32
(お願い助けて……誰か……)
その時、首から下げていた懐中時計が光りフワリと浮かんだ……
「……えっ? 」
「恵、今なら触れる!」
リューズが恵の手を引いて立ち上がらせながら叫んでいた。
恵は、うんと頷きながら制服の自分の背中を両手で押した。
ドン…
[えっ…]
((早く行って追いかけて!ちゃんと話して!!))
バタン……
制服の彼女はガクンと前に倒れそうになったが、右足を半歩前に出すだけで転びはしなかった。恵の方を振り返り不思議な顔をしていたが、そのまま武道館を出ていった。
ハタハタと足音が聞こえる……
「……よ、良かった~……」
恵はその姿を見て安堵し力が抜けた。そして制服の彼女の感覚が残る自分の手を見つめ呆然と立ち尽くしていた。
最初は肩をつかんで動かそうとしたがダメだった。
リューズから説明を受けてはいたが、忘れてたし必死でもあった。
「まだ、終わってないでしょ!?」
突然リューズに手をひっぱられ、武道館の扉をすり抜ける。
外に出たと思ったら視界が歪み……
「ちょっ……なに……」
バタン……
制服の彼女が武道館から出てきた。
「えっ? 」
「時間を少し戻した。僕らも行くよ。まだ終わってないんでしょ!?」
恵とリューズは、武道館から渡り廊下を出て校舎に入って行く制服を追いかける。校舎に入ると、奥の窓際に彼の姿が見えた
《健くん!待って!!》
2人の恵の声が重なる。
窓から外を見ていた彼が、呼び止めて走っている制服の彼女に気が付いて驚いていた。
彼の前に制服の彼女が、その少し後ろに恵とリューズが追い付いた。
「あ、あの……今からバイトとかあるの? 休み? 大丈夫なら……いっ、一緒に帰りたい」
制服の彼女は申し訳ないように話している。
いつもの恵なら考えられないくらいの小さな声で。
まぁ、数分前にあれだけ啖呵を切ったのだから、気まずいのはそうだろう。
「何も予定は無いから、帰るだけだけど……」
「なら……一緒に帰ろ。カバン持ってくるから昇降口で待ってて!」
制服の彼女が、今来た廊下を再び走り武道館に戻っていった。
その後ろ姿を見ていた彼が……
「追い掛けて来てくれてたんだ……帰んなくて良かった……ありがとう」
そうボソッとつぶやき昇降口の方へ歩きだした。
彼は靴を履き替え自転車を取りにいったん駐輪場に向かう。
そのまま自転車に乗らず、昇降口に戻ってくると廊下からパタパタと走る音が近づいて来る。
「おっ、お待たせ」
外靴をトントンと鳴らしながら、カバンを背負った制服の彼女が戻ってきた。
「相変わらず元気だな~。もう帰っても良かったのか?」
「うん。今日は、ミーティングだけだし大丈夫」
2人は昇降口で交流し正門の方へ歩きだした。
学校前の信号を直進するのは、いつも部活後に帰る駅までのルートだった。
「こうやって一緒に帰るの久しぶりだね」
先輩たちがいた頃は、剣道部と柔道部は同じ時間まで稽古をして、必ず先輩も後輩も電車組も自転車組もいっさい関係なく、いったん駅まで行くのが恒例だった。
「……そう、だね。オレ部活行けなかったから久しぶりだ」
恵とリューズは、少し離れて歩いているが話し声は聞こえていた。踏み切りを渡り彼が指をさし、彼と制服の彼女は駅には向かわず白岩川の河川敷に向かった。
ありがとうございました。




