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重い話が続いています。

ご理解ください。


大河原高校は長期休業に限りバイトが許されていた。

剣道部も例外もなくバイトをしている人はいた。

恵は欲しいモノがバイトをしてまで無かったし、休みは家でグダグダ過ごすのが通例だったので届出は不要だった。


基本的に強豪校でもない剣道部は、午前中のみのゆるい稽古になっていたので、バイトをしている人たちには午後からシフトを入れるようにとお願いをしていた。

部員の少ない剣道部で、稽古を休まれる方が困るから。


各自、バイトと部活の両立しながら長期の休みを過ごしていたが1人だけ一度も顔を出さない人がいた。


和田野 健くんだ。


2学年になり健くんとは違うクラスになったが、会えば変わらずよく廊下で話していたはずで、お互い告白とかはしていないけど公認の様になっていた、らしい。


1年生の時から周りの人たちからも『夫婦漫才みたいだな~』とか『加藤、悪いがこのプリント和田野に……違う旦那に渡してくれないか?』とかよく比喩された。


しかし、恵たちは付き合ってはいない。

手とかも繋いだりも1度もない。


1年生の時は、体育が男女別だったくらいで殆ど一緒にいた。

部活に行くのも一緒だし、平日も休日も稽古があったから、ほぼ毎日同じ時間を過ごしていた。


今思えば移動教室で席が離れても、彼は不思議と隣にいた。

調理実習や被服室での作業の時も何かと側にいた。さすがに授業中は動いては来なかったが、周りが付き合っていると思うのは当然だったかもしれない。


恵の記憶では、2年生になっても楽しく一緒にいたような気がしていた。クラスが離れたから同じ時間とはいえないが。


だが、彼は春休み前から部活を休みがちにはなっていた。何かと用事があり休む日が多くなっていた。

1年の冬休み前からバイトをする!と宣言はしていたが。


部長になる前にも仲の良かった恵は、彼が部活を休むたび、そのつど次の稽古内容をメールで連絡はしていた。


【明日の部活は9:00からだから、8:30までには武道館集合だよ!】

【明日は、気温が高くなるから防具付けない稽古だけど飲み物忘れないように!】


などなど諸連絡をしていた。


健くんは、小学生で県の強化選手に選ばれて、中学でも敢闘賞に選ばれたこともあるらしい。なら齋藤先生だって期待してると思うし。

恵も何かと頼りたかった。


しかし夏休みが終わっても彼は部活を休んでいた。クラスを覗いても彼はいなかった。恵の高校は、朝のショートホームルームでも出欠確認はしない。特に仲が良くなければ誰が登校していて、誰が休んでいるかなんて気にもしない。


部活の連絡後に簡単な返信は向こうからも来ていたし、事前に休みの時は連絡があったが……


実力があるから余裕なのか、齋藤先生との稽古が嫌なのか部活を休む理由はわからなかった。


恵を含め、他の部員はイヤでもなんとか日々の稽古を乗りきっていた。夏休み前半は希望者の夏期講習があり、勉強は好きではないが稽古に比べては楽だった。それくらい武道館に行くのが辛すぎた。


先生の求めている稽古は、とにかくハードだった。

隣で稽古をしている柔道部の畳の上や武道館の壁、外まで体当たりや竹刀で飛ばされたりしていた。


高校から増えた技【突き】の稽古でも、容赦なく後ろに吹き飛ばされた。一瞬息が出来なくなるくらい。首を曲げたりして下手に避けると、首筋に竹刀があたり危険だった。


投げ飛ばされ、倒され思いっきり打ち込まれガンっと首まで衝撃で痛みがはしる。そんな毎日の当たり前の稽古。だから打ち身や擦り傷などのケガも常に体のどこかにあった。


そのうち高校から初めた知恵ちゃんが左足の小指を骨折した。

先生への打ち込み後の動作が遅く、先生の竹刀で後ろから体を押され武道館の南側の扉から外に投げ出されたからだ。


武道館には、神棚がある正面以外は扉がある。その扉の先には低めの階段があり稽古の時は開けていた。休憩の時など数人で座って涼むのが定番だった場所。


2年目だから初心者とは言えないが、まだ初段も取っていないのに容赦なく稽古を付ける。


経験者すら辛い稽古なのに、まだ2年目の知恵ちゃんの頑張る姿に頭すら上がらなかったのに、先生はお構いなしに竹刀を振り落とす。


結局また、稽古が出来る部員が1人減ってしまった。

結果1人に対しての稽古の辛さが増えた。


そもそも【県1位!】とか【全国大会出場!】なんて目標にすらしていない。そんな目標があるなら、そもそもこの高校を選ぶはずもない。


何故なら同じ南地区に、絶対王者の千田高校があったからだ。

体育科のある千田高校は、男女個人も団体も優勝の常連高で有名だった。

試合も秒単位で決着をつけられるほど、力の差は歴然としていた。同級生なのに世界が違って見える程、向こうは剣道一色な感じだった。


恵たちは、そこまで強さを求めてはいなかった。


だからこそ何度も話し合いをしたのに、全く稽古の質は変わらなかった。


あれは指導の範囲だったのか疑問に残る。



何とかハードな夏休みを乗り越えて、毎日稽古に来ていたメンバーとは変な団結力が生まれたのは良かったが、その分9月に入っても稽古に来ない健くんとは、先生とは違う温度差がうまれていた。


とりあえず登校はしているみたいだが、教室にいる姿はなかった。


1学期期末テストに短い秋休みを終えて迎えたのが……

恵が戻りたいと願った2学期始業式のこの日だった。


恵はあの日、久しぶりに武道館に来た彼に正義感を押し付けた。





ありがとうございました。

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