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彼の部屋は洋室で、入ってすぐ二段ベッドが目についた。
布団があり寝るのは下、上のスペースは荷物置きとして有効利用されていた。
ベッドの他にも学習机や剣道の防具、ビニールに入ったままの竹刀が数本、テレビ、大会の賞状やメダルなどがキレイに整頓されていた。淡いクリーム色の木目のロータイプのタンスの上には、剣道の月刊誌やDVD、竹刀の先に付ける緑の重りなどが置いてあった。
そこには、写真も何枚か置いてあって……
「……これって……? 」
「あ~この写真オレも持ってる! 」
「そうだよね~懐かしい。うちら幼いね」
「オレらが高1の県総体の写真だからな。引退後わざわざ大内先輩が人数分持ってきてくれたんだよな~。こん時の大会の会場が遠くて前泊入れて3泊だったから、合宿みたいで楽しかったの覚えてるわ~」
恵たちが気が付いた写真は、高1の時の県総体の集合写真だった。
集合写真は、一番最前列の真ん中に八巻先生が紺のジャケットにグレーのパンツ、赤いネクタイと審判服で座っていた。
その八巻先生から左側に男子部長の大内先輩と他の男子の先輩、右側に女子部長の中島先輩と他の女子の先輩、3年生の主力メンバーが並んでいた。
その後には他の先輩たちも男女別で並んでいて、私たち1年生は両端に分かれ3列目に立って写っていた。
部員全員、男子は上下とも紺の胴着と袴。女子は白の胴着に紺の袴に着替えている。きちんと胴、垂れも装着しているのを見ると初日の開会式後に撮影したのだとわかる。
恵たちも初めて参加した県総体は、他の大会と違い部員全員が開会式で入場行進をする。先頭の生徒は高校名が書かれているプラカードを持ち、男子から2名ずつ並び女子が続く。
前年度に団体優勝した高校以外は、五十音順で呼ばれた高校から体育館を一周する形で歩き、大会運営の先生の誘導場所まで着くと男子の横に女子が並ぶ。部員数によってはそのまま2列の学校もあるが、1つの高校で最大4列になる。最後に入場するのが、前年度男子団体優勝校、女子団体優勝校だった。他の高校と同じく、大会本部前を通過し体育館を一周したのち、ど真ん中を最前列まで歩いてくる。
2列目、3列目に左右で分かれ並ばされていた高校が、大会運営の先生の指示で中央に寄ると程なくして開会宣言のアナウンスがなる。
後は普通に開会式が行われていく。大会によっては有段者の剣士2名が公開演武として剣道形を披露したりする事もある。
剣道は他のスポーツ、武道より競技人口が少ない。年齢が上がる度に減少していく為、この県総体の開会式だけは登録選手のみでは無く、部員全員が参加出来る仕様になっている。
必然的に観覧者の数も増えるため、数多くの防具屋さんなどが協賛として参加もしている。なので県総体のパンフレットの質も厚みも他の大会とは桁が違う。結果的に開会式が他の大会とは規模が違い、時間がかかるのは言うまでもない。
「……私、この写真久しぶりに見たかも。どこにしまったっけ? 」
「……さすが部長だわ~得意の封印な」
恵はムッとして三浦をにらんでしまったけど無意識にも記憶を封印していた為に、写真の存在は覚えているが部屋のどこにあるか不明だった。
「……その写真、ずっと飾ってて。高校の部活で健が写っている唯一の集合写真だからって」
彼のお兄さんの話で、恵と三浦はハッとして目が合った。
高2の県総体は撮っていない。しかも彼は2年の春以降は部活には、ほとんど来ていなかった。
当時恵たちには知らされていなかったが、すでに闘病中のころだ。
武道館や大会の時は、生徒はスマホは持ち歩けない。だから確実に部員は撮影は出来ない。保護者が撮らないと残ってはいない。
「ほら、アイツ。卒アルの撮影とかも病院で行けなかったらしいし。高校で防具付けて写ってるのソレだけみたいなんだわ~。
アハハ~撮影日忘れて病院の予約取るとかって、バカだよな~さぁ下に戻るか~」
言い終わるか、終わらないかのタイミングで彼のお兄さんは部屋を後にし、階段を下りていった。
(いや……違う理由が……笑えない……)
恵たち二人は同じことを思っていただろうが、言葉には出来なかった。
(健くんは撮影日を忘れたのではなくて、武道館には来れなかったはずだから……今さら、ご家族に何も言えないし……)
恵たちは、一言も話せず階段を下りた。とてつもなく大きな罪悪感と共に。
階段を下りリビングで彼のお母さんに、改めて当日の参列をさせて頂く事を伝えた。何かお手伝い出来ることは無いかと訪ねても『今まで十分して頂いたから、あなたたちこそ無理しないでね』と。
お忙しい中、突然お邪魔してしまった謝罪をし恵たちは帰宅した。
その後、三浦と分かれ家に着いても直接彼を見ていない恵は、再度留守電の彼のお母さんの言葉『……今朝方早くに息をひきとったの。今は自宅に……』を何度聞いていてもしっくり来なかった。
先ほど、彼の自宅で頂いた葬儀の時間や供養の日にちが示されている葬祭会館の紙を眺めても、不思議と涙は出なかった。
彼の名前などが書いてあるのに、実感がなかった。
ありがとうございました。




