20
恵は数日前の事を振り返り、いつの間にか足が止まっていた。
石畳の道から顔を上げれば、すぐ目の前に時計台が見えた。
最後にこの坂を登れば着く。
恵は、彼に対しての後悔と自分のくだらない正義感を、やり直す意を改めて強く願って、坂道を上がり始めた。
登りきった所に石造りの大きな建物が現れた。
恵は歴史を感じるその建物を見上げ、時計の大きさにも驚いていた。
(なんて大きい時計なの……この大きさだからどこからでも見えるわけね……)
その建物の前を何回か往復する。
(看板とかは無いし、入り口もあそこしか無いように見えるけど……)
建物に近づき、扉に触れてみる。
恵より大きい観音開きの扉は、木で出来ているが枠が鉄で補強されていて、それだけでもとても重そうに見えた。
(ん~…中でワインとか保管してる建物とかだったらどうしよう……)
恵は扉から一旦離れ、改めて辺りを見回す。
建物の周りや近くの木にも、いま歩いてきた道ですら、案内も何も、この建物を示すモノは書かれてはいない。
恵はこのまま建物に入っても大丈夫なのか悩んでいた。
(どうしよう~とりあえず……聞いてみようかな? )
恵は思いきって木の扉をノックした。
コン、コン、コン……
中からは何も聞こえなかった。
(どうしよう……誰もいないのかな? そもそもココって入口ですらないのかな? 勝手に開けても大丈夫かな? )
恵はどうしたらいいのか悩んだが、ここまで来て帰るわけにもいかなかった。
返事は無かったが扉を思いきって押した
ギィ……ギィギィー……
「すみません……おじゃま……します……」
恵は、とりあえず声を出しながら片方の扉をゆっくりと押してみた。鍵は掛かっていなかったし、思っていたほど重くはなかった。
覗きながら一歩だけ中に入るが、まだ目が慣れなくて薄暗い。
「そのまま中に、お入り~」
恵は、突然の声に驚いた。
逃げるわけにもいかず扉を丁寧に閉め、男性の声が聞こえた奥の方に進む。
目が少しずつ慣れてきて、奥のイスに人影が見えた。
不思議なその建物はワイン倉庫ではなかった。
恵が入った扉から真っ直ぐ赤紫の絨毯が敷いてあり、その通路を挟んで両側には左右対照的に本棚がたくさんあった。
古そうな木で出来ている本棚は、磨かれているかのように黒光りしていた。その本棚も床から天井付近まで続いていて、三階建てのようだった。
所々にある柱は白い大理石の様で、天使とかの置物は見えなかったが、その1つ1つの、柱にも繊細な装飾が施されていた。まるで、どこかの国の王立図書館の様な規模にも見えた。
不思議な事に、どの棚にも同じような背表紙の本が並べられていて、色も大きさも同じだが、本の厚みだけがそれぞれ違って見えた。窓は無かったが不思議と暗くはない。
(ここ……教会? 図書館? )
恵が入ってきた入り口から通路の正面上には、スズランをモチーフにしたステンドグラスが見えた。キラキラと外の光を射しているのが見えるが、ミサを行えるような長椅子も祭壇すらなかった。
あるのは、無数の本と規則正しく設置されている本棚。そして、あのステンドグラスの真下、恵の正面に見えるおじいさんと、座っているイスと小さな机。
(どうしよう……中に入って来ちゃった。ここは、どこですか? とか聞けないし……絶対に私、不審者だよね……私は過去に戻りたいだけでどう説明したらいいの? )
扉から真っ直ぐゆっくりと歩く恵は、無意識に斜めにかけたカバンの肩紐をギュッと握りしめていた。
(わ~おじいさんの前まで来ちゃった……)
ありがとうございました。




