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38 和田野 健 1


(俺は……いったい何故ココにいるんだ……)


 病室のベッドから見慣れた天井を穴が開くくらい見ていた。

聞きなれたモニター音だけが響いている


(さっき母さんには話せたし……あっ……俺……このまま死ぬ……のか……)


 何故かストンと納得して目を閉じた


(どこで間違えたんだろう……)


 ベッドの上で点滴やモニターの線で繋がれて、右腕で目を押さえるにも身体が思うように動かない。


(……あ……あん時……)


 ふいに昔の事を思い出していた。



※※※



 中学を卒業し兄さんと同じ高校に、剣道部に通えることが嬉しかった。『そんなにココで剣道をしたいのなら、待ってるから来い』と誘ってくれた八巻先生。中学の3年間がもどかしかった。


 合格発表の日、剣道部の先輩たちに揉みくちゃにされたけど、やっと先生と稽古が出来ると、俺は春休みから部活に通っていた。


 2つ上の先輩には、少剣で一緒に稽古をしていた大内先輩や、兄さんの稽古に参加させてもらった時のメンバーだったから、すでに顔と名前は覚えてる。八巻先生の異動の心配も聞いたけど、俺は浮かれてて気にもしていなかった。


 俺に便乗して春休みから稽古に参加していた三浦ことガックンと、高校生活を始める準備は万全だった。


 入学しガックンとはクラスが離れたが、新しい生活に問題なく慣れた。40名のクラスメイトの半分は男子で全員覚えた。女子は……加藤恵さんは完璧に覚えた。遠くからでも探せる自信もあるくらいに。

 なぜなら入学式の朝から気になって仕方なかった人だから。

教室で彼女を初めて見たとき『俺の目の前に天使が舞い降りて来た』とさえ錯覚したくらいに衝撃だった。


 彼女とは席が隣で、中学でも剣道部でなんて嬉しい共通点もあり、すぐに仲良くなれた。俺、剣道やってて良かったと初めて思ったくらい。

 俺らの他にも三浦とか剣道部に入ったが、彼女さえいれば他はどうでもよかった。


 新入部員は最初、体力づくりから始まった。

春休みから稽古に来ていた俺は、他人の人より早めに防具をつけることが許された。当然だ。


 小学校の時だけど、八巻先生のお陰もあって一度は県の強化選手に選ばれたこともあるし。なんせ彼女が見ている。頑張れるのに決っている。


 まぁ春休みから稽古してたし、少剣で知っていた先輩がいたし、それなりに俺も有名……まぁ自分で言うのも何だけど、まあまあ知られてたし~このくらい余裕ってヤツだ。


しかし、俺としたことが誤算だった……


 俺とガックンだけ防具をつけた事によって、彼女と稽古のメニューが違ってしまった。


マジでやらかした……


 彼女が防具をつけるまで、俺は先輩達と稽古を続けた。もちろん彼女の位置を把握しながら。

 そして待ちに待った彼女が防具をつける日、俺は部室から彼女が出てくるのを待った。

 部長、副部長の順番で並び方が決まっていたが、他は学年ごとに並べばいい。要は、来た順でその日の並びが決まっていた。是が非でも隣をゲットしたかった。だから出待ちをした。『来た!』何食わぬ顔で彼女に声をかけ横を陣取る。

 片足をつき、竹刀をそっと置く。小手、面、手ぬぐいと置き、胴と垂れを颯爽と置いた。


(よし、垂れでもつけるか)


 なんて意気込んでいた俺に……『可愛い~私も欲しい~』彼女から出た言葉に驚いた。


(何のことだ? 可愛い? )


 彼女の視点の先は、俺の竹刀に付いていた鍔だった。兄さんが高校合格祝いにくれた鍔は、紫にトンボと小桜が刻印されていて、裏側は茶色なので試合でも使えるタイプだった。


 彼女はキラキラした目で見ていた。『俺のだし~無理だね』……思ってもいないことを言ってしまった。


(は……俺って最低だ……)


 言ったやさきに凹んだ。彼女は茶色や白の一般的な鍔しか知らないらしく『いいな~可愛い~』を連発しマジマジと見ていた。


(いや、そんな君の方が何倍も可愛いんだか……)


 胴と垂れをつけながらも何度か会話を楽しんでいると、目の前に部長の大内先輩が立っていた。『……随分と楽しそうだな~』と、一言。目がすわっていた。


(あっ、やべ)


 回りを確認すると俺たち以外の部員たちは、防具をつけ終わって竹刀を持ち、体操の準備をしていた。


「あっ。すんません」

「すみません」


 二人の楽しい会話は強制的に終わりを迎えた。


 稽古後は柔道部の方たちと駅まで歩くのが日課だった。何故か先輩たち仲良しで、自転車組も関係なく駅経由で帰宅していた。


 俺ん家は学校に自転車で通える距離で、駅とは方向が違かったが、彼女が電車組で自然と一緒に帰れてラッキーだった。


(本当に先輩ありがとう)


 問題があるとすれば、彼女が柔道部の先輩に連れて行かれる事だった。一日の最後の最後まで、一緒に話せる機会を先輩にもっていかれる。

 先日なんて、途中で二人で消えたし……少し遅れて駅に着いたけど二人とも様子がおかしかった。


 そんな先輩も引退していない!


 彼女も先輩と付き合ったりもしていないみたいだし、毎日楽しくて仕方なかった。


 彼女とはクラスも一緒だから、なんだかんだ一日中ずっと一緒にいた。


楽しくて楽しくてやばかった。


 しかも俺だけ『めぐ』とかって読んでて俺って幸せすぎる。

 俺もずっと苗字で呼ばれてたのに、彼女には『健くん』なんて名前で呼ばれてて、マジ特別感が~……。


 友達や先生にもある意味公認で。本当に仲良かったし、彼女だって楽しそうだったから問題なし。だったはずなんだけど……


 一年の冬休み前から体に異変を感じだした。だるいような熱っぽいような、疲れやすいというか……いつもとは回復力が違っていた。

 風邪とか何かかと思って、とりあえず放置していた。俺そこそこ鍛えてるし、体力には自信しかなかったから。

 なのに3月に宣告された【急性骨髄性白血病】なんだその病気。

 

一向に良くならない俺を心配した兄さんが、母さんに話してくれて病院で検査する事になったら、結果はこれだ。


(何言ってんだこの人は……俺、死ぬの? )


 医者の話では、投薬と入院で治せる病気らしいが医学療法? 臨床試験? だかで様子を見ながら普段の生活を送れるらしい事を話してた。


 後はよくわかんない組織の会員にされた。適合者待ちらしい。


 いや、入院とか無理っしょ。学校行きていし、彼女に会えないなんて無理。


 医者は『とりあえず薬で、入院も考えてください』なんて話してる。


 親には当然、学校にも相談していた。最悪【停学】とか【退学】とか言われたけど、彼女と離れることはありえなかった。万が一の事があるし『他の生徒には病気の事は内密に』と、話がまとまったらしい。


 俺は『冬休みからバイト始めてる』と嘘をついた、部活には参加できない。その理由も話せない。


 とりあえず退学も停学もせず進級し、無事に2年生にはなれた。しかし俺は、まだ入院していた。最短でも夏休み頃までかかるらしい。


気分は最悪だった。


最悪なことが続いた。


 彼女とクラスが違ってしまった。隣のクラスなのが唯一救いだった。


 入院中は、兄さんが準備してくれたオンラインで授業を受けた。『試験的に導入を行う』と言い、周りには誤魔化したらしい。体調のいい日は授業を受けれた。副作用がひどくて辛かったけど、早く学校に戻りたかった。


 彼女からも部活の連絡がきていたが、簡単にしか返せなかった。体調がひどい時は、俺の代わりに兄さんが返事をしてくれていた。


 6月の総体で先輩たちの引退が決まった。俺らの代になっているのに、俺は相変わらず戦力外だった。


 彼女のメールから新顧問がミーティングで、彼女が部長になることを告げたらしい。やっぱり部長になると大変そうで、俺は本当のことも言えず夏休みにも入院していた。


 数種類あった薬の副作用は、えぐいくらい辛い日々だった。体は痛いし吐き気もひどい。髪も抜けた。もともと坊主でよかったと思った。


 入院中、初めて兄さんに彼女の話をした、だからキツくても頑張れると。どんな治療にも耐えた、リハビリも逃げなかった。そんな中夏休みが終わり俺はまだ入院中だった。


 そのうち薬が上手く作用したのか、検査の数値は良好で『秋口には退院して通院にできる』と言われた。


 9月になり、とりあえず退院はできた。体調のいい日は少しだけ学校にも行けてた。けど個別でテスト三昧で、午後には帰宅させられていた。


 彼女には会えない日々が続いた。


 なるべく俺は廊下にいた。彼女がロッカーに来る時も移動教室の時も話せるように。正式に告ったわけでもないし彼氏とかでもないけど、ここまで仲良くなっていれば誰だってわかるだろう。


 彼女の方はどう思っているか怖くて聞けないが、今が楽しければ良かった。


 俺だけ下校するとき、外で体育をしている姿が遠くから見えた。相変わらず可愛くて、時間ギリギリまで見てしまった。


 こんなことになって告白していればよかったと後悔した……

いや、このまま死ぬなら告白しなくて良かったかも……


 彼女を一人置いて、俺に縛られ続ける人生なんて、考えただけでイヤだ。単なる同級生の一人として、思い出に少しでも残ってくれたら……彼女の人生の一時それだけでも。


 検査結果で日常生活に戻れる許可が下りた。放課後も残っていいと、ただ部活の許可は出なかった。見学でも彼女に会えるのは嬉しかった。


 二学期の始業式放課後、書類を職員室に提出をしていて、少し遅れて武道館に行った。


 俺は武道館に急いだ、彼女と会いたい。みんなと話したい。

ワクワクしながら武道館の扉を開けた。


『お~みんな~久しぶり~元気だったか? 』


 声が震えた。いや大丈夫ちゃんと言えたはずだ。


(あれ? おかしい……武道館ってこんなに静かだったか……)


 武道館に入った俺に笑顔で出迎えてくれる人はいなかった。


 そして、彼女からの言葉が信じられなかった。


(そっか……俺はただ単に、部活をサボっていただけだと思われているのか……)


 彼女も俺の方を向こうとしない。


(もう、ここには俺の居場所はない……ダメだ怖い)


 目の前が真っ暗になって頭痛がした。


 俺は気がついたら武道館を飛び出していた、怖くて振り返ることすらできなかった。俺があんなに頑張ったのは、学校に武道館に彼女の元に戻りたかったから。


 もうそれすら出来ないなんて、全部の意味なくないか……


 俺はすぐ学校を飛び出した。家に着くまでの記憶がなかった。


 あの日以来、彼女からは部活の連絡は変わらず来ていた、けど俺にはもう何もかもがどうでもよかった。


 武道館での彼女の目、怖かった。俺と目が合ったのは一瞬だったけど……だいぶ怒ってた。

 どうせあんなに頑張った剣道も今は出来ない。


 あんなに怒らせた、もう嫌われた。


 彼女の隣に立つ資格は……ないんだ。


 そのまま避け続けて3年生に。

学校側の特別な対応に何故か進級出来た。

彼女とはクラスが違かった。……安心した。


 剣道部も県総体が終わり引退。運動部のやつらは引退し受験に切り替わっていた。


 彼女からの連絡もなくなった。


 最初茶化していた周りのヤツにも何も言われなくなった。そのまま何事もなく卒業式……結局、何も話せなかった。


 俺は卒業後じいちゃんの店の手伝いをして過ごした。古びた喫茶店だが居心地は良かった。


 進学や他に就職も考えたが、俺の体力的にはこれが一番楽だった。


 車の免許もとった。彼女の地元に行ってみたかったから。彼女の地元はここから電車で乗り継いで次の駅だった。県内の短大に通っていることは、三浦から聞いていたから知ってた。だから駅で会えるかもと思った。


 自宅までは知らなかったから、彼女の地元の駅で待ってたら会えるかと、近くの駐車場で待っていた。一目でもいいから会いたかった。


 自分から避けてたくせに、情けないがそれだけ彼女が心から好きだった。


 けど一度も会えなかった。


 じいちゃんの店に行ったり病院に行ったり、それなりに過ごしていた。


過ごしていたはずだった……


少し内容が重複しますが【和田野 健】視点です。

すみません。もう少し続きます。

よろしくお願いします。


ありがとうございました。

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