4 いたずらサンタ
学校にいっているあいだも、セナは三太のことが気になって、ずっとそわそわしていた。
給食はだいすきなプリンがでたけれど、よくあじがわからなかった。
(そういえば、三太はおなかがすいていないかしら)
朝ごはんも昼ごはんもぬきになってしまう。
そうすると、もう気になってしかたがなかった。
「染夜さん。どうしましたか? ぐあいがわるい?」
あまり給食を食べられなかったセナに、早川先生は心配そうにそういった。
「午前中もうわのそらでしたね。だいじょうですか? 熱はない?」
「は、はい。だいじょうぶです」
午後もずうっと三太のことをかんがえていた。
おわりのチャイムがなると、セナはいちもくさんに家に帰った。
パパとママはおしごとにいっている。
二年生までは学童というところで、ママがおしごとをおえるまでみんなでまっていたが、三年生は「くじ引きでまけたわ」とママがいって、学童にもいけなくなった。学童にいきたいこどもがおおくて、三年生はくじ引きになったのだそうだ。
だから、セナは家のカギをいつもくびからさげていて、学校がおわったら、ひとりで先に家に帰るようになった。
モカとあそんだり、本をよんだりしていればだいじょうぶだったけど、すこしだけさみしいな、と思うときもあった。
ただ、今日ばかりは、早く帰れてよかったと思う。
「ただいまー」
玄関のカギをあけて、家に入って、すぐに二階へいく。
部屋をあけて、いちばんにベッドを見ると、ふとんがめくられ、くまさんのぬいぐるみがかなしそうにゆかにたおれている。
「三太?」
こえをかけても、そこに三太はいなかった。
(ど、どうしよう。ママに見つかっちゃったのかな? それで、すてられちゃったのかな?)
セナはおろおろとして、とりあえず家じゅう、さがしてみることにした。
まずは、二階のすべての部屋のドアをあけてみたけれど、三太はいない。
つぎにかいだんをおりて、リビングへ。
そこで、セナはあぜんとして足をとめた。
「さ、三太……」
「おかえりー」
そこにはテレビをつけて、ソファーにモカとすわる三太がいた。
おおきなアイスのボックスをかかえ、スプーンでちょくせつ食べている。
「な、なにしてるの?」
「おいしいね、これ」
かおじゅうベトベトにして、バニラアイスクリームを食べながら、三太はにっこりわらった。
セナは力がぬけてしまい、へなへなとそのばにすわりこむ。
三太はきょとん、としたまるい目でセナをふしぎそうに見た。
「どうしたの?」
「だ、だって、これ……」
リビングはひどいありさまだった。
観葉植物はたおれ、はちうえの土がこぼれてしまっているし、おいてあったしんぶんやざっしがビリビリのじょうたいで、テーブルの上やゆかの上にちらばっている。
あちこちに土によごれたあしあとがついていて、それはろうかまでつづいていた。その先にあるトイレのドアはひらいていて、トイレットペーパーがいっこまるまるひきだされている。
どういうわけかトイレットペーパーでぐるぐるになった三太はたのしそうにアイスクリームであちこちをべたべたにしていた。
「それ、パパのだいこうぶつで、かってに食べるとおこられるのに……」
セナのパパはアイスクリームがだいすきだった。
冬でもおおきなボックスに入ったバニラアイスクリームを冷凍庫にいれていて、少しずつ、おふろあがりに食べるのを楽しみにしているのだ。
三太からとりあげると、はんぶんくらいなくなってしまっていた。
セナは、ぴょんぴょんととびはねてバニラアイスクリームに手をのばしてくる三太をかわし、おちていたふたをさがしてしめて、冷凍庫にもどした。
まるできげんのわるいモカがあばれまわったあとのようだった。
ママが帰ってくるまでに、かたづけないといけない、とセナはトイレットペーパーを回収し、ぞうきんであちこちふきだした。
「どうしよう。まにあうかな」
いっしょうけんめいそうじをするが、そのあとを三太がよごれた足で走りまわるので、ぜんぜんきれいにならない。
「さ、三太! ちょっと、じっとして!」
やっとそれに気づいて、三太の足をまずふく。
モカがもういっぴき、ふえたみたいだ、とセナはためいきをついた。
モカよりもききわけがなくて、モカよりもひどくあばれてしまう。
いそいでそうじしていたが、とちゅうでママが帰ってきてしまった。
「ただいまー。あら。これはどういうこと?」
「ま、ママ……! あの、これは」
「また、モカね! だめじゃない、モカ!」
ママはモカをだきあげて、「めっ!」とおこっている。
モカはわるくないのにおこられて、ふまんそうな顔をしている。
(ご、ごめんね、モカ!)
しかし、ママは三太にはなにもいわない。
すぐあしもとに三太がいるのに。まるで見えないみたいだった。
(あれ……? ママ、三太、見えないの?)
「ママ……、あの、あしもと……」
「え? あしもと? あら、いやだ、なにこのあしあと。いやね、どろだらけじゃない!」
くるん、とママの足のうしろにまわった三太を、やはり見えていないようだ。
ママはモカをだきながら、ふしぎそうにする。
「どうしたのかしらね? たしかに朝、ケージに入れたと思うのだけど。ドアがゆるんでたのかしら?」
「ママ……?」
「うん? セナ、そうじしてくれてたのね、ありがとう。宿題はやったの?」
「う、ううん、まだ……」
「じゃあ、あとはママがやるから先に宿題やってしまいなさい。おやつは食べた?」
「ううん、まだ」
「じゃあ、戸棚にクッキーがあるからそれを食べていていいわよ。ママ、ここをかたづけてからお夕飯をつくるから少しおそくなるけど」
「うん、だいじょうぶ。ありがとう、ママ」