ゲームの主人公の名前は子供の頃は自分の名前とかにしてた気がする
「いらっしゃませ。ご注文はお決まりでしょうか? 本日キャンペーン期間でAセットをご注文されたお客様にはドリンク一本サービス中です」
「あ、はい、じゃあそれでお願いします。あと単品でオレンジジュースLサイズとポテトのLサイズもください」
「ご注文ありがとうございます。直ぐにお持ち致しますので少々お待ちください」
「ふぅ、疲れた……喉もカラカラだ」
ゲームセンターを逃げ出してから20分。俺は駅前近くのハンバーガーショップに入り、休憩をしていた。
店の近くじゃ危ないと思って遠くまで逃げてきたが、少し走りすぎたかな。
男性も逃げる俺たちを追いかけて来るようすも無かったし。
案外、俺が余計な事をしなくても何ごとも無く事態は収まったのかもしれない。
……いやいや。安心できる今だからこんなことを思うのであって決して俺の行動は無駄骨だった訳じゃない……と思いたい。
「お待たせいたしました。こちらご注文の商品になります。お会計1150円になります」
俺はハンバーガーセットを受け取り会計をすませ、店の2階席へ向かう。
ああ……貴重な今月の小遣いが減ってしまった。クレーンゲームで死闘を繰り広げたあとの出費は財布へのダメージが大きい。
「――さて、どうするか」
無事にゲームセンターから脱出も果たし、乾いた喉を潤すジュースも確保したのに少々気が重い。
二階に上った俺は一番左奥の窓側のテーブル席に目をやる。
そこには20分前一緒に……と言うか半ば強引に連れ出した銀髪の少女が座っている。
「オレンジジュースとポテト」
少女は手を伸ばし俺の持っているポテトとジュースを要求してきた。
その声は少し不機嫌そうに聞こえる。まぁ実際に頬をぷくっと膨らませてるからご機嫌斜めなんだろう。
――俺の気が重いっていう原因はこれだ。
このハンバーガーショップへ避難してきたものの、連れてきた女の子が拗ねてまともに会話をしてくれない。
確かにいくら危険そうだったからとはいえ、知らない男に無理やり連れて来られたのだから無理もない。そこで俺は機嫌をとるために飲み物でもどうかと聞いた所、『オレンジジュース』……と反応してくれた次第だ。追加でポテトも買わされたけどね。
「ちょっと込んでて遅くなった。ほら、これでいいよな」
俺は少女の座っている席の正面に腰をおろす。
渡したジュースをコクコクと飲み、ポテトを口にする少女の姿はまるでハムスターやリスを思わせる可愛らしさだ。
走っていた最中は必死で気が回らなかったがこうして見ると結構……いや、正直に言おう。とても可愛い、目見麗しい少女だ。
長いまつ毛に白く柔らかそうな肌、薄い桜色の唇。女の子特有の香水とは違う甘くて良い匂い。
そして一番印象的な銀色の髪の毛。風も吹いてないのにサラサラと揺れている。どう手入れをしたらそんなサラッサラヘアーになるのか不思議だ。
「……あげませんよ?」
「あ、いや、別に欲しいわけじゃないよ、大丈夫、気にしないでくれ」
イカン、イカン、思わず少女に見惚れていた。自分は年上好みの方だが、目の前に年下とは言え、ものすごい美少女が居たら目を奪われるってものだ。
「そうですか? ジーっとこちらを見ていたので、てっきりそうなのかと」
俺が違うと答えると少女は再び食事を再開する。俺も気を取り直し、残り僅かの小遣いを削って買ったハンバーガーを食べる。
うむ、久しぶりに食べると中々に美味い。最近はゲームセンターにお金を使ってばかりで、こういうの食べてなかったからその分おいしさが増して感じる。何て暴力的な美味さ。この濃すぎる味付けも今の俺には身に染みわたる旨さだ。
……しかしジャンクフードでここまで感動するなんて貧乏舌もいい所だな……もう少しお金の使い方を考えた方がいいのかなぁ……。
「ふふっ、お兄さん。ソレそんなに美味しかったんですか?」
「え?」
その声を反応して正面を向くと少女がクスクスと笑っている。
「口の周りにケチャップついちゃってますよ。あと洋服にも」
少女は俺の口周りを指さしながら笑っていた。どうやら俺は知らずのうちに夢中になってがっついていたようだ。慌てて自分の口元を触れてみると、今食べたハンバーガーのケチャップが大量についていた。
……うわぁぁ恥ずかしい! 高校二年生になってこんなワンパク小僧みたいな食べ方してたなんて! しかも初対面の女の子(美少女)の前で! 穴があったら入りたいってのはまさにこの事だよ。
備え付けのナプキンで急いで口を拭うが、よほど俺のケチャップまみれの顔がツボだったのかまだ笑っていた。
「そんなに笑う事ないだろ……まぁウマかったのは間違いないけどさ」
「クスクス……ごめんなさい。でもあんな汚しながら食べる人は小学生でもそうそういないと思います」
「俺だっていつもはこんな食べかたはしないよ。ただ今回はちょっと理由があってだな、それで……」
――あれ?
少女と言葉を交わす途中、その違和感に気付いた。……もしかして、機嫌が直ってきたのか? 普通に話せてるぞ。
「どうかしましたか?」
会話の最中で急に黙った俺に気付いたのか、不思議そうな顔をする少女。
そんな彼女に俺はタイミングをはかり一言『すまなかった』と謝り、頭を下げた。
「今さら言っても遅いけど、急に連れ出して悪かった、ゴメン。あのままゲームセンターに居たら君が危ないと思ったんだ。――でもいきなり知らない男に引っ張り出されたら不安で機嫌も悪くなって当然だよな。本当にすまなかった」
そのまま頭を下げていると一呼吸置いて彼女がじゃべり出した。
「……頭を上げてください。お兄さんが私の事を思ってしてくれた行動なのは分かりました。……それに謝るのはこちらも同じです。さっきまでの私、態度悪かったですよね。助けてもらたのにごめんなさい」
ペコリと少女も同じく頭を下げ俺に謝罪をしてきた。
「もう、怒ってないのか?」
「当然です。もう10倍以上の見返りを貰いましたから」
「ん? 10倍って何のことだ」
今度は俺の方が不思議そうに彼女の顔を見ると少女はコホンと咳払いを一回してから、その問に答えてくれた。
「さきほどのゲームセンターでの試合では私が勝っていたんです。したがってまだ、わたしにはゲームの続きをする権利がありました。乱入者に勝てばまたCPU戦に戻るんですから」
ゲームの試合内容を思い出しているのか、その顔は少し得意げだ。
「それでわたしのプレイしていたゲームは1プレイ50円なんです」
――ああ、なるほどね。
本来であればまだプレイ出来るのに俺が介入したせいでその50円分損したってことか。そしてその損失分をポテトとオレンジジュース代で埋め合わせた結果、10倍以上の額を負担として俺が支払っていたって訳だ。
「いがいと現金なんだな。君……」
……けどね。見知らぬ男に威嚇されてる状況で、損だの得だのといった勘定がよくできたな。俺より度胸があるのか、または、ただの怖いもの知らずなのか。
――そんな事を考えていると、ふいに少女がテーブル越しに俺の顔に前まで腕を伸ばし、人差し指を立てて口を開く。
「一つお兄さん言いたい事があります。私は『キミ』なんて名前じゃないです。宮古です。静流芽宮古。一応、中学三年生です」
――あ。
そこで初めてお互いに名前すら知らなかった事に気がつく。
「……そうだな。まだ自己紹介もしてなかったよな。俺の名前は兎神京太郎。高校二年だ」
俺も同じく名前を名乗ると少女――、宮古は少しだけ口を緩め優しく笑ったように見えた。
――5月上旬、冬の寒さが過ぎてしばらく経ち、春の陽気が体に慣れ始めたそんな時期。俺は一人の少女、静流芽宮古と出会う。
今にして思えばこの子との出会いが、俺のこれから始まる、ちょっと賑やかで騒がしくも輝いた日々の始まりだったのかもしれない。
4話 END
5話 『マップ上で行き止まりでも宝箱があるかもしれないから行きます!』へ続く