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本来なら病院に行っている日、恵は母親と喪服を買いに来ていた。
恵の両親も祖父母たちも元気な為、まだ買い揃えてはいなかったからだ。
「黒のワンピースに、一枚羽織るジャケットは襟ありの方がいいかしら……」
恵の母親は、ジャケットの襟があるタイプと無いタイプを見比べ悩んでいた。
「パンツタイプもあるけど、ワンピースでいいと思う。そうね~年齢の割に恵は落ち着いた感じだから、襟ありのタイプのジャケットでも問題ないわね」
「私も着るならワンピースの方がいいかな。袖の長さも違いがあるんだ……」
恵の話をスルーして、母親は次にワンピースタイプで襟があるタイプの喪服を何着が選び見比べている。
「ジャケットがあるから、袖は五分丈の短いのでいいと思うわ。けど、スカート丈は大事だから……」
1着ずつ恵に押し当てては『長い』『短い』と振り分けていった。恵はされるがままで、幼き子供のようにジッとしていた。
「ジャケットって、暑くても着るの? 」
「会館内は涼しいと思うけど……通夜だし……今後使うから~」
『あった方がいい』と、恵は母親に言われるがまま、次から次へと店内を移動する。
「靴に、バッグ……ふくさ……パールのネックレスは白の方が良いかしらね……まだ若いし黒よりは白がいいわよね……そうそう数珠もふくさと同じ紫にしましょ」
恵は、指折り数えながら次から次と決めていく母親の後ろをついていった。
「ハンカチは?ストッキングも黒持ってた? 」
「ありません」
先方にご迷惑にならないようにと、母親が見繕ってくれている。
「さすがにマニキュアは付けては無かったわよね? 」
「マニキュア? あ~ネイル? 付けてない。磨いてるだけ」
恵の母親は、手袋の前に立ち止まり恵に確認をしている。両手を出した恵は『ほら』と爪を見せた。
「なら、手袋はいらないわね」
恵は、ここまで色や形に暗黙があったのは知らなかった。一緒に付いてアドバイスをしていた年配女性の定員さんと『一通り全部揃いましたね』と言われ、そのまま恵は試着室に通された。
お店にあった短いタイプのストッキングをお借りして、一揃え着替えてみる。
試着室から出てきて早々に……
「ネックレスの長さは、このタイプしか無いのかしら? 」
と、母親が定員さんと話し始めた。試着室側にいたもう一人の定員さんが、少し短めのタイプを持ってきてくれて付け替える。
「ワンピースに被らない方が見た目もいいので、こちらの方で良いかと……」
恵の母親は『今、着けてる短い方にします』と決めると『少し歩いてみて』と今度は恵に指示を出してきた。
「うん。スカート丈も大丈夫ね……当日は髪もまとめてね」
『余計な飾りの無い黒のヘアゴムよ。ある? 』と恵に話しながら店内をクルクルと回り歩かせると、恵の母親は納得したように『よし』と頷いていた。
定員さんが椅子を持ってきてくれていて『どうぞ座ってみてください』と言われたので、恵は鞄を膝の上に置き座ってみる。
「座った時のスカートの丈も問題ないかと思います」
「もう少し長くても良さそうだけど~大丈夫かしら? 」
「フレアタイプのワンピースなので正座の時も安心ですし、長さは丁度いいかと」
定員さんは椅子に座っている恵のスカートをさし『まだお若いので』と恵の母親に向けて話している。
(そうなんだ? )
なんて顔をしていたのがバレたのか、定員さんにニコッとされ『これなら大丈夫です』と合格点をいただいた。
(揃えるのって大変……)
恵の母親は定員さんに『これで』と告げたのを合図に、恵はまた試着室に通された。
帰宅してからも、ふくさの使い方やご霊前の書き方、お金の入れ方などを教えてもらいながら準備する。
会館に入るとすぐに受付があり『一般』にて、名前と住所を記入し返礼品を受けとるなど、初めて参列する通夜の流れも教えて貰った。『会場の指示に従えば大丈夫だから』と一通りの説明をされたが、それが彼の為の葬儀とは思えなかった。
ここまで準備をしてても、どうしても実感が無かった。
後日、彼との本当のお別れが来てしまったと痛感させられる事になる。
ありがとうございました。




