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恵は、彼の部員札を見つめながら無意識に封印していた記憶をたどっていた。
ここ数ヵ月で思い出した記憶だった。
高校で過ごした日々は辛く、自分でもよく乗り越えたと思う。
親も教師も誰も助けてはくれなかった。
『お前が悪い』
『お前が何とかしろ』
『わかっているだろう? 』
もう、鈍感になるしか無かった。
痛くない、辛くない、まだ平気、これくらいナンデモナイ……
気持ちを少しでも軽くしたくて、部員とも愚痴を言いながらお互いを慰めるだけだった。
部活も高校も『後、数ヵ月のガマン……』『あと、何日で終わる……』と自分に言い聞かせていた。
彼の事など忘れたように……
三浦ですら当時の彼の事を疑っていた。
まさか、闘病中だったなど思いもしなかっただろう。
あんなに家族ぐるみで仲が良かったのに、全く気が付かなかったらしい。
三浦からは何度も『俺が和田野の異変に、気が付いていれさえすれば……』と後悔していた。
周りの大人がきちんと説明していれば、恵たちが彼と話していれば誤解なんて起きなかったはずだった。
恵は、武道館の部員札からリューズの方に振り返り……
「……あのね……リューズ聞いて欲しいことがあるの」
久しぶりに武道館に入り、彼の部員札を見て溢れ出た思い出を胸に、恵はリューズに声をかけた。
リューズは、フワリと浮かび、武道館の神棚をまじまじと見ていた。そのリューズが恵の声で顔を向ける。
「ん? なに? 改まって」
恵はリューズに向けて、ここに来た目的を思いを告げた。
【今から行われる断罪を止める】
恵はその為に過去に戻りたかった。
あの時、余裕がなかったのは自分が未熟だったからだ。
相手の気持ちをきちんと確認もせず、あたかも自分が正しいと。その振りかざした正義感と考えの甘さ……。
相手が変わってしまったと勝手に勘違いをして、悪いのは全て相手だと。
本当の事を見ようとも、確認しようともしなかった。
無駄な正義感と変なプライド……
封印が解けたこの思い出を引きずって過ごすのは嫌だった。
無理だ。
言葉で被弾したあの時、彼の後を追いかけることは他の部員の手前もあり容易に出来なかった。
なんとかギリギリ続けていた部活動。
恵には部員同士に芽生えた結束力を失う方が、彼を失うより怖かった。
また、何かあったら生徒指導室に呼び出される……
おまえが、どうにかしろ!部長だろ。
と、言う無音の声が聞こえてくる。
親に相談しても、先生が絶対で取り入って貰えなかった。
担任に話しても、学年主任に話しても『剣道部も大変だな~頑張れ……』と言われるだけだった。
先輩たちからは『剣道部を潰すなよ』しか言われなかった。
私たちが何を訴えても齋藤先生とは一向に解り合えなかった。
他に頼れる人はいなかった。
もう、何もかも八方塞がりで1つでも原因を断ちたかった。
何にも考えていなさそうで、ヘラヘラと武道館に来た彼に怒りが向いてしまった。
苦しい時に助けて欲しかった。
一緒にいて悩んで欲しかった。
先生の指導内容が、異状なくらい威圧的だとか、もうどうしようも無いと諦めていたから。悪あがきせずにただ、時間だけが過ぎていく現状でも側にいて一緒に励ましながら耐えしのぎたかった。
けど…
あの時の恵には出来なかった。
何もかもが幼すぎた。
ありがとうございました。




