらも『どう? 』と一周してくれて……


「似合ってる。可愛いよ」


と伝えた。


 花束を持ち、同級生と写真撮影をしている彼女を見守る。


 帰りの車内でもお互いの学校の話になり、彼女は明後日に実習先が発表されるらしく『この後の2次会にも参加しないの、実習に向けて頑張んないと!』と彼女も忙しいらしい。


 彼女のご実家に送り届け、ご両親に挨拶を済ませオレは、帰宅した。時間的には短かったけど、少しの間でも会えて嬉しかった。




 高校のあの日から付き合っているオレたち。

 オレは、前回言えなかった思いを伝えた。


 もう後悔はしないと誓ったから。


 彼女もオレの気持ちに答えてくれて、本当に心から嬉しくて、もう二度と離れたりはしないし、伝えたい言葉は声に出して伝えると決めた。





 オレには数年間、覚えている過去の記憶が2つある。


 1つ目は、言い訳に出来ないほど逃げまくって、すごく後悔して終わった俺。

 2つ目は、試行錯誤して自分が後悔しないように動いたオレ。


 どちらも大事なオレ(俺)の記憶だ。


 思い出せば苦しくなる事も恐怖もある。だが、忘れようとは思わない。フッと思い出して、辛くて苦しくて手が震える事もあるけれど、そのおかげで今のオレがいる。


 オレは、俺と一緒にこれから人生を……恵さんと共に生きて行くそう決めた。





 そしてオレが俺を超えた。


 正式な日付けはわからないが、前の俺が入院していた時、三浦が恵さんを連れて来てくれたのは、たしか大学4年生になる少し前だったはずで22歳。


 複雑な心境だが、正しい方に日々を過ごせていると思う。


 何故かあの時、奇跡的にあの場所に異国の時計台に導かれた。

俺の記憶が残ったまま、オレがいて……神父さんが言っていた『戻れない』の言葉が浮かんだ。 


 もし今このいる世界が、もう1つ別の次元で……オレを俺の過去に戻してくれた。けど『前の世界には戻れない』と言われた。


(そうか……俺はあの時たぶん……。本当に理解できないような不思議なことも起こるんだな……)


 囲まれている人たちは、あの時と同じ。

 でも、あの時の俺ならこの年齢にはもういない。


 向こうの家族には悪いが、オレは、こっちで生きる。


 奇跡的に、もう一度やり直せた人生。

 2度目だからって、全てが上手く進んでいるわけでもないけど、あの時の俺のことを思えば……頑張れるオレがいるのは確かだった。


 未来から転生してきたあの日から、オレの人生であり俺の人生に上書きされていった。



 これから先は、どっちのオレ(俺)でも初めての時間だ。


 いずれオレも彼女も社会人になる、彼女は県内で就職を希望しているみたいで、もちろん俺も県内と決めている。


 就職して落ち着いたら、彼女には指輪を渡そうと決めている。

これからずっと一緒に同じ時を過ごす為に……




【和田野 健】視点でした。


次回から【加藤 恵】視点になります。

ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ