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恵はリューズにペコリと頭を下げた。


その後2人は正門から正面玄関口がある校舎の左側を通り、野球部やサッカー部が使うグランドと、第2駐車場との間を体育館の方に歩いていく。

グラウンドにも校舎からも生徒の声は聞こえなかった。

まだホームルームの時間帯なのだろうと想像する。


体育館と北校舎の間から、武道館の屋根が見えた。

古すぎて元が赤なのか茶色なのかさえ区別がつかない屋根。

駐車場から北校舎の隣にある運動部の部室まで来ると、体育館と武道館につながる渡り廊下が見えてきた。


(懐かしい……)


運動部の部室はプレハブ2階建てで、2階はバスケ、バレー、バド、卓球と主に女子部が割り振りされていた。その下はそのまま男子部。


運動部は、登校後教室に行かず一度部室に寄るのが、何故かお決まりだった。昇降口には行かず、部室で外靴からスリッパに履き替える生徒もいれば、置き勉と言れる教科書を取りに行く人、その日の部活の用具を置きに来る人と様々だった。


恵たち剣道部は、先輩の代も不思議ときちんと昇降口を使うし、置き勉をする人も一部の部員だけだった。

他の部と違い部室が武道館内だった事もあり、逆に遠く感じたのも大きい。

部活の用具も胴着、袴は素材によっては毎日洗っても支障は無いが、モノによっては簡単に乾かないので洗えない。袴はアイロンもかけるとなると重労働だった。

毎日洗うとしたら、手拭い2枚と小手用の手袋くらいだったので、わざわざ朝に置きに来なくても問題がない量だった。


稽古後は洗えない分、防具を含めスプレータイプの消臭剤に大変お世話になった。もし、あの臭いを一回のスプレーで消せる品物が出たらノーベル平和賞を貰えるだろうと思う。化学賞とかではなく、平和賞を贈りたい。経験者なら分かると思うが、あの臭いとの格闘に終わりはないからだ。心の平和のためにも是非そちらをお願いしたい。


部室の扉の横に設置されている部ごとに違う個性的なプレートを見て、不思議と忘れていた思い出までもがあふれてきていた。


(変わらない……)


恵は予期せぬ思い出に浸りながら、こうして歩いている間にも、リューズからいろいろな説明を受けていた。


「えっと……あのイスに座っていたおじいさんは、マスターといい……空間軸を司るお方で~……目の前の龍……リューズは、時間軸を司るお方……? 」


(やっぱりサンタさんじゃなかったのね)

なんて思っていたのは内緒。


「そうだね。さっき本みたいなのに触ったでしょ? 審査されたんだ。あそこで光ったから合格なんだよ。で、紙に示された分岐点にマスターの力で空間(過去)に送ってもらえたって事」


本に触れた時に、無意識にも戻りたい【過去】が表示される仕組みになっていたらしい。


「手当たり次第で、過去に送り飛ばされてもイヤでしょ?まっ、僕もいるし何とかなるんだけどね。とりあえずアレで、どこの分岐点に戻りたいのか、戻る資格があるのか試されたんだ」

「審査か……光らない人もいるの? 」

「一定人数はいるよ。誰でも戻れるとは限らないんだ。恵の世界でいう【徳】を積まないとダメみたいだね」

「……トクね……」


恵は、徳と言われても意識して生活してはいないのでピンとは、こなかった。


「結局は、その人のそれまでの生き方らしいよ。恵はそれを合格したって事だから、今まで頑張って来たんだね~良かったじゃん~ 」

「頑張ったか……悔いが残っている事ばかりだけど……」

「僕らに会えて、こうやって過去に来れたんだから自信持って大丈夫だよ。万が一の事があれば、多少なら時間を動かせるから。今のうちに気になることある? 」


どうやら、ここからの時間はリューズが動かせるらしい。

『時間動かそうか?』と言われたが、封印していた分の3年間で戻りたい時なんて無かった。


もし、やり直すとしたら違う高校を受験し直したいくらいに。

だから……


「大丈夫……16時で……」


もう一つ大事な事も説明が追加されたのは、武道館に着いた時だった。


「今、恵自身の過去には間違いない。けど、ここで何らかの変化を起こせても、今生きている恵の時空には影響は出ない。そこも覚えておいて……」

「……うん。わかった」


その説明は、現実世界の和田野健との再会も別れも何一つ変わらない。紛れもない恵自身の人生ということだった。


単に今のココ(過去)に存在している彼女(高校時代の恵)の、ここからの未来の選択肢が変わり、恵とは別のパラレルワールドが増えるかもという事である。変わるという事は、恵の過去であっても、彼女の未来は別ルートという方が分かりやすいかもしれない。


別次元の世界、その分岐点を境に本体とは関わる事は無く、その世界で新たに彼女の人生が始まる。


そして、その分岐点は誰にでも、いくつもの可能性があり、無意識にでもどの道を選ぶかで全く違った未来がある。


(これから起こる断罪を止めて、私の過ごしてきた時間と彼女が向かう未来を変える。もしも……同じところに行き着いたとしても……この後悔を引きずるのは苦しすぎる)


恵の返事を聞きリューズは武道館の扉をすり抜けた。






ありがとうございました。

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