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ふだん騒がしい所ほど静かになると寂しい


「よぉ、今日もこりずにゲームしてるみたいだな。昨日あんな目にあったのによくやるよなぁ」


「あ、兎神さん……来てたんですか」


 ゲームセンターTOP10、その地下にある格闘ゲーム専用ルームで一人、宮古は筐体に座りゲームをプレイしていた。


 それほど大きくない地下ホールだが、たった二人ではかなり広く感じ歩く足音がコツコツと響く、昨日感じた熱気がウソのように静まり、まるで内装の似た別の店に迷い込んだのかとすら思える。この感覚は夜の学校に近い。


「ああ、実は今日休業なの知らずに来たんだけど、店の前で秋奈さんって人に会って特別に入れてもらったんだよ」


「そうだったんですか」


 彼女はレバーを操作していた手を止め俺の方を見た


「えーっとその、なんだ……宮古、って呼んでいいんだよな?」


「もちろんです。そう頼んだのは私ですから」


 昨日ハンバーガーショップでお互い自己紹介をした後、今後は「あんた」ではなく名前で呼ぶようにと忠告されたのだ。

 いくら年下とはいっても、知り合ったばかりの女の子を名前で呼び捨てするのは少し気恥しい。苗字じゃダメなのかと聞いた所、名前で呼んで欲しいとの要望でそうなった。


「秋奈さんから聞いたんだが、宮古はここのオーナーの爺さんと知り合いで、休業日はこの部屋を貸し切りさせてもらってるんだってな。贅沢っつーか、チョット羨ましいぜ。」

 

 男子ならこういう遊び場を完全に貸し切りできるってシチュエーションは心躍るモノがある。しかもゲームセンターとなればなおさらだ。


 俺はホールを見渡しながら宮古の隣に近づき、ゲーム画面をのぞき込んで見るとその画面には主人公らしき学生服を着た男が一方的にボコボコにされている有り様が目に入った


「あ、おい!コンピューターにやられてるじゃないか」


 少し驚いた声で前のめりに画面に喰いつくと、その横で慌てるようすもなく宮古は答える。


「かまいませんよ。ちょうど他のキャラクターに変えて練習しようと思っていたところですから。このままゲームオーバーになるまで待ってるんです」


 コンピュータがこちらの操作キャラクターを攻撃する姿を見ながら宮古はそう話した。

 

 なるほど、そういうことか。てっきり俺が話しかけて邪魔をしたのかと思ってしまったぞ。

 ――しかしお金を払ってゲームをしてるのに、わざと負けるとはゲーセンの貸し切りもそうだが、金遣いも中々に贅沢な使い方だ。


 俺なんか今月はカツカツで昼飯代も切り詰めて何とかやり繰りしてるんだぞ、チョットどころか壮大に羨ましい。昨日は一プレイ50円の損得で不機嫌になってたのになぁ……。

 うーむ女心はわからん。まぁこれを一般的な女の子の心と同等に比べるのもどうかと思うけどな。


「……いま私の事、昨日は50円の金額で文句言ってたのに今日はずいぶんと贅沢な事してるなって考えてませんか?」


 まるで心の中を見透かしたように、ズバリと思考を当てられ心臓が跳ね上がる。


「え!いやっ……そんなことは……」


「対戦ゲームをしてるとなんとなく分かってくるんです。相手が今、何を考えてるのかって」


 宮古は俺の目をじっと静かに見ている。その吸い込まれそうな澄んだ瞳に映る自分の顔が少し引きつっている。


 マジか!? 格闘ゲームやってるとそんなスキルを習得できるのか? 

 そんな馬鹿な……。だが俺の考えを読まれたのも事実。いや、ゲームという一つのくくりで考えてみれば囲碁や将棋だって同じゲームだ。次の手を読むって事は相手の考えを読むのと等しい。それならこの格闘ゲームを通じてそのような技術を会得してもおかしくはない……のか? だがしかし、にわかには信じがたい気もするが……。


 頭の中で自問自答を繰り返すこと数回、結局答えが出ずにそのまま無言の見つめ合いが続く。

 すると先にこの沈黙をやぶったのは宮古の方だった。


「冗談ですよ。相手の考えがそんな正確にわかるはずがないじゃないですか。今のは勘です。兎神さんは顔に出すぎです。ですから私でも簡単に当てられるんですよ」


「……俺そんな顔に出てたか?」


「そうですね。賭け事などはしないことを強くおすすめします。特に人を相手にしたゲームを……です」

 

 ……なんか意外とショックだ。


 そう淡々と話す宮古の言葉で俺は肩を落とすがそれを気にする様子もなく宮古は話を続ける。


「まぁそのことはひとまず置いとくとしてですね。こちらを見てください」


 置いとくのかよっ! 別にポーカーフェイスを気取るわけじゃないが、それでも年下の女の子にも簡単に心を読まれるのは結構ツライものだ。年上として、男としても。――うん。わかってる、無駄なプライドってこういうのなんだろうな……。


 そんな俺の心情をよそに宮子はゲーム画面の右下部分を指でさす。そこにはCREDIT0と表示された画面が見える。


「それがどうしたんだ? いくら格闘ゲームをしない俺でもこの意味ぐらいはしってるぞ?」


 クレジット0つまり打ち止め。もう一回プレイしたければもう一枚硬貨を入れなきゃいけないって意味だ。これ自体はアーケードゲームだけじゃなく色々なゲームでも共通の意味で使われているのがほとんどだ。

 

 宮古は怪しむ俺の前でアーケード筐体のボタンを「タンッ」軽く押した。


 ――ピロロロロッ!静かなホール内になんとも軽やかな音が鳴る。すると画面が切り替わり<A NEW チャレンジャー>とゲームオーバーの画面からキャラクターセレクトの画面に切り替わる。


 ……なん……だと……? 今確かに画面にはクレジット0の表示がされていたのに!


「全部のゲームではありませんが、今日みたいに私だけしか居ない時にはコインを入れなくても無制限にプレイできるように設定してもらっているんです。これが答えです」


 宮古はこうして俺の疑問に簡潔に答えたあと、新たにキャラクターを選びゲームを再開した。


 貸し切るだけじゃなくてゲームも無料で出来るとはどこまでも羨ましいやつだ。俺もここのオーナーと知り合いになれば宮古と同じ権利が得られるのだろうか……まぁ俺がやりたいのは格闘ゲームじゃなくクレーンゲームのほうなんだが。そんな打算にも似た無駄な想像をしていると――


 ――ピリリリリッ……ピリリリリッ


 突如ホール中に機械音が鳴り響く。さきほどのゲームの音楽ではなくこの音は携帯電話だとすぐにわかった。俺は自分の体をポンポンと叩き、携帯のあり場所を探る。そして携帯を取り出し画面を見ても着信の表示は無い。


「……鳴ってるのは宮古の携帯じゃないか?」


 俺は宮古にそう聞く。


「…………」


 ――ピリリリリッ……ピリリリリッ


 宮古はポケットから電話を取り出しその画面を見たが着信しているが眺めるだけで一向に取る気配は無い。


 ――ピリリリリッ……ピリリリリッ……プッ


 そしてしばらくなり続けた電話は宮古は電話をとる事なく着信は途絶えた。


 心なしかその宮古の端麗な顔立ちには似合わぬ苦虫でも噛み潰したかのように表情が一瞬濁っていたのが見えた。 


 6話 END


 7話 『時と場合、条件によっては俺より弱いヤツに会いに行きたい』

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