1 星からおちたこども
その日はとくにさむい日だった。
セナは飼い犬のモカをつれておさんぽから帰ってきたところだった。
早朝のおさんぽは、三年生になった今年からセナのしごとになっていた。
去年まではまだセナのからだもちいさく、モカにひきずられてしまうから、おとなといっしょでなければだめだったのだ。モカはチワワだから、けっしてつよい犬ではなかったけれど、それでも元気いっぱいに走りだしてしまうと、止めることはむずかしかった。
パパやママといっしょにおさんぽにいきながら、どんなことに気をつけないといけないか、フンのしょりのしかた、など、いろんなことをおぼえて、やっとひとりでモカとおさんぽにいけるようになったのだ。
雨がひどい日いがいは毎朝、こうしておさんぽにでかけている。
外の門扉をあけ、リードをはずしたモカを先になかへ入れる。
カチャリ、としめたところで、モカが庭のほうへかけだした。
「モカ?」
いつもなら玄関の前できちんとまっていられるいい子のはずなのに。
どうしたことか、今日のモカは庭に向かってひどくほえていた。
「どうしたの、モカ」
あわててセナもそのあとを追う。
そして、はげしくほえているモカをだきあげて、そのほえるほうへ目をむけた。
「……なに、これ」
庭のまんなかに、なんだかまるくて赤い色をしたものがおちていた。
まるで赤いフェルトのボールがおちているようだった。ふわふわとして、やわらかそうだ。おおきさはバレーボールくらいだろうか。セナは赤くてまるい、というところから、おばあちゃんが買ってきただるまを思いだした。
ただ、だるまさんよりずっとやわらかそうだ。
(なんだろう?)
セナはおびえるモカをよしよし、となでながら、その赤くてまるいものにそうっとふれてみる。
すると、びくり、とそれがうごいたような気がした。
セナもおどろいて、手をひっこめた。
ふるふるふる、とふるえて、それがまるいかたちから、ほどけるようにひろがった。
赤いまるだったものに、白っぽいところがあらわれる。
みるみるうちに、それはちいさなひとのかたちになった。
赤いふく、赤いぼうしをまとった、ちいさなこどもだった。
どうやら手足をひっこめて、まるでだんごむしか、ねこのようにくるっとまるまっていただけのようだった。ただ、どう見ても、ちょっとふつうのひとのこどもには見えない。だってその子は、セナのひざのあたりまでの大きさしかなかったから。
まんまるの顔、ふっくらとしたほほ。金色のまき毛がやわらかそうで、ふちが白くて三角形のぼうしをかぶっている。
どこもかしこもやわらかそうで、セナは(ちょっとだいふくもちみたいだな)と思ってしまう。
目をあけると、海のように青い目をしていた。
おおきなその目がセナを見つけておびえたようにゆがみ、ついでおおつぶのなみだがぽろぽろとこぼれだす。
「ど、どうしたの? あなた、だれ?」
なんだかセナはこのこどものかっこうを知っている気がした。
そう、十二月になってからいろいろなところで見かける――サンタクロースのふくにそっくりなのだ。
でも、ひげのはえたおじいさんじゃなくて、つるんぷりんとしたほっぺたのちいさなこどもだ。
それに、いまは十二月のなかばで、クリスマスはもう少し先なのだ。
たぶん、サンタクロース、ではないだろう。
「おちたの。おちちゃった……。どうしよう、どうしよう」
ちいさなこどもはちいさなこえでなきはじめた。
セナはとにかくこまってしまう。
「ワン!」
もう一度、モカがほえて、びくりとふるえたちいさなこどもはさらにかなしそうにないた。