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対戦はキャラ選びから始まっている。強キャラ選ぶもの作戦のうち


「…………よし、分かった。その勝負受けようじゃないか」


 格闘ゲームは苦手だが、まったく知らないジャンルでもない。友人の家に遊びに行った時や、ゲーセンなどでも人がプレイしてるのだって何度も見た事はある。それにどのみち俺にはこの勝負を受けないって選択肢は初めから無いんだ。

 

 気合いを入れるため『よしッ』っと自分の両手で頬をパンと軽く叩く。

 しかし俺が格ゲ―が苦手なことを宮古に悟られるのもよくない。

 ここは堂々として余裕を見せつけるのが妙手。

 

「まぁどのゲームでも勝負は受けて立つが、本当にそれでよかったのか? 俺はパズルゲームでもレースゲームでもかまわないんだけどな。HAHAHA」


 少し演技がちにもったいつけながら俺は宮古が立つゲーム筐体の方へと歩み寄って行った。


「そんなに気負わなくても平気ですよ。もちろんハンデは付けます。兎神さんが格闘ゲームが苦手らしいですからね」


「なんでそんなこと――!? ……まさか事前に俺の情報をリサーチしてっ!」


「してません。さっき兎神さんが自分で格闘ゲームは殆どしないと漏らしてましたよ。それにそんな気合いの入れ方では自分を鼓舞しているのがバレバレです」


「……ですよね」


 我ながらセコイ手ではあったが、この見事なまでにポーカーフェイスの向かない性格のせいかあっさりと見破られる。――こうなったら小細工なしの真っ向勝負で行くしかない。

 

 俺は覚悟を決め、宮古の立つ対戦台の裏に回って席に座る。


「――ってあれ?」


  意気込んで画面を見るがその画面には宮古が勝負に選んだものとは違う格闘ゲームが写し出されていた。どうなってるんだ、対戦する場合は後ろの台でプレイするんじゃないのか?


「後ろの台は別のタイトルです。今でこそ格闘ゲームといえば、対面に設置されている二台の筐体を使って試合をしますが、昔は一台に二人座って対戦をしていたらしいですよ」


 俺の疑問を読み取ったのか宮古が答えてくれた。


「へぇ、なるほどね。それじゃコレはけっこう古いゲームなんだな。聞いたことはあったけど、随分と昔の話も知ってるんだな」


「色々と問題もあって今の向かい合わせの形に落ち着いたらしいのですが……それは私にはわかりませんが……」

 

 宮古はそう話しながらイスに腰を下ろし、レバーを握りカタカタと動作確認をしていた。


 俺は立ち上がり、あらためて対面の筐体に座ろうとすると一つ重大な事に気が付いた。



 …………近い。



 ――これ、隣の人が近すぎやしませんかね? 

 いや、分かってる、分かってるんだ。それほど大きくないアーケードゲームの筐体に二人が同じ画面を見るなら自然と近くに寄らざるおえない。しかも俺が見た所、昔の筐体は現在の筐体より小さいと思う。


「――はやく座ってください、始めれないじゃないですか」


 躊躇う俺に対し、宮古は横にあるイスをポンポンと叩き催促する。


「…………おじゃまします」


 イスに座るとやはり予想通りと言うべきか、二人の肩が触れそうなほどに近い。

 至近距離で見る宮古のその少し幼いながらも整った顔立ちにドキリとした。


  ――って何を緊張してるんだよ俺は! 別にやましいことは無いんだ。それに俺は年下より(以下略だっ!)


 ただ横に座ってゲームをするだけなのに妙に気を使う。それに何だか良い匂いがする。昨日も感じた香水ではない匂い。宮古が愛用でもしてる石鹸なのか、自然で柔らかで優しく、鼻翼をくすぐるいい匂いだ。何で女の子って男と違ってこんな良い匂いがするんだろうか。


 ぎこちなく座るお隣さんをよそに宮古は勝負の前にゲームの解説に入った。

 ――俺もほかの事に気を取られてる場合じゃない、集中だ集中! 




 宮古先生の説明によると、今からプレイするこのゲームは90年代半ばに大ヒットしたゲームらしく、当時のゲームスタイルでは革命的なチーム戦を取り入れた作品らしい。しかも登場キャラクターがそれぞれの別のゲームの主人公たちが集まったドリームタイトルで話題を呼び、格闘ゲーム黎明期を築いた一作だと語る。


 ――昨日ここで若い兄ちゃんともめている時にも思ったが、普段はおとなしい感じの宮古だがこと格闘ゲームの話題になると熱が入るようだ。気のせいか目が輝いてるように見える。


「……って聞いてますか兎神さん?」


「ん? ああ、大丈夫、聞いてるよ。うん聞いてる。で、そろそろ作品の内容じゃなくて試合の内容に入らないか? さっき言ってたがハンデをくれくんだろ。そっちの説明を頼むよ」

 

 俺がそう言うと宮古はまだ話したりなかった部分もあったのか、少し不満そうな顔をしたが直ぐに立ち直り試合の説明に入った。


「勝負の内容は簡単です。私に一度でも勝つことが出来れば、先ほどの人形は差し上げます。ハンデの条件ですが、今話しましたがこのゲームは三人一組み、つまり一人で三人のキャラクターを操作することになります」


 宮古は俺に説明しながらキャラクターを三人選ぶ。映し出された画面には学生服を着た男子が炎を出しながら戦闘態勢を構えていた。


「それで、本来は相手のキャラクターを三体全員倒さなければ勝利にならない所なのですが、私が使うのは一番手のキャラクターのみで、そのキャラクターが倒された時点で私の負けとします」


「俺は三人使って戦って、宮古は一人だけで戦うってことか? 実質三対一じゃないか」


「ハンデはそれだけじゃありません。私の使うそのキャラの一体、その体力の半分を減らすだけで兎神さんの勝利です」

  

「おいおい、ずいぶんと太っ腹なハンデだな」


「そうかもしれませんね。でも兎神さんからしたらチャンスじゃないですか?」


 ――確かにこの条件なら、俺の方は一体使うごとに相手の体力を二割ずつ削っていけばその条件をクリアすることになる。いくら初心者の俺が相手でもだいぶ自分に苦しいハンデではないだろうか。


 ……もしかするとこいつ、はじめから負けるつもりで挑んできたのか? さっきの発言そのままの意味で、ただ譲るだけじゃ秋奈さんに申し訳ないからその建前上の人形を賭けた勝負――


「OK分かった。その条件で行こう……それじゃサクッと始めるぜ」


 俺はもう一度気合いを入れなおし、何年も触ってない格闘ゲームの操作レバーを握る。すると昔の忌わしいトラウマが頭に過る。


 嫌な思い出ってのは厄介で、心の奥底に沈んていたと思っていた記憶が、格闘ゲームのレバーを握った途端、鮮明に蘇って来る。


 ――ステックの上部に丸いボールが付いたレバーは格闘ゲーム以外のゲームでも使われているし、昨日やってたクレーンゲームのレバーも同様のタイプで全然平気で触れたんだけどな

 ……まぁいい。幸か不幸か、その苦手な格闘ゲームのおかげでレア物グレイ君をゲット出来るんだ。逆に感謝しなきゃな。それでもって今回でこのトラウマを払拭しておさらばだ。




 静かな空間に響くゲームのBGM。まるで世界に俺と宮古しか存在しないのかと思うような不思議な感覚に襲われる。


 時間は午後四時三十分。

 

 お互いに一度顔を合わせ再び画面に振り返る――

 

 ――それじゃぁゲームスタートだ!


 8話 END


 9話 『永久コンボと10割コンボは多少差はあれど終着点は同じ』へ続く

この作品に登場するゲームは名前は変えていますが実在するゲームが元ネタです。

有名作なので格ゲージャンルに詳しくない方でも分かると思います。


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