18 時計台へ
待ち望んだ休日の朝。この日は祝日で仕事もお休み。
時刻は9時少し前。
最近の恵なら、まだ布団の中で寝ている時間だった。
そんな時間にも関わらず、恵はすでにあのサイトでピンが記載してあった隣町の駅に着いていた。
今朝、まだ家にいる時に『いっ、いってらっしゃい……? 』と母親に言われ送り出された。
(えっ? 噛んだ? )
と、突っ込まなかったのを誉めてほしい。
母親としては、よっぽど休日に出歩く娘が物珍しかったのか、それとも逆に仕事と間違えられていないか不安だった。
さすがに普段着だし、昨日のうちに朝から出掛けることは軽く話してるから大丈夫だと願いたい。
(お母さん手が止まってる……)
茶の間のテーブル全面に、新聞紙を広げて朝から数種類の多肉植物を並べ広げている。
(朝からお母さんの方がよっぽど変だと思うけど……)
寄せ植えの趣味を楽しんでいたはずの母親の手は、ピンセットを持ったまま固まっていた。そんな母親の視線も気にせず、恵は久しぶりに駅に向かった。
ピンの場所は車でも行ける場所だったが、狭い道の運転に自信がなかった。なら歩いて探そうと隣町までは電車でと決めた。
休日の8時代の電車は空いていたが、一駅だけという事もあり座らず扉の前に立っていた。
隣町までに車窓からも時計台を探してみた。
(さすがに無いか……)
電車から降りてすぐに、駅構内にある案内の地図も確認したけど、時計台の記載はなかった。が、とりあえず駅から出てこの周辺から歩く事にした。
恵は駅正面でもあるメインの東口から外に出た。
まだ梅雨明けの発表はされていないのに雲一つ無い晴天。駅前に設備されている花壇の紫陽花や木々は、朝露のお陰なのかキレイで眩しいくらいだった。
スマホを片手にサイトで見た場所あたりに向かう。
(ある程度なら車で通ったこともあるし、サイトの地図を見ながら行けばどうにかなるはず、行けばわかる大丈夫……)
駅を出た時には、まだ体力も気力も余裕があった。
(健くんの鍔もカバンに入ってるし、日本だし見つかる!大丈夫!!)
……
……
……
無い……
言い訳に聞こえるかもしれないが、恵はけっして方向音痴では無い方だ。けれど歩き回っても時計台みたいな建物は無かった。
……
……
「サイトの地図では……ん? ……この辺みたいなんだけど……」
(ここって……どこかな?……ん……ん? )
サイトの地図と現在地を確認しながら歩いた。
ネットの情報が正しいのか、あやしいツリ的な情報だとか疑いもせず。ただひたすらに見えない誰かに救いを求めるかのように。教会のような時計台みたいな建物をひたすら探した。
よく分からない路地裏にも、住宅街や公共施設も関係なく通れるところは全て歩き回った。ウロウロし過ぎて不審者の様に見えるかもしれないが、それどころではなかった。
「あれ? ん? ここどこ? ……え? 」
いつの間にか住宅地の路地裏に迷い込んでしまった。通り抜け出来るか不安だったけど、なぜか吸い込まれるように入ってみたココは、住宅の影だからか空気が一瞬冷えたような感覚になった。
そのまま、その道を歩いた。石畳の道を疑問も感じない程に、奥に何かに導かれるように真っ直ぐ歩いた。
途中、位置を確認したくてスマホを見たが重くて通話もネットもGPSさえも使えなかった。
(アハハは……どうしよう……完全に迷子かも……)
戻ろうか先に進もうか悩みながら辺りを見回す……と
「えっ!? わ!! あれ……あった……時計台? あっ……あった……良かった……」
石造りのアーチが見えて『とりあえず、あそこまで歩いてみるか』と、そこを潜り抜けようと通って顔をあげたら突然に時計台が……
(きっと、あそこだ!! あそこに行けば……過去に戻れる!)
その建物を目指して歩いた。
小高い岡の上にあるらしきその建物は、どこを歩いていても時計が見える高さにあった。相変わらずスマホは反応しないけど、もうどうでもよかった。
その石畳の道を時計の見える方に向かいながら進んだ。
少しずつ時計が大きく見えるようになってきた。
恵は時計台の方に歩きながら、卒業してから高校時代の記憶を無意識とはいえ封印していた事を後悔していた。
高校卒業後に、とりあえず夢もやりたい事も無かった。
一日でも早くあの高校から卒業したかった。
だから当時の、恵の学力でも入れる進学先を探した。
とりあえず実家からでも通える範囲なら、どこでも良かった。
何となく目に付いた短大に決めた。
入学してからも何事もなく、新しい環境で新しい友人たちと日々を普通に過ごし、何一つ問題もなくそのまま卒業した。短大を卒業した後は、とりあえず普通に会社の事務員として社会人になっていた。
短大から社会人になるのも、今の会社を選んだのも何となくで……
時間の流れに逆らわず、疑問にも思わず学生とは違う毎日を過ごしていた。
高校時代や健くんとの思い出は、パンドラの箱に厳重に保管し、脳が思い出さないように心の奥底に沈めていた。
あの日まで……
ありがとうございました。




