8 ながれぼしをさがしに
その夜、ママはなんとなくセナがねているはずの部屋をそっとのぞいてみた。
もう夜中で、セナはぐっすりねているはずだった。
「……セナ?」
ベッドのなかはもぬけのからだった。
ママはあわてて家じゅうをさがした。家のなかのどこにもセナがいない。
ケージのなかにモカもいない。
こんな夜中にモカのさんぽ?
……いいえ、そんなわけがありません。
「あ、あなた! おきて! セナがいないの!」
「うぅん? なに? なんだって?」
ママはねていたパパをおこして、コートをつかむとパジャマのまま、外にとびだしていった。
「セナ……!」
パパとママがいえのまわりのあちこちをさがすと、コートとマフラーとてぶくろをしたセナが庭のすみですわりこんで、空を見上げているのを見つけた。セナの横にモカもおぎょうぎよく、すわっていた。
「セナ……!」
あちこちをさがしまわったママはセナを見つけるとへなへなとすわりこんだ。
そして、セナにちかづきぎゅっとだきしめた。
「セナ……、かってにいなくならないで。ママ、しんぱいしたのよ……?」
だきしめられたセナはなみだを目にためていた。
「ごめんなさい……、でも、わたし……」
パパがおおきな手でセナのあたまをなでて、ママのせなかをさすった。
「うん。ここはさむいから、家に入ろう。あたたかいココアを入れるから、ゆっくりはなそうな」
「パパ……」
セナはとうとうなきだした。
「うん。だいじょうぶ。だいじょうぶだよ、セナ」
パパがセナをだきあげて、あたたかい家のなかにはこんでくれた。
パパが三人分のココアを入れてくれて、だんぼうが部屋をあたためてくれた。
セナはそれを半分くらいのんで、やっとすこしなきやんだ。
三太はセナのひざの上にすわり、モカはあしもとですうすうねている。
「セナ。なにかパパとママにはなしたいことがあるんじゃないかい? もしよかったら、きかせてくれないかい?」
パパとママはダイニングテーブルのはんたいがわにならんですわっている。
やさしくパパがきいてくれたので、セナは三太がほしからおちてきたことからじゅんばんにはなしてみた。
「サンタ……の、みならい? が、そこにいるの?」
ママがセナのひざの上あたりをさして、そういう。
(やっぱり、見えていないんだ)とセナはかなしくなった。
「うーん。パパにも見えないんだよなあ。でも、いるんだね?」
「うん」
パパにもやっぱり見えていないようだった。
「しんじて……くれない?」
セナがかなしそうにそういうと、パパとママは目を合わせた。
そして、ふたりともくびをふった。
「セナがそこにいるっていうなら、しんじるわ。ね、パパ?」
「うん、ママ。もちろんだよ」
ふたりとも、そういった。
「ほんと?」
「うん。……ながれぼしを、みつければいいんだね?」
「たぶん」
セナはひざの上の三太をぎゅっとだきしめた。
三太はまじめなかおでうなずいている。
「でも、みつけられないの」
セナはこごえてしまうほど庭にすわりこんで夜空を見上げていたが、ひとつもほしはながれなかった。モカと三太はちかくにいたが、セナはこころぼそくてしかたがなかったのだ。
「じゃあ、もっと星が見えるところでさがしたほうがいい」
「え?」
「ここはまちなかだから、空がすこしあかるいんだ。車ですこし山をのぼると、星見ヶ丘という、星がよく見える場所があるよ」
「あなた……」
ママがとめるようにパパにこえをかけたが、パパはたのしそうにママをみかえしてほほえんだ。
「セナがうまれる前はよくふたりで星を見にいったじゃないか? ながれぼしをさがしてみようか」
ママはあきらめたようにおおきくいきをはいた。
「……わかりました。でも、今日はもうおそいからまずねなさい。明日からよ。もっとあたたかくして、かぜをひかない準備をしなきゃいけないわ」
「そうだね。あとは、セナは昼間学校もあるし、パパとママはしごとがある。ながれぼしをさがすのは夜の十時から十二時までの二時間だけにしよう。いいね?」
セナはひとばんじゅうでもながれぼしをさがしていたかった。
でも、昼間ねむれる三太やモカとちがって、セナは夜きちんとねないといけなかった。昼間、学校でいねむりしてしまってもいけないのだ。
げんに、セナの目はいまにもとじてしまいそうなほど、ねむかったのだ。
「時間になったらおこすから、セナはいつもの時間よりはやくねること。そして、二時間さがしたら、その日はおわりにすること。やくそくできるかい?」
「うん」
セナはパパとママとやくそくした。
クリスマスまではもうあとすこしだ。それまでに見つかるだろうか。
セナのこころはふあんでいっぱいだったが、パパとママがてつだってくれることになって、すこしだけほっとした。