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1 再会

+++ 訪問者 : 加藤 恵 +++

久しぶりの再会は最悪でした


「……最後に……めぐに……会えて……良かった……」


三年ぶりの彼は、力なくベッドの上で管や点滴、コードで繋がれていた。真っ直ぐに恵を見る眼差しは、どことなく冷静で少し微笑みを浮かべているようにも見えた。


当時と変わらない声だけが懐かしさを感じたが、再会した喜びよりも罪悪感の方が勝っていた。


そんな彼の状況に恵は……また、何も出来なかった。



---


あの時の過ちをやり直せたら。


時間という概念を覆せるのなら……

過去の自分に『彼とちゃんと逃げないで話して』と伝えたい。


過去に戻りたい……




※※※




日中に窓から外を眺めるだけなら、日差しが優しくてウグイスの声でも聞こえてきそうな季節なのに、暖を取るために道具を使わなければまだ手や足の指先は冷えを感じてしまう。


けれどたまに降る雪は地上には留まれず、路肩に積もっていた雪も残りわずかになっていた。

肌で春を感じる季節は、もうすぐそこまで来ていた。


通常業務後に倉庫に移動した恵は、ペンを持つ手がかじかむのを我慢して、ここ数日棚卸しの為に残業を強いられている。

1人残されても任されている分の在庫確認をしないと、この後の先輩に迷惑がかかってしまうからだ。


いつもの事務所がある建物と、工場との間にあるこの倉庫には暖房器具は無い。いたって普通の倉庫で、事務所で使用する備品も工場で使う材料も場所は違えど置いてある。


恵は総務部として管理している一角の無数の棚と、初めての棚卸し業務に悪戦苦闘していた。

伝票の一覧と在庫個数を照らし合わせるだけなのに、無情にも時間だけが過ぎていた。


恵は一覧表の最後のページと腕時計をチラリと見て、だいぶ時間が過ぎていた事に疲れが増した。


(ふぅ……もう少しで終わりそうだけど、もうこんな時間だし……うん。帰ろう)


明日で終わる見込みを立てて倉庫を後にした。


倉庫から廊下で繋がっている事務所は2階建てで、1階は受付兼執務室と工場長室、4人ぐらいで使用するのに丁度いい応接室が2部屋。奥半分は男女別のロッカールームと、工場の方々も利用する食堂やトイレ、シャワー室、給湯室などの水回りの施設がある。


他には職員用の通行口と会社の正面玄関の間に守衛室があり、常に4人の警備の方がいた。


2階に行くには3つの方法がある。1つ目は食堂の階段を上がると行ける。主にお昼に使用するテーブルにイス、ソファーと小上がりの20畳はある和室、そして何故か卓球台が一台。お昼休みには事務所の人も工場の人も関係なく和気あいあい出来る休憩スペースになっている。


和室の使用頻度は、月1で幹部の方々が会議している以外は工場のパートの方々が占領している。いつの間にかお菓子の棚が増えていても、社長や上の方々は文句は言わないステキな会社だ。


2つ目の階段は執務室から上がれる所にある。大、中の会議室と社長室があるが、あまり使われてはいない感じだった。なのでこの1年、恵は先輩の補佐としてお茶を出すのにまだ数回しか入ったことが無かった。


そして3つ目は、倉庫に近い方にある外階段だ。屋上まで繋がる外階段は『タバコを吸わないなら近付かない方がいい』と言われ行ったことはない。


恵は倉庫から事務所に入りロッカールームを越え、棚卸の為のバインダー1セットを抱えて歩いている。会社以外持ち出しは出来ないので自身の机に片付ける為に執務室に向かう。

執務室に通じるドアを開けると最低限しか電気を付けず机にしがみついている社員が1人残っていた。夕方のお茶の時間にはいなかった人物で、いつの間にか外回りで帰社していた営業部の佐藤係長が、カップラーメンをすすりながら何かの資料を見ていた。


「お疲れ様です。まだ帰らないのですか? 」

「お~お疲れ~。倉庫の電気は加藤さんか……」


佐藤係長は食べるの止めずモグモグしながら、顔だけ恵に向けていた。恵は自分の机の引き出しを開けバインダーをしまう。


「明日で終わりそうなので、今日は帰ろうかと……」


カップラーメンの臭いで恵の食欲が掻き立てられる。


(お腹空いた……)


「初の棚卸しは大変だろう。慣れたか? 総務部は何でも屋さんだから大変だな~気を付けて帰れよ」


佐藤係長は持っていた資料を机に置くと、恵に向けてヒラヒラと手を振っていた。


「真理先輩にご迷惑にならないように頑張りますよ!では、お先に失礼します。お疲れ様でした」


挨拶後、執務室を出た恵はロッカールームに向かう。

ノックもせず扉を開け室内の電気を付け中に入る。いつもは賑やかなココも、さすがにこの時間に残っている人は誰もいなかった。人目を気にせず着替えられるのはいいが、普段は賑やかな場所が静かすぎるのは寂しい。


電気が付いたことを確認し扉を閉めると、一人ツカツカと所定の位置まで歩く。ロッカーを開けた時には、反対の手ではすでにジャケットのボタンを外し終えている。ロッカーを開けた手は、すかさず中にあるハンガーを取り出し扉の鏡の下にあるフックにかける。脱いだジャケットを掛けてしまいスカートのホックを外す。さすがにもうすぐ二年目になると着替えにも一連の流れが出来上がっていた。


この日も例外ではなく、人がいないのをいいことに躊躇いもせず大胆に黙々と着替えていた。左手でバランスを取るようにロッカーに支えられながら靴を取り出すのに前のめりになる。中にあるカバンからスマホが半分飛び出していて、その画面には着信を知らせるランプが点滅していたが、気にせず靴を履き替えた。どこかのお店のアプリから、常にお知らせがきていたし、たいして気にもしなかった。スニーカーに足を入れトントンと床をならす。


(よし……帰ろう)


カバンを左肩にかけ左手でスマホを持ち、右手には車のキーを握りしめロッカールームの出入口に向かう。歩きながらスマホの画面のロックを外し下にスクロールをする。


(ん? 着信? )


いつもの見慣れたアプリの通知に混ざって、知らない番号からの留守電の再生マークに足が止まっていた。


(誰だろう? 留守電……めずらしい……)


『……あっ。あの、加藤恵さんの携帯ですか? えっと……大河原高校剣道部で一緒だった三浦学です。これ聞いたらこの携帯に連絡ください! ……待ってます』


(えっ? 三浦君!? ん? ん!? )


ロッカールームで何気なく再生してしまった留守電の主は、高校の同級生らしかった。


(知らない番号だけど、声はあの三浦君だし? ……たぶん大丈夫……何だろう? )


さすがにココに誰もいないとはいえ会社では話せない。社員証をピッと機械にかざし警備のおじさんに『お先に失礼します。お疲れ様でした』と足早に会社を出た。


急いで車に乗り込み会社から一番近いコンビニに向かった。家に帰るまで我慢が出来ず、その駐車場の一角をお借りして折り返しの電話をかけてみる。

読んでいただき、ありがとうございました。


不定期で更新していく予定なので、申し訳ないのですが気長にお待ちしていただければ幸いです。

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