21
「……さぁ、ここに手をかざしてごらん」
机の前まで歩いてきた恵は、おじいさんの声に固まってしまった。
あからさまに驚き、肩が上下したのは仕方ない。
(えっ? 私は何も話してないよね? きちんと挨拶すらしてないのに……)
イスにどっしりと座っているおじいさんは、白髪交じりの口髭を蓄え、丸メガネをしていた。
その人は、一年に一度赤い服を着てプレゼントを配るような方にも見えた。着ている服こそ違うが、雰囲気はあの方にそっくりだった。
そして、それ以上何も言わずニコニコと恵を見つめている。
(えっ? ここにって……この机の上にある古そうな本のこと? )
おじいさんの前にある小さなテーブル、本棚と同じような木で出来ていて、黒くツヤツヤと光沢があった。その上に紫の布がひいてあり、いかにも古そうな本が一冊置いてある。
恵は、机に置かれている本とおじいさんを何度か往復していた。
先程のおじいさんの言葉を理解しようと必死だ。
(本に手をかざす……かざす……触っていいのかな? )
恵の右手が、恐る恐る机の上の本に近づく。
左手はカバンの紐を離せない。
机の上に置いてある紫の本、表紙の中心はだいぶ色あせていて傷んでいた。幾何学的な模様や歯車など描かれていて、わり算のひっ算に似たような感じの文字が金色でいくつか書いてあった。背表紙は濃い紫で、表紙と同じような文字とツタのような模様が同じく金色で描かれていた。
右手をそっと、本の表紙へと向けて動かし……
そっと……触れた……
恵が右手を置いて間もなく本が光だした。
熱いとかは感じないが、太陽のような強さではなく満月の月明りのような優しい白い光。
その光は一瞬で消えてしまった。
驚いた恵は本から手を離し、自分の手と本とおじいさんを見つめる。
おじいさんは右手でお髭をなでながらコクコク頷き……
「合格ですよ。それを、あけてごらん」
とだけ恵に告げた。
(合格? それを……あける? )
疑問でいっぱいの恵だが、言われた通りに本を開いてみた。
見るからに古そうな本を壊さないように恐る恐る触る。
(え? これって箱?)
机の上にあったのは、本の装飾をした箱だった。中は光沢のあるグレーの布が施されてあり宝石箱のような大小の仕切りで区切られていた。
小さい方にはカードみたいな紙が入っていて、大きい方にはシルバーの懐中時計が入っていた。
(わ~キレイ……)
「取り出して見てごらん」
恵はコクりと頷き、箱の中から長いチェーンが付いている懐中時計を取り出した。
「まずお守りの時計だから、そのまま首にかけて」
恵は言われた通りに箱から出した懐中時計を首に下げる。
片手におさまるシルバーの懐中時計は、スズランが彫刻されていて、見るからにアンティークだとわかる品物だ。
おじいさんは、恵が首にかけるのを確認すると嬉しそうに頷き……
「次に……その紙に書かれているのが、あなたが戻りたい過去だよ。きっと身に覚えがあるはず」
(えっ? なんて言ったの? 私の戻りたい過去? )
恵は、小さい方に入っていた紙を手にし、慌てて書かれている文字を確認した。
【20xx/10/1 16:00 大河原高等学校 武道館】
「えっ…… 」
恵はその紙に記載してある文字を見て、身に覚えのありすぎる日時に驚いた。おじいさんはニコニコしたまま……
「……気を付けて、行っておいで……」
おじいさんの声と同時に視界が歪んだ
ありがとうございました。




