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「今日、部活に来れたなら……昨日にでも連絡くれても良かったのに……」

「……ぁ、あ~ごめん。そう、だよね。昨日でも話しておけば良かったよ、ね」

「……あの、ね。……さっきは……ごめんなさい」


彼も制服の彼女もその後の話が続かなくなっていた。


そのうち河川敷に着いた2人は、自転車を桜の木のそばに止め、川沿いの一定間隔に、いくつか設営されているベンチに座っている。

その様子を、桜の木に寄りかかりながら恵とリューズが見守っていた。


「あのさ……」

「……うん」

「オレの方こそごめん」


ベンチの右側に座っていた彼が、手で太ももの付けねを押さえながら深々と頭を下げた。

剣道の【礼】の様なキレイな形だった。

驚いた彼女は、プルプルと首を横に降っている。

体制を戻した彼は、今までの経緯を話し始めた。


「……実はさ……去年……1年の冬、昇段審査が終わったくらいの時。なんだか体がダルくてさ……風邪だと思ってそのままにしてたんだ……」

「……うん」

「……気にはしてたんだ。早めに寝るとか、風邪薬とかも飲んでた」

「……うん」

「新年の……初稽古も出来た。けど……ダルさが残ってて……成人式に出席する為に、たまたま大学から兄さんが家に戻ってきた時に……何気なくその時にダルさが取れないし疲れやすいかもって話して……一度、親と病院に行くと話しになったんだ」

「……」


制服の彼女は膝上にリュックを抱えながら、ベンチに座り相づちをしていた。が、彼からの病院という言葉に過剰に反応して、ギュッとリュックを抱き締めた。


相変わらず彼に視線を向けることは出来ていない。


「何だかんだ検査をして……春休みから入院してた」

「えっ……春休みに入院!? バイトは? 」

「行って、ない」


2年生になり部活を休みがちになっていた頃、彼は通院をしていたのだろう。1年生の冬休み前からバイトをすると話していた時期と重なる。


「だ、だって……春休みとか夏休みだって……私、部活の予定連絡した時は返信あったし……それに、それに……」


やっと彼の方に顔を向けられた制服の彼女は、彼が今までバイトに忙しくて部活をサボっていたと思っていた。


恵も同じだった。


だからこそ武道館に現れた彼を罵倒した。


【もう、あなたなんて……いらない】


と、とらえられても良いように話した。

他の部員の手前、誰かがしなくてはいけなかった。

なら、部長の恵の仕事だった。


あの時の恵は、発した言葉を……


【そのままの意味でとらえないで】


と思って話した。

だから、いつもと違って彼の顔を見れずに、言葉だけで拒絶したのだ。


【違うの!本当は違うから!気付いて!!】


と……自分な勝手な思想で。



どんなに相思相愛で、永く連れ添ったご夫婦でも相手の意思を汲み取れるのはごく稀な一部の方々だ。

それを、高校生の付き合ってもいない2人が、意思疎通なんて無理に等しい……


恵は、そのうち秘かに話そうと思ってもいた。

他の部員にはバレないようにすればいいと、簡単に。

時間はいくらでもあるから……と


「……いつでも話せると思っていた。病気の事なんて言わなくても、あの場所に戻れると思っていた。……けど違かった」

「……」

「めぐたちに……何も言わなかったオレにも責任はある。今思えば甘えてたんだと思う。心配をさせたくないとも思ってはいたけど……やっぱり……こうやって会えて言葉にしないと、伝わらないんだって」

「……」

「……めぐ……やり直させてくれないか? 今のオレには剣道をやるのは厳しい。けど、みんなのサポートなら出来るはずだから。無理はしない病院にもちゃんと行く……だから、明日から部活に行っても……構わないだろうか? また、君の隣にいても迷惑にならないだろうか? 」


恵の……鞄の紐を握りしめていた手が白さを増す。

目は彼をしっかりと見つめ、一言も逃さないように彼の言葉を聞いていた。


そして改めて後悔していた。


いつでも話せると思っていたのは同じだった。けど、結局当時の恵たちは、2人とも歩み寄ることは出来なかった。


恵はあの時、追い掛けていれさえすれば彼女と同じ未来を見れたのではないだろうか。話せる時に話さなければ、その機会すらいつ来るか解らないのだから。


武道館でも、病院でも何も話せなかった。

結局、恵は当時から何も変わっていなかった。


「……うん」

「よ、良かった~……ありがとう。齋藤先生には了解は得てたけど、めぐに何て言われるか不安だったから……やり直すのに遅い事は無いんだ」


彼は空を見上げ、ふぅ~と息をはいて肩の力が抜けていった。


恵はリューズの方へ向き……


「……帰ろっか。断罪は止められなかったけど、何とか上手くいったみたいだし、ね」


恵は彼らから離れるように歩きだした。これ以上、見ていられなかった。


羨ましかった。


彼から直接事情を聞けて、彼女が新たな未来を進む。


けど、恵の今は何も変わらない……



ありがとうございました。

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