3 わかりにくいことはかじょう書きにしてみましょう
朝食を食べたあと、部屋にもどるとリュックサックがごそごそうごいていた。
口をとじてしまっていたので、なかのこどもがでたくてあばれているのだ。
セナはあわててかけよって、そっとリュックサックの口をあける。
すると、なかからぴょこり、と赤いぼうしをかぶったあたまがとびでてきた。
「とじこめるなんて、ひどいよ」
さっきまでぽろぽろないていたのに、今は、ぷんぷんとおこっていた。
「ねえ、あなた、だれ? なんでうちの庭にいたの?」
セナはそっと手をのばして、リュックサックから赤いふくのこどもをだしてあげた。
ちょこん、とすわった赤いふくのこどもはまだぷりぷりとおこっていた。
「さんた。ほしから、おちたの」
「サンタ……? え、ほんとうにサンタクロースなの?」
そちらのほうがひっかかってしまい、セナは後半をよくきいていなかった。
「まだ、サンタクロースじゃない。ただの、さんた」
「えぇと?」
「すうじの『三』にももたろうの『太』といえば、ニホンジンにはわかるっていわれた。なまえ」
「あっ」
こどもはずっと、じぶんのなまえをいっていたのだ。
「三太くん、っていうの?」
「そう。ほんとのなまえはちがうけど。みならいだから三太」
三太のはなしはわかりづらいな、とセナはすこしこまってしまう。
「みならい?」
「うん。サンタクロースのみらないなの。みらないのしけんにやっとうかって、ふたご座流星群にのってきたの。ほんとうはサンタクロースのところまでいけるはずだった。でも、ほしからおちちゃったの」
「ふたござりゅうせいぐん……」
いろいろな情報がいちどに入ってきて、セナはよくわからなくなってしまった。
『ふくざつなもんだいをとくときにたいせつなのは、まずなにがもんだいなのか、せいりすることです』
担任の早川先生がまえにそういっていたことを思いだした。
『ながい文章だいだったら、まず一文ずつかんがえましょう。かじょう書きにするとわかりやすくなります』
かじょう書き、とセナはつぶやいた。
そう、ひとつひとつ、せいりしてみよう。
「あなたのなまえは三太?」
「うん」
「サンタクロースのみならいなの?」
「そう」
「ふたござりゅうせいぐん、というほしにのってやってきた?」
「ちょっとちがう。ふたご座流星群、というのはほしのなまえじゃなくて、ながれぼしがたくさんふることをいう。ちいさなほしがたくさんふりそそぐの」
「ながれぼし、なんだ」
「そう」
「ながれぼし、ってのれるの?」
「うん。ぼくらはのれる。とおくのほしからここまではこんでくれるの。サンタのほしからここまで流星群にのってやってくる。地球にくるためのおもな流星群は一年で三回。しぶんぎ流星群とペルセウス座流星群とふたご座流星群。ぼくのほしはそちらの方角なの。ふたご座のほうから地球にむかってのってきて、ファエトンでふたご座流星群にのりかえる」
「ま、まってまって!」
ゆだんすると、三太はよくわからないことをどんどんいいはじめてしまう。
「ふたご座流星群が今年のさいしゅう便だった。おちちゃったぼくは、クリスマスにまにあわなくなっちゃう……」
まって、といったセナのこえがきこえなかったのように、三太はきゅうにかなしそうにめそめそとなきだす。
セナはこまってしまって、そのあたまをそっとなでた。
「ええと、サンタクロースのみならいはとおくのほしからやってきて、サンタクロースのところにいくのにながれぼしにのってくるのね?」
「うん……」
「でも、三太はサンタクロースに会うまえに、この庭におちてきちゃったの?」
「そう……。どうしよう。どうしたらいいんだろう?」
セナはノートをとりだして、かじょう書きに書き出した。
・なまえは三太。
・サンタクロースのみならい。
・とおいほしからながれぼしにのってやってきた。
・とちゅうで、セナのいえの庭におちてしまった。
・どうやってサンタクロースのところにいったらいいか、わからない。
先生のいうとおりだ。
かじょう書きにすると、少しわかった気がする。
とりあえず、わからなかったところは書かなかった。
「三太はサンタクロースのところでなにをするの?」
「もちろん、しごとだよ。みならいだから、まずはいっしょにいて、しごとをおぼえるの」
パパやママとおさんぽにいっしょにいって、しなければいけないことをおぼえるのと同じかな、とセナは思った。
(こんなにちいさいのに、おしごとをするんだ。たいへんだな)
「いちにんまえになったらおおきくなれるの。それまでは、このおおきさなの」
「えっ、そうなの?」
「そうなの。地球のひととにせたすがたなの。ほんとうはもっとちがうの」
「ほんとう……」
セナはあわてて書きくわえる。
・三太にはほんとうのなまえがある。
・しごとをおぼえないとおおきくなれない?
さいごに書いたことはよくわからなかった。
セナはしごとをおぼえなくても、たぶん、おおきくなっている。
ごはんをたくさん食べればおおきくなる、と学校で習った。ひとは勉強しなくてもしごとをしなくても、たくさんごはんを食べればおおきくなれるのだ。
でも、三太はちがうらしい。
「サンタクロースも宇宙人なの……?」
「うちゅうじん? そうだね。地球いがいからきてるから、宇宙人というのはまちがいじゃない」
しょうげきだった。
セナはぱくぱくと口をあけたりひらいたりしながら、三太を見る。
「じゃないと、一日でプレゼントをくばったり、空をとんだり、できるはずがないでしょう?」
「た、たしかに……」
みょうになっとくしてしまった。
(そうか……、サンタクロースって、宇宙人だったのか……)
「セナー! なにしてるの!? ちこくするわよー!」
そのとき、ママのおおきなこえがして、セナはあわてて「はーい!」とへんじをした。
ランドセルをもって、マフラーとてぶくろをする。
そのままへやをでようとして、三太のことを思いだした。
「ごめん、ちょっとここに入っていてね。でてきちゃだめだよ?」
だきあげて、クローゼットのなかにいれる。
ぱたん、ととびらをとじると、なかから三太がびっくりしたようにドンドン、とたたいた。
「とじこめないでって、いったのに!」
「ごめん、学校いかなきゃいけないの」
「やだやだ! くらいの、やだ!」
セナはこまってしまう。
そっと、とびらをあけると、なみだをぽろぽろこぼして、三太がないていた。
だきあげて、よしよし、とあたまをなでる。
「ごめんごめん。じゃあ、ベッドのなかにいて? おふとんかぶって、ママがきてもへんじしちゃ、だめよ?」
「うん」
セナは三太をベッドに入れて、そっとふとんをかけた。ちょっとふっくらしているけど、くまさんのぬいぐるみをそのふくらみのところにおいてみる。
そうすれば、めだたないようなかんじがする。
「学校おわったら、すぐ帰ってくるから」
セナはもう一度そういって、あわてて部屋をとびだした。