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36 マスターとリューズ 1


教会のような、どこかの図書館のような不思議な建物の中に、その方はどっしりと座っていた。


その建物の広さは、バスケットボールのコートぐらいで、高さはそこそこあるがあまり広いとはいえない。

窓もほとんどないが、高い位置に魔法石があるためか、正面のステンドグラスがあるからか、さほど暗くも感じない。


中世のロマネスク建築を思わせる石造りで白を基調とし、派手さも複雑な彫刻も、祈りやミサを行えるような長机も祭壇すらない。


そこにあるのは、たくさんの本が並んである本棚と、一組の机と椅子だけ。

その本棚も3層になっていて、どこかの王立図書館のように配置されていた。本棚の所々にも先ほどの魔法石が白く淡く光っていた。

まさに教会のような図書館のような不思議な空間だった。




その建物の椅子にどっしりと座り、マスターは古の本に触れた。

おでこの広い白髪混じりで、同じく白い口髭が立派で丸メガネをし、年一回赤い服を着てプレゼントを配りそうな姿は消え、長身細身で黒髪、黒目。その鋭い目を隠すかのように黒縁メガネの姿に戻り姿勢を正す。


「……本は、増えるでしょうか……」


マスターは机上にある古の本をそっとなでた。



数分後……



机上の本が光り、古の本の上に真新しい本が姿を現した。


「彼女のもう一つの新しい世界が誕生しましたか……」


リューズと共に過去に送り届けた女性を思い出しながら、マスターは嬉しそうに机の前に立ち新しく生まれた本をパラパラとめくる。


「こ、これは……先程の青年とつながっていましたか……」


マスターは『そうでしたか、彼らが…… 』と嬉しそうに頷いている。



-シュン-



「マスター。今、帰りました」

「おかえりリューズ。お疲れ様でした」


リューズが先程の女性のサポートを終えて戻ってきた。

マスターは増えた本をリューズに見せた。


「あの子も本が増えました。サポートありがとう」

「彼女は、加藤恵さんという方で……タイムラグ無しで願いを叶えました」


マスターは、手に持っていた本をパタンと閉じ本を見つめる。


「タイムラグ無しで、ですか……それは、それは。……あの不思議な子と繋がってましたよ」


手にしている一冊の本をリューズに託した。


「我々の想像を越える事も起こるのですね。先程の本の隣に並べて頂けますか? 」

「……? あの私が転移できなかった件ですか? 」

「そうです。あの時の本です」

「わかりました」


リューズは、マスターから本を受け取ると長い体を器用に滑らかに動かし、目的の本棚に向かう。リューズが本をしまいマスターの所へ戻る。


「ありがとうございます。では、戻りますか? 」


マスターが机から、後のステンドグラスの方に歩きだす。


「はい。……少しお聞きしても宜しいですか? 」

「はい。大丈夫ですよ」

「先程の本ですが、あの増えた本の隣に並べましたが……何の関係があるのですか?……たしかあの本は……」

「そうです。あの本の主は、肉体を離れてもなお強い意思で、ココにたどり着いた青年のモノです」


マスターは、古の本を両手で大事に持ち、スズランのステンドグラスから差し込む光の中にいた。マスターは返事の後、スッと消えた。その後を追いかけるようにリューズも光の中に消えていった。




※※※



その少し前……


いつもの大聖堂……

重厚な数々の石でロマネスク建築を用いられて作られた大聖堂のような空間。


マスターは、いつものように無数に広がるパラレルワールドの歪みを修正していた。

軌道が歪むと無数にある別々の世界が、一時的にでも繋がってしまう恐れがあり、タイムワープが発生しないように歪みの修正が必要になるのだ。


その日も変わらず過ごしていた。


大聖堂には、各惑星へ繋がる入口がいくつもあり、その入口の両側には魔法石で作られたランプが備え付けられている。


ボッ……ボッ……


その中の一ヵ所……魔法石のランプが光る。


今、光ったのは第7惑星へと繋がる部屋の入口。 


その光が示す理由は……


誰かが転移門を発生させ、その門をくぐり……こちら側に来る

その合図……なのだが……


二人はその魔法石の魔力に気が付き、次の行動に移す。


「マスター? こ、これは? 」

「……リューズは、いつものように準備を……」


今日も誰かの強い想いで発生した転移門。

時空を越え過去に戻るために、その資格があるのか試験を行うために。


二人は不自然に灯る魔法石の前に立ち止まり、お互いに目で合図をし静かにその部屋へ入る。

時空が歪みそこは、いつもの一室に。


マスターは、ゆっくりと歩き、先ほど持っていた本を机上に置くと重たそうにどっしりと椅子に座り来客を待った。


机に置かれた本は、その歴史を感じさせるくらい古く、表紙はすでに何が書いてあったのかさえ読み取れないほど色あせていた。


マスターは自分を落ち着かせるように、手でそっと表紙を撫で、目をつぶり、より深く深呼吸をする。今日も公平の判断をしていただけるように、本に語りかける。


しかし転移門を発生させた来客が来ない。


誰も来ない。 


「……ん……」


マスターは少し考え込み、元の姿へと戻った。

身軽になった体を起こし、間違いなく魔法石が光ったことを思い出す。


「ん……誤作動はしないはずなんですが……」


マスターは、その建物の外に出てみることに。


扉を開けた先には、そこには全身が半透明の青年が立っていた。

青年は呆然と時計台を見ていて、自分が何故ここに居るのか、理解していないようだった。


「珍しいお客さんだね。どうぞ、こちらに」


マスターは、その青年に声をかけ建物の中に招き入れた。

突然話しかけられた青年は驚き、不思議な顔をしながらも……


「失礼します」


と礼儀正しくついて来てくれた。

マスターは、目の前の彼が転移門を発生させたのか確かめたかったので……


「君は過去に行きたいのかい? 」


なんて唐突に質問をしてみた。

青年は何かに思い当たったのか、ビクリと肩を上下させたが、それでも何も答えはしなかった。


マスターは『もう一度、ここへたどり着けたのならば、過去に戻してあげる』と約束した。

【戻りたいと思う強い意志があるなら来れるから】と。


マスターは、青年に向けてただ一つ条件をつけた。

青年は気づいていないだろうが、もう余命は幾日もないだろう。

この、肉体を持たない青年の場合は、過去へ転生したらこちら側の世界には戻れない。

どんな姿形でも、今の記憶の中の家族には会えない。


「それでもいいなら、またおいで」


青年は目を見開いたまま消えてしまった。


通常なら【一時的に自分の過去の身体に意識が乗り移る】または【自分自身の意識、体とともに過去に行く】どちらが転移した時に自動的に判別される。


過去への心残りが解消されると、自分の世界に戻れるが、その人が関わった人たちの過去にも影響は及ばない。

が、もし何らかの変化があった場合は、その時点からその人の別の世界が作り出される。

今回この青年の場合は、元の世界(体)に戻る事は出来そうにはない。


「……あれ? マスター? 元の姿に? 私も転移されませんが、何かありましたか? 」


リューズが心配そうに姿を現した。


「珍しい青年が来ました。が、彼の場合は一時的転移ではなく、戻れない状態の転生になるので一度ご帰宅していただきました。次にくる時は覚悟が決まっているかと……」


マスターは先ほど持ってきた古の本を手に取り優しく撫でた。


「さて、今回は戻りましよう」


2人はまた大聖堂へ繋がる光の中に戻っていった。




※※※




数日後……



ボッ……ボッ……


魔宝石のランプが不自然に光る。


「マスター……これは、この前と同じでは? 」

「そうかもしれませんね。リューズはいつものように準備をお願いします」

「はい」


大聖堂から不自然に光る魔法石へ近付き、視界が歪み、あの部屋に変わる。

いつものようにリューズの姿は消え、マスターもふくよかなおじいさんになっていた。

ステンドグラス前の机にどっしりと座り、古の方の表紙をそっと撫で、目をつぶりより深く深呼吸をする。

そして前回彼に会った姿に、おじいさんの姿からいつものマスターの姿に戻り、彼が来るのを待った。


コンコンコン……


「失礼します。また来ました」

「どうぞ、こちらに」


やはりあの時の青年が現れたが、前回より透明度が増していた。

マスターはその青年を見て『今が、もうギリギリ』ということだろうと察した。

青年は躊躇することもなく、マスターの机のそばに来て、前回とは比べられないほどに、凛として立っていた。


マスターをまっすぐ見つめる青年の覚悟は決まっているように見えた。

マスターは机に置かれている古の本をさしながら……


「手を置いてごらん」


青年は不思議そうにも頷き、殆ど透けている右手を置いた。


本は優しく光り、そして消えた。


無事に審査をクリア出来たことに、マスターは安堵した。

前回話した同じ忠告をして『開いてごらん。中にあなたが、戻りたいと願う日が書いてあるから』と声をかけた。


青年は不思議そうに本から変化した箱を開き、中の紙を取り出し絶句した。


「これって……」


青年は特別な事例ではあるが、やはり書かれている日付を確認した後の反応はみんな同じなんだなとマスターは優しく微笑み頷いた。

行き先は本が選んだ分岐点、当事者なら心あたりがある日のはずだ。

マスターは『いっておいで……』と彼に声をかけた。

それを合図に青年も例外でもなく、目の前から消え過去へと無事に転生した。


マスターは珍しく深く息をはいた、無意識にも肩に力が入っていたのだろう自分の体が強張っていたことに苦笑いした。


「マスター……? 」


また不思議そうにリューズが現れた。


「お疲れ様です。やはり先日の青年でした。今回はリューズのお手伝いは無用でしたね」


そう、箱の中は日付けが記載してある紙のみで、懐中時計は入っていなかった。


「よろしいのでしょうか? 何も説明とかもしていませんが? 」


今までの転移者には、必ずリューズがサポートに入っていた。転移先には移動できるが、過去の時間軸を動かせるのは別の話だった。毎回リューズが同行をしていたのはその為だった。


「あの青年なら大丈夫です。きっと大丈夫。この本もリューズに同行させなかったのは、そう判断したのでしょう」

「……はい」

「転生した先で同じ時間を過ごし、彼の分岐点を乗り越えるのをしばらく待ちましょう。青年の新たな本が誕生する事を信じて、待ちましょう」


マスターとリューズの間に沈黙が続く。


「マスターはいつも転移者を送り出した後、待っている時は、このような感じなんですか? 」


リューズにとっては珍しい時間だったと思いながらも、マスターにとっても滅多にない時間だった。


「そうですね。いつもならリューズがサポートして付き添っていただいているので、時間的にも余りかかってはいませんし、心配もありません。しかし今日は少し落ち着かないので違いますね」

「その青年は先日と違っていたのですか? 」

「はい。それは確実に」

「心配ですが、信じて待つしかないですもんね」

「彼は大丈夫です。もう心は決まっていましたから」



数分後、マスターの古の本が光り出しその上に新しく本が現れた。


「マスター! よかったですね」


「はい。彼は頑張りましたね。自ら創り出した新たな世界で頑張ってくれるでしょう」


机にはマスターの古の本と真新しい本が並んでいた。

マスターは新しい本を手に取り中をパラパラとめくった。


「それではリューズ、この本をあの本棚に並べていただけますか? 」

「はい」


リューズはマスターから新しい本を受け取ると嬉しそうに教会の天井を一周し、指定された本棚へと並べた。


「本当に良かったです。では我々も戻りましょう」




詰め込みすぎました。

すみません。


ありがとうございました。

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