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自宅に戻り、礼服から着替えてベッドに倒れ込んだ。カバンからさきほど譲り受けたツバを取り出し部屋の照明に向けて眺めていた。
見覚えのある紫のツバ。小桜にトンボが数匹刻印されていて、いくつかキズが付いていた。葬祭会館の剣道用具の一式と一緒に置いてあったモノだった。恵はベッドに仰向けになったまま、そのツバを両手で胸の前で包み込み目を閉じた。
このツバを初めて見た時の事を思い出していた。
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あの頃、恵たちはまだ入部したての1年生だった……
最初の部活は、剣道部のチームジャージで体力作りが中心だった。
中学と高校の剣道の仕方が違うのと、受験でなまった体を慣らすためで、なにより怪我の防止でもあった。前半は体力作り、休憩を挟んで後半は素振りや先輩方の稽古の見学やタイマーなどの補佐をしていた。
ある程度体力が戻った1年生から、防具を着けての稽古への参加許可がおりる事になっていた。
ある日の稽古後、やっと恵にも参加許可でもある垂ネームを八巻先生から頂いた。
「次の稽古から着替えて参加するように」
信じられず返事が出来なかった恵に八巻先生から……
「ん? いらないの? 」
と垂ネームを後ろに隠されてしまった。
「……ッは、はい。ありがとうございます。頑張ります!」
と元気に高校用の垂ネームを受け取った。
新品な垂ネームを見て、やっと一人前の部員になれた気がした。先輩たちと同じ字体で同じ高校名で、すごく嬉しかった。すぐに防具棚にある、自分の垂に装着した。
稽古に参加できるその初日。高校に入って新調した紺の袴にやっと着替えられ、先輩たちと稽古を出来る喜びも緊張もあった。
女子の部室で胴着、袴に着替え稽古用の手拭いと竹刀を片手に剣道場に入った。
いったん竹刀を端に置き、部員の防具を入れる棚へ向かう。棚から見える垂れには、先日頂いたばかりの高校用の垂ネームが付いている。
【大河原高校 加藤】
目の前の自分の防具一式を取り出す。手拭いを無造作に面の中に入れ、胴、垂れ、小手とともにまとめて右腕で抱き抱えるように持つ。
竹刀を左手で持ち先輩たちのスペースを開け、列の一番最後の方に向かう。
道場の上座に近い方から、男女部長、男女副部長の順に並び3年生、2年生と来る。人数も多い剣道部は1年生の座る場所は入り口側まで端になる。
防具を持ったまま、だいたいの場所を考えていると……
「俺らはこの辺から」
と声をかけられた。
私たちより人足先に先輩と稽古をしていた健くんだった。
「……ありがとう」
私はそのまま健くんの隣に並び、防具を落とさないように、左膝を付き音がしないように竹刀をそっと置いた。
その後、両手で防具を持ち袴に気を付けながら両膝を付き、防具を左腕に抱える。
自由になった右手で、小手を取り出し揃えて並べ、その上に面を置く。面と小手を隠すかのように胴を置き、その上に垂れを置いた。
正座をし面紐を整えたら、1枚の手拭いを顎にもう1枚を面紐の上に置き、胴着、袴の乱れがないか確認し垂、胴を装着していく。
両手を後ろに回し、最後に胴の紐を結ぶ。弛いところがないか引っ張りながら、その日の稽古の目標を考える。中学生から慣れている一連動作だが、高校での初稽古の為にドキドキしていた。
していたのに……
稽古の事を考えている最中にフッと右隣に置かれていた竹刀の鍔が目に止まった。
もう、何を考えていたのかさえ吹き飛ぶくらいの衝撃だった。
中学に入り剣道という世界を初めて知り、黒、紺、白の胴着や袴。白と赤のタスキ……竹やカーボンの竹刀。
オシャレをする場所は手拭いや汗ふきタオルと他の部活より少なかった。
ありがとうございました。




