時と場合、条件によっては俺より弱いヤツに会いに行きたい
「電話、取らなくてよかったのか?」
「……ええ、母親からでしたが、私が電話に出ないのはいつもの事です。気にしないでください」
「そ、そうなのか」
「もし本当に急用でしたら、また連絡が来ると思いますので問題はありません」
宮古が少し見せた悲しそうな表情が気になってつい声を掛けてしまったが、今はもう特別変わった様子は見られない――。もしかして俺の見間違いだったのだろうか?
そう一言交わすと宮古はパーカーのポケットに電話をしまおうとする。
「……ん?」
何気なく宮古が携帯をしまう所を見たとき、一瞬だが何か見えた気がする。
――いや、何かではない……たとえ先ほどの宮古の件が見間違えだったとしても、俺がをアレを見間違えるハズがない……そう、間違いなくアレだった。
……しかしそんな事がありえるのだろうか? まさか宮古が?
「…………」
「どうしたんですか? どこか具合でも悪いんですか?」
その場でうつむき、急に黙り込んだ俺を心配してか宮古は筐体から立ち上がりその綺麗な顔で俺の顔をのぞき込めるぐらいの距離に来ていた。
本来、男なら可愛い女の子が至近距離に詰め寄よろうならば年相応に照れたり、ドキドキと心拍数が上がりそうなものだが、今の俺はそれではない別の事で心拍数が上がりつつあった。
「あ、あのさ、悪いんだけどさっきの携帯ちょっとだけみせてくんないかな?」
「……? かまいませんけど別に珍しくもない普通のやつですよ」
不思議そうな顔をする宮古だが、とくに断るようすもなく差し出した。
俺はそれを受け取ると携帯電話ををじっくりと調べて――ではなく、俺が一番気になっていたのはその携帯に付いているストラップの人形だった。
――そして今、俺の疑念は確信に変わった。
「あのー宮古さん。このストラップってどこで手に入れたんですか?」
「……ほんとにどうしたんですか? 急に黙り込んだかと思えば次は敬語で話しかけてきて、何か悪いものでも食べたんですか?」
い、いかん思わず敬語で話してしまうほど動揺していたのか。
宮古のやつちょっと俺のこと気味悪るがってる。
しかしだ! ここで引く訳にはいかない! なぜなら宮古の持っているこのストラップ――
「こんな所で出会えるとは……」
自分が握るこの人形、その目は不敵に俺を睨み、全身ピンク色でその大きなタラコ唇の出っ歯がトレンドマークのナイスガイ……いや、まぁぶっちゃけ気持ち悪い容姿だけどな。
――ここまで言えばもう何なのかは分かってもらえたと思う。そう、このキャラクターは俺が集めている「グレイ君」人形だ。そしてこれはそのシリーズの内の一つ。グレイ君出張ストラップシリーズだ。
しかし悲しい事にこのシリーズは全く人気が出ずに、発売一か月と待たず絶版になる程の不人気グッツとなった。販売元いわくターゲット層は女子中高生のキモカワ系のそれで売り出そうとの考えだったらしい。
収集家の俺が言うのもアレだが「グレイ君」はキモカワじゃなくて、ただ単純に奇妙な見た目の人形だ。売れなくて当然の結果だろうとは思ったが、その余りにも市場に出回らなかったせいで一部のコレクター達の間からは「幻のグレイ君」と言われているほど珍しいものだ。
「兎神さんはやっぱり変わり者ですね。そんな気持ち悪い人形のストラップが気になるんだなんて、センスを疑います」
幻の「グレイ君」を見つめ恍惚とする俺を冷めたい目でみる宮古。
――おい、今の言葉につて色々と言いたいことはあるが、ひとまず全ての言葉を飲み込み宮古の話の続きを聞くことにした。
「そのストラップは秋奈さんから貰ったものです。新しく導入したゲーム筐体の試運転のときに取ったみたいですよ。私は要らないと断ったんですが半ば強引に押し付けられるかたちになったんです。……しかし貰った以上、使わないと秋奈さんに悪い気がして付けてるだけなんです」
少し迷惑そうな口ぶりで話す宮古ではあるが、好きでもないキャラクターのストラップをちゃんと付けるあたり律義な性格なのかもしれない。
だがこれは俺にとっては朗報、チャンスとも言えるだろう。宮古自体このストラップを気に入っているわけではないという点だ。
――-幻の「グレイ君」を目の前にし見逃す手は無い。ならばここは熱意で押し通すのみ!
「宮古、頼むッ! そのストラップ俺に譲ってくれないか!」
パンッっと大きく音が鳴るぐらいに、勢いよく俺は両手を合わせ宮古に頼み込む。
その俺の行動にビックリしたのか、宮古はキョトンと俺の姿を見ていた。その顔は正に「鳩が豆鉄砲を喰らったような顔」そのものだった。――うん。その気持ち分からんでも無い。
「いいですよ」
「いや、分かってる。秋奈さんから貰った物だし、急にそんなの事を言われても困ると思うけど俺、実はその人形を集めててどうしてもそれが欲しい――え? 今、何て?」
「譲っても良いと言ったのですが……聞こえませんでしたか?」
「……マジ?」
「はいマジです。兎神さんが欲しがったので譲ったということなら体裁も保てますし、そもそも私はこの珍妙な「グレイ君」なるモノに微塵も興味はありませんからね」
「グレイ君」を集めている俺に意図せず地味に言葉でダメージを与える宮古だがこれは思わぬ展開だ。正直ダメ元で聞いてみだけだったんだけどな。クレーンゲームの方の「グレイ君」はまだゲット出来てないが別の思わぬ大物をゲットだ。
俺は宮古にストラップを取り外してもらう為に一度電話を返す。
「いやー、恩に着るぜ。宮古は知らないと思うがその「グレイ君」は中々のレア物でさ、コレクターからすればそれが手に入るなら何でもするからっ! ってなぐらいに喉から手が出る程の代物なんだぜ」
「……それは兎神さんも同じなんですか?」
「ん? ああ、俺だって一応コレクターの端くれだからな。そのぐらいの気持ちはあるさ」
人形を取り外し終えた宮古が少し間を置いてそんな質問をしてきたので素直な思いをそのまま話す。
すると今度は宮古がうつむき考え事をしはじめる――そして次の瞬間思わぬ事を言い出した。
「……すみません、気が変わりました。今はコレを譲る訳にはいかなくなりました」
「――えぇッ!?」
俺は思わず大きな声を出してしまい、その声がホールに響く。
「勘違いはしないで下さい。別にこの人形が惜しくなった訳じゃありません。ただ譲るには条件を付けたいと思います」
宮古の持っているこの「グレイ君」の貴重さを伝えたがため手放すのが惜しくなったのかと一瞬脳裏に浮かんだが即否定された。――しかし条件とは……
「……どんな内容だ?」
俺が聞き返すと宮古は俺に背を向け、ゆっくりと奥に歩き出す。そしてその条件を口にした。
「はい、私と一つ勝負をしましょう。それで私に勝つことが出来たら、この珍妙な人形は晴れて兎神さんの物です」
「勝負……ってなにをするんだ?」
――急に勝負を持ちかて来たが、一体何を企んでいるのか。後ろを向いているので宮古の表情を伺う事も出来ない。……俺にも勝てる可能性がある勝負ならいいんだが……。
「何をするってそんなの決まってるじゃないですか……ここを何処だと思っているんですか。ゲームですよ。ゲームで勝負をしましょう。もちろん勝負内容は――」
ゆっくりと歩いていた宮古は足を止め、そこあるゲーム筐体に手を伸ばし、タンッと優しくボタンを押す。
「まさかその勝負って格闘ゲーム……か?」
光る画面の中にはニューチャレンジャーの文字。静かなホール内にまだかまだかと対戦を煽るようなテンポの速いBGMが俺たちを中心に広がるように流れる。
宮古が俺に振り返ると、その細く柔らかい髪は画面の光を受けながらキラキラと神秘的な輝き放ち舞うように映る。その姿に俺は思わず息をのんだ。
唖然としている俺を見る宮古の表情は、昨日見せてくれた笑顔と同じだった。
7話 END
8話 『対戦はキャラ選びから始まっている。強キャラ選ぶもの作戦のうち』へ続く