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急いで車に乗り込み会社から一番近いコンビニに向かった。

家に帰るまで我慢が出来ず、その駐車場の一角をお借りして折り返しの電話をかけてみる。


「もしもし、三浦さんの携帯ですか? 加藤と申しますが……あの~私の携帯に留守番電話が……」


『「部長? 俺だよ!覚えてる? 久しぶり~良かった番号変わってなくて助かった~」』


留守電の主は、高校の同級生で間違いなかった。


「三浦くん? あの三浦くん? 」


恵の中で同じ高校で剣道部だったのは、三浦しか他の【三浦】はいない。


『「あのって、何か語弊がある言い方じゃないか? 」』


「いや、いや。知らない人からの着信って、基本的にこっちが出れる時に電話が来ないと無視だから!」


『「え~折り返し電話下さい!ってメッセージ残したじゃん。留守電に言うの恥ずかしかったんだよ!」』


「いや、私の方が知らない番号だし~掛け直す勇気使ったから! まず、メールとかでも良かったのでは? 」


『「あっ。そっか……メールか……考えもしなかった~」』


「私じゃなかったら、どうしてたの? 」


『「いや、とりあえず掛けてみようかと……まぁ、いいじゃん。部長だし」』


三浦は『良かった、良かった』と一人で納得していた。


なんらかの都合で携帯の番号を変える人はいるし、恵に用事があったとしても突然電話はやっぱり怖い。


固定番号ならある程度の地域の特定は出きるし、知らない着信も予めネットで検索すればお店の名前とかなら出てくるので、また掛かってきて取る前に、相手のおおよその要件など予想を立てることは可能だが、携帯の番号からはさすがに特定するのは無理にひとしい。


この時代、折り返しとかワンクリック詐欺とかで、どこに何が仕込まれているのか疑わないと危ないし、固定電話も何らかの勧誘とか電子音でアンケート的な事とか、親戚の不幸でしか使われてない気もする。


恵は基本的には、知らない番号でも出る。かかってくれば普通にとる。世間の方でたまに不機嫌に出る方もいるが、恵はそこまで態度を表すことは出来ないタイプの人間だった。


「何か、久しぶりなのにウケる」


ひとしきり近辺報告に他愛もない会話と時間を忘れて話していた。


恵の母校でもある大河原高校は1学年7クラスあって、三浦とは1度も同じクラスにはならなかったが、部活が一緒だった為なんだかんだ仲が良かった。

高校の思い出をだいぶ忘れている恵に、呆れながら当時の話をしてくれた三浦は相変わらず話しやすい良いヤツで……変わっていなかった。


『「もしかして、部長ってもう社会人? 」』


唐突な三浦からの質問に、恵は身構えてしまった。社会人なら、多少お金に余裕があると思うのは勝手な考えだろうが、何かの勧誘とかなら迷惑だ。


「う、うん。そうだけど……」


(だから何? とは言えない)


『「そっか~この時間終わるなら、平日は無理か…次の休みいつ?土日なら空いてる感じなの? 」』


(なんか失礼な質問されてないか? )


「今の時期、うちの会社棚卸しで忙しいから帰宅時間が遅いけど……通常は17:00までで17:30には退社出来るホワイトな会社ですけど~。しかも日曜日と祝日はお休みだし。まぁ~第1、第3の土曜日は工場動かすから交代で半日仕事だけど……」


三浦からの沈黙が怖い。


『「いや、実はさ……次の仕事が休みの時でいいから会ってほしいヤツいるんだ」』


(会ってほしいヤツ? 大学生? 私、出会い求めてないな……)


『「……和田野が……あいつが入院してる……もう…長くないらしい……」』


三浦からの突然すぎる連絡は彼の事でのお願いだった。あまりにも現実離れしている話で、始め何を言っているのか理解が出来なかった。


(えっ? 和田野? )


『「部長? 大丈夫? 俺も一緒に行くから次の休みの日に頼む! 」』


三浦から今までの彼の経緯を聞きながら、恵は当時の……高校時代の自分の過ちを呪った。


その日は、次の休みに会う約束をして電話を切った。


すでに電話は終わっていたが、すぐに恵は動く事が出来なかった。三浦の言葉が信じられず、自分の顔が反射しているスマホの画面を見つめていた。

そのままコンビニの駐車場で何台か車を見送ってしまった。



ようやくして両親と2つ下の弟と暮らす自宅に帰宅出来た恵は、ラップで準備されていた夕食を1人で食べた。暖めもせず着替えもしないで食べていた所に、お風呂上がりの弟が来て何かを話したのだが頭に入ってこない。


食べ終えた食器とお弁当箱と水筒を洗い、そのままお風呂に直行した。


(彼が入院? ……私が今さら会ってもいいの? )


いつの間にか準備されていた洗い立てのパジャマも、肩にかけたタオルを越えて背中を濡らしている髪にも家族の『おやすみ』にも気が付かず、荷物を片手に階段を上がる。


階段を上がってすぐ正面に見える扉が恵の部屋だ。引戸を開け電気を付けローテーブルに荷物を置き、鏡台のイスに座り鏡に向かい会う自分と目が合った。


はたとタオルで髪をゴシゴシしながら、鏡越しに写る部屋を眺めた。思い出すもなにも、帰宅して見渡しても高校の思い出のモノは全く無い。良い思い出なんて無かった3年間、卒業してすぐに制服も何もかも押し入れの中にしまい込んだ。


やっと卒業出来て、もうあの学校に行かなくてもいいと安堵した。当然、その後の離任式や同窓会にも参加していない。


(あんなに避けられてた彼に、今さら私に会いたいと思うだろうか……)



それしか考えられなかった。







ありがとうございました

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