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ハズだった!それなのに……
隣に置かれている竹刀こそ、普通に竹で男子高校生用ではあるが……
鍔!付いているツバが!
恵の使っていたツバは普通の茶色のツバだった。白も見た事はあるが、中学から始めたモノにはそれを使うことは技術的にも精神的にも変に目立つ事じたい厳しかった。なのに、高校に入ってこんなキレイなツバがあって、しかも同級生が持っていて……思わず……
「何これ? キレイー……私も欲しい!! 」
と、何も考えず話した事があった。
健くんは、お兄さんの影響で幼稚園に入る前から剣道を始めていた。小学生になり、お兄さんの所属していた地元の少年剣道に入団した。大会の成績も優秀で一時は県の強化選手にも選ばれた事もあったらしい。周りからの期待も実力もあったのは、防具を見ても判断が付いた。
何故ならよくよく見ると、面紐の牛革も裏地も……胴にも家紋が入っていて……金具や面、小手の生地の藍色と一般的だったが……他の細部、名前の刺繍も落ち着いた紫で統一されていた。
カルチャーショックだったのは、言うまでもなく……
その紫のキレイな鍔を唐突に欲しいと話した。
健くんは驚きながらも、やんわりと……諭すように……
「あっ……これ?いいだろ~高校の入学祝に兄さんから貰ったんだ……だから、あげない」
「うん。すごーくキレイ! だから欲しい! 」
「……俺の話し聞いてた? 」
何だかんだワーワー話をしている間に、先輩たちは竹刀を持ち体操の準備をしていた。
それも気付かず話し込んでいた恵たちは、案の定部長に怒られ……話しもそこで強制的に終ってしまって……
部活後は、久々に面を付けての稽古だったのもあり疲れすぎて鍔の事はすっかり忘れていた。
(ふふっ……懐かしい……)
あの時は、彼のお兄さんからのプレゼントだからって断られたのも頷ける。今、こうやって見てもキレイで可愛かった。
あの時の事を彼が覚えていてくれた事が嬉しくて、その無数の小さなキズ一つ一つも愛おしかった。
当時、何げなく過ごしていた日常を思い出しまた涙が溢れた。
いくら何度、後悔し涙しても……
何も戻ってこない
誰彼かまわず怒りをぶつけても……何も変わらない
久しぶりに再会し何も言えなかったこの思いも……
もう二度と……会えない彼も……
すべてが何も変わらない……
今の恵は、朝になれば仕事に行き夕方には帰宅する。ただ、それだけが今の恵の現状だから。
無意識に避けてきた結果だった。
戻れるなら可能なら、やり直せるなら"過去に"あの時の自分に教えてやりたい!
"その決断は、考えは間違いだから!!"
と。
思い違いをしていた、あの頃に戻りたい……
ありがとうございました。




