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「えっ? ま、待って! 私はどうしたらいいの? 鍵掛かってるよね? 武道館の鍵って体育教官室だっけ? 職員室? いや、でも行ったところで貸してもらえる? 」
恵があたふたしていると、リューズが戻ってきて申し訳なさそうに……
「……あ~ごめん。言ってなかったっけ?基本的にうちらは、浮いてるし他人からは見えない。そして、モノには触れれるけど、動かせない。動かせたら怪奇現象になっちゃうからね~そっちの方が面白いけど~。まっ、と言うことで、壁とか扉とかすり抜けられるよ」
『ほら』みたいな顔をして、リューズは楽しそうに扉を通り抜けていった。
「後半は教えてもらってない!」
恵はリューズに向けて訴えたが、すでに姿は無い。
「……そっか、このまま通れるんだ……」
恵は武道館の扉の前にある2段の階段を上り、右手を前に出し扉に触る。そのまま前に押すと右手は何の抵抗もなくスッと手首まで入った。
「……うっ」
恵は右手首が無い恐怖と不思議な感覚に手を戻してしまう。
(な、なんかヤダ……)
それを見かねたリューズが、隣の扉から半分だけ体を飛び出してきて恵の手を引いた。
「えっ!?」
(…うっ わっ)
恵は無意識に目をつぶってしまい、驚きに何も言えなかった。が、汗くさいような畳の匂いのような武道館の独特の空気感を感じ目を開けた。
「……懐かしい。武道館……変わらない」
夕方で武道館の電気が付いていないので、始めはそこそこ暗い感じがしたが懐かしさがまさった。
武道館は、入って右側が剣道場、左側が柔道場と半分に別れていた。入り口から正面の壁には神棚が鎮座されている。
恵はそのまま入り口で、その神棚……武道館全体に意識を向け一礼をした。
(失礼します)
顔を上げた恵は、躊躇うことなく剣道場へ足を進めた。
壊れて使えなかったシャワー室や、部活の予定表が書かれているホワイトボード、清涼飲料水やアイスシングする為の氷などを入れておく小さい冷蔵庫、部員の防具棚とグルッと見回す。
「……変わってない」
時間を戻しているのだから当時の恵の記憶のままなのだが、やはり懐かしさ勝ってしまう。
恵はそのまま鏡が設置されている壁の方に向かう。
そこには全身を写せる鏡の他に、歴代の部員の名前がかかげてある。その壁を見上げ、一番木の色が若々しい所で足が止まる。
「……あった」
そこには自分たちの代の名前があった。
部長だった恵を筆頭に、男子部員2名、女子部員2名の部員札。
高校が創立してから百数年、同じくらい続いている伝統ある剣道部。だいぶ前の先輩方の札もあるが、過去10年分くらいしか残ってはいない。
その先輩たちと面識があるのは、ごく一部の方々でほとんど知らない人だった。1つ上と、2つ上の先輩方はもちろん、しっかり覚えている。お世話になったし、楽しかったから。顔も一致するくらい余裕だ。
しかも先日の健くんのお葬式にも、この中の何名かの先輩と会ったばかりだった。
それ以上年上の先輩方で知っているのは、恵が高1の時に顧問の八巻先生を慕って稽古に来た卒業生の数名だけだった。
(今だに武道館に来ると変に緊張する……)
恵がなぜ無意識にも5年前の高校2年生に戻りたかったのか。
その理由でもある1人の部員札から目を離せずにいた。
ありがとうございました。




