マップ上で行き止まりでも宝箱があるかもしれないから行きます
「……しまった。まさかの失態だ……」
少女とゲームセンターから逃げ出したその翌日、俺は昨日と同じ時間、同じゲームセンターに訪れていた。
昨日と違うところと言ったら、見上げた空に見えるモノが太陽ではなく、分厚い雨雲かの違いだ。それと目の前に張られた『休業日』の張り紙があるかないか。
「はぁ~しくじった。今日休みなんて聞いてないぞ」
――まぁ誰にも聞いてないし、そんな事を言われても知るかって思うやつらもいるかと思うが、そのぐらいの愚痴は許してもらいたい。学校からの帰宅途中に寄るにはココは遠いのだ。
雨粒が地面にまだらを作り、ザァっという音とともに本降りになる。差した傘に大粒の雨が太鼓でも叩くかの如く大きな音を出す。あわててゲームセンターの軒下に避難して雨宿りをすることにした。
今日の天気は曇り、降水確率40%だってテレビのお姉さんが朝そう言ってたじゃんよ。ゲームだったら40%なんで当らなくて普通だよ。某初代モンスター育成ゲームの超強力な光線攻撃とか命中率90%なのにすっごい外れるぞ。まぁ、たまに命中率100%の攻撃でも外れるときがあるんだけどね。
雨の勢いが収まるまで暇つぶしで、毎日チェックをしてるサイトやお気に入りのブログを携帯で一通りサーフィンをする。少し時間を潰しそしてもう一度空を仰向くが雨は一向に止む兆候も無い。集中豪雨なのか、雨宿りをしはじめた頃より雨脚が強くなってきた。
もしかしたらまだまだ降るのかもしれない。それなら閉まっている店先で、いつまで立ち尽くそうとも時間を無駄に浪費するだけだ。
「……しかたない。今日は諦めて帰るしかないか」
閉ざされた店内に残る、昨日獲り損ねたグレイ君人形に『まだ入れ替えされるんじゃないぞ!』と願いとも呪いともとれそうな念を飛ばしす。満足するまでその念を送った後、傘を差し直し軒下から出ようとしたちょうどそのとき。
「おや?君は昨日の美少女誘拐犯じゃないかな?」
ドキィィィィ!?
「――なッ!?」
俺は断末魔の叫びをあげる事すら忘れ凍り付く。
壊れたカラクリ人形のような、ガクガクしたぎこちない動きで恐ろしい言葉が放たれた方向を伺う。
「あっはっはっは。冗談だよ。えーっと、キミは兎神京太郎君……でいいんだよね」
そこには爽快に笑う一人の女性が傘を差しながらこちらに向かってきた。
女性は俺の横に来ると傘をしまい、肩にかかった雨粒をはらう。昨日の事件に触れられた俺の狼狽具合が流石に気の毒だと思ったのか『悪い、悪い』と軽くあやまり言葉をつなぐ。
「警戒しなくても大丈夫、何もしやしないさ。私はこの店で……まぁ働いてる者だよ。昨日の件もだいたいの事情は聞いてる。どうにも昨日みたいな面倒な客は少なからず居るんだ。じいさんの代なんかはもっと荒々しい喧嘩に発展する事もあったとか。お前らせっかくゲームしてんだからゲームで白黒つけろって思わないか? はははッ」
またまた笑うその女性の姿は、店の名前が書かれたエプロンを掛け、艶やかな長い黒髪を後ろでまとめてポニーテールにしている。年齢は20代半ばぐらいだろうか、一見とても和風美人なのだが口にくわえたタバコがとてもアンバランスに見える。
「……昨日はお騒がせしてしまったようで」
「そんな顔しなさんなって。今どき知らない女の子を体張ってまで守ろうって思う男はなかなか居ないぞ? 胸を張りな! 他の客たちも勇敢な少年が乱暴な客から少女を守ったって話で持ちきりだったよ」
俺が申し訳なさそうな顔をしていると背中をバシバシッっと叩き激を入れる。
――見た目は大和撫子を思わせる女性なのに性格はサッパリとした姐御肌だ。
そしてなにより安心したのは昨日の事件が変に尾ひれが付いて噂が広がってないようで助かった。事情を知らない人が見たら不審者もいい所だ。そんな事になったらこの店に来れなくなる。まだグレイ君との決着も付いていないんだ。通報しなかった通行人にホント感謝。――って、アレ?
「なんで俺の名前知ってるんですか? えーっと……」
「ああ、あたしは槌目秋奈。しがないアルバイターだよ。ちなみにキミの名前は宮古から聞いたのさ。今日も来てたからね。あたしと宮古は友人……みたいなもんだ」
「なるほど。はは……しかし、あいつも今日が休業日って知らずに来てたんですね。人の事言えないけどさ」
まさかとは思ったが、俺と同じで今日も来てたのか。雨の中、張り紙を見て立ち尽くす宮古の姿が容易に想像できる。ふふふ、さぞ悔しかっただろうな。事前に調べが付いてないとは詰めが甘い……。特大ブーメランだけどなっ!
「いや、宮古は今日ウチが休みなのは知ってるぞ?」
「え?」
自分で投げたブーメランを受け止めていた俺をよそに、タバコの煙を吐きながらそう秋奈さんは答える。……ん? どういうことだ?
俺が困惑しているとお姉さんもとい、秋奈さんは一瞬考えるような素振りをしてからポン! と手を叩く。
「――そりゃそうだ、まぁそう思うよね。……うーん、宮古ちゃんの知り合いならまぁ別にいいか」
秋奈さんは右手でチョイチョイと俺を手招きをして呼び寄せ、耳元で小さな声でこう言った。
「お友達サービスってことで……皆には内緒だよ」
耳元でそう優しくささやかれ一瞬ドキリとし上半身をのけぞらせる。顔が真っ赤になってしまってるのが自分でも分かる
「……っ! 一体何を!」
「いやー、やっぱ青少年をいじるのは楽しいね~。せっかく来てくれたんだ。宮古に会っていきなよ」
俺イジリに満足そうな笑みを浮かべながら秋奈さんは胸ポケットから一つのカギを取り出しだす。そのカギに付いているドックタグにはTOP10管理者用スペアキーと書かれていた
5話 END
6話 『ふだん騒がしい所ほど静かになると寂しい』へ続く