35 現在に戻り……
視界が定まってきた恵は……
「……ここって……路地裏?」
辺りを見回し、隣町の住宅街だという事がわかった。
恵はとっさに腕時計を確認すると、秒針が規則正しく時を刻んでいた。
そして自分1人だと気付き、その路地裏から今度はリューズを探した。
(まだ近くにいるかもしれない……)
恵は朝の記憶を頼りに走り出した。
(たしか、住宅街の影になっていて、裏道みたいな……あの細い石畳の道に行けば……)
住宅街を抜け、ひたすら進む。
(あっ。たしか、あの奥に!)
と角を曲がったら……小さな公園に行き着いた。
辺りを見回しても石畳みの道はなく、奥までキレイにアスファルトで舗装させている。
目の前の現れたその公園は、小さな砂場やブランコ、滑り台と最低限の遊具があるだけだった。トイレは無く二人掛けのベンチが2ヶ所、入り口の側に設営されていた。
公園の敷地に入っても石畳の道も視界が歪むことも、そこの公園にもリューズの姿はなかった。
ふらふらとベンチに座り、呆然と膝を見ていた。ハタと思い出し恵は首から下げていたマスターの懐中時計を探した。無い。次に慌てて鞄の中を確認すると、彼の鍔と【紙】はあった。
「……夢?……でも、これ……」
その【紙】には、恵が戻りたいと願った過去の日付が変わらず書いてあった。些細な紙の凹凸に裏を確認すると、スズランの絵が書かれてあった。懐中時計や時計台のステンドグラスと同じ花。
「……私……過去に行けたの? 」
恵はそのまま小さな公園のベンチに座り、鞄から彼の鍔を取り出し小さな傷を指でなぞる。
今だに過去に戻れたのかは半信半疑の状態ではある恵だが、やはり彼の口から当時の空白だった経緯を教えてもらえたのは大きい。
(……お揃いの鍔、付けてた……)
リューズが時間を操作してくれて、最後に武道館で稽古をしていた二人のお揃いの鍔を見て、一緒に稽古は出来なくても同じ目標に同じ方向に意識が向いている事が幸せそうで、羨ましくて、憎らしくて……
(……私あの時、私も稽古に行かなくちゃ……って彼の所に戻らなくちゃ……って思った。何故だろう……あそこには彼女がいて……もう、どうしようもないのに……)
恵は、どうしていいのか解らなくなっていた。
あの2人の未来は変わった事は、リューズに見せてもらえた。
(きっとあの後、無事に引退や卒業して就職や進学して……変わらず2人でたくさんの話をしていくんだろうな……)
恵はヤりきれない思いが溢れていた。
『……こうやって会えて言葉にしないと、伝わらないんだって……』
(私にも、あの勇気があれば……伝えたい時に言葉にしないと、伝わらない……)
河川敷での彼の言葉が繰り返し聞こえてくる。
あの時、単に正義感だけで、恵が正しいと思い込んでいただけで、何も確かめもせず事実を知ろうともしなかった。
恵もあの一歩が踏み出せたなら、未来の私が変えてくれたなら……今が変わっていたはずで。
でもそれが出来ていないから……だから……
過去に戻りたかった。
(私の今は変わらない……何も変わっていない……)
恵はベンチから動けなかった。
短くてすみません。
次回から少しマスター、リューズ視点に入ります。
ありがとうございました。




