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RPGなら今はこの選択肢しか選ばないよね?


 銀髪の少女が続けざまにガラの悪い男に話しかけたようだが、既に男の方は少女の話など耳に入っていないようすだ。

 男の手が拳をつくり、その右手に力が込められているのが見てわかる。


 ちょっと待て、もしや本気で殴る気か? いくら頭にきたからって相手は小さい女の子だぞ! どうする? 店員を呼ぶか?


 ここの地下フロアにはカウンターなどは無く、店の人を呼ぶには一階まで戻らないと駄目だ。この状況では今から呼んだとしても間に合うかどうか……。


 他の客も同じことを考えているのか、それともこの緊迫した雰囲気に飲まれているのか。その場の全員が男と少女のやり取りを見てはいるが止めに入る者はいない。ただ傍観(ぼうかん)するだけ。


「それにあの場面で安直な飛びはありえません。落として下さいと言ってるようなものです。対応が不十分すぎます。同じ状況だった場合、私であれば――」


 銀髪の少女はいまだ淡々と語り続ける。


 まだ喋ってるよ! どんだけ言いたいことがあるんだよ! 

 大概にしないと本当にケガするぞ! 周りを見てみろ! 空気を読まない格ゲー駄目出しトークに客も少し引いてるじゃんよ!


 男はもう爆発寸前、店員を呼ぶ時間も無い………。


 ――あーどうしてこうなるかなぁ。

 ……くそッ!




 俺は大きく息を吸い込む。


 そしてこの(よど)み、張り付いた空間をぶち破るかのように大きな声をあげた。



「ごめんなさーい! 俺の妹がなにか失礼な事でもしましたかぁー?」



 その場の視線が一斉に俺一点に集まる。

 よし。とりあえず切り出しは成功。


「いやーすみません。この子ちょっと年上の人に対しての礼儀を知らなくて」


 腰を低くし、周囲の人に軽く頭を下げながら騒ぎを起こした中心人物の二人の元に近づく。


「どうやら妹が不快な思いをさせてしまったようでごめんなさい。後で俺がキツーく叱っときますからこの場はその辺で勘弁してもらえないですかね?」


 それから左手首に目を落として時計を見たふりをする。

 こういった演技は勢いだ。実際時計を付けてなくとも勢いで押し通す!


 「あ、いっけね。もうこんな時間か、お前もこんな所で遊んでないそろそろ帰らないと父さんに怒られるぞ! ってな訳で、俺達もうおいとまいますので、皆さんはごゆっくりと……ではこれにて失礼します」



 俺は早急に言葉で言いくるめ、男が呆然としている()に少女の手を取りそのまま引いてこの場を去ろうとする。



 ――完璧だ! この流れるような無駄のない動き! あとは一刻も早く一階、いや店の外にでも出れば安全だろう。


 ――そう自分自身の手際の良さに関心していると。



「…………誰ですか? あなた」



 少女は引かれる手に抵抗するように踏みとどまり、怪しむように俺の顔をみつめている。



「…………(俺)」


「…………(少女)」


「…………(男性)」


「…………(客)」


 その少女の一言で俺の顔から大粒の汗が流れるのがわかった。

 この静寂の中、チクタクと壁に掛けられた大きなアナログ時計の秒針を刻む音がとても大きく聞こえる。

 

 

 なんていうか、うん、はい終了。ミッション失敗。



 だからお前ちょっとは空気読めよぉ! 

 いま自分が危険な状況だって理解してないのか? どう見たって助け舟出してるようにか見えないだろ! 知り合いのフリをしてこの場を脱出って流れが潰れたじゃないか!


「……オイッ」


 自分の中でそんな葛藤を繰り広げていると我に返った男性が今度は俺に話しかけてきた。


「は、はい。なんで……しょうか?」


「……どうやらそのガキの兄貴ってわけじゃなさそうだよなぁ。どういうつもりか聞かせてもらおうか?」


 男は俺を(にら)みながら、まるで不良漫画やバトル漫画のキャラクターの如く、指の関節をパキパキと鳴らしている。もし俺がそれらのバトル漫画の主人公だったらここで――。


 『フッ……面白い、俺とやり合う気か?』

 『止めておけ、お前じゃ俺には勝てないぜ』


 ――とか、カッコよくセリフでも決めて主人公の強さを見せつける場面なんだろうけどな。

 しかし残念ながら俺はそんな主人公でもなければ、格闘技の経験者でも無い。喧嘩だってろくにした事は無い。情けない? 何とでも言うがいいさ! 



 そうこうしてる内に男の標的が俺に切り替わり、今まで少女に向けていた敵意を俺に移す。



 ――うぐッ、凄いプレッシャーだ。今までこの重圧に耐えてたのかあの子は。


 いや、俺がヤンキーや不良が苦手だからビビってるとかそんなんじゃないからな? 

 …………ごめんなさい。強がりました。メチャメチャ苦手です。


 視線だけ横に流し少女の方を見たが、いまだ頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるように見える。はぁ……この隙にでも逃げてくれればラクだったんだけど……。


 ――とにかく今はこの場を乗り切るのが優先だ。



「そのー、何と言いますか。妹、そう! 妹だ! この子を自分の妹だと見間違えて声かけちゃったんですよね。よく見たら違ってた。……みたいな?」


 少しおどけたふりをしながら笑って答えてみる。

 たが男の様子は変わらず俺を敵視して今にも噛み付かんとする形相(ぎょうそう)。――ここまで騒ぎになったら言葉じゃどうにもならないか……ならば!



 「いやー、この部屋って少し薄暗いじゃないですか地下だし? そういう事もあるかなーって……。俺ってばうっかりしてたよ。まいったなぁあははははっ…………で、そのうっかりついでに……逃げるぞッ!!」


「え? ひゃいッ!?」


 俺はその握った少女の手を強く引き寄せ、そのまま勢いよく走りだした。


 それに驚いたのか少女から変わった悲鳴が漏れる。

 踏み止まっていた足も引っぱられた力に負け、少女も俺と同じ方向へ走り出す形となる。



 繰り返すが俺は格闘経験者でもなければ喧嘩だってした事はない、したがって俺の選べるコマンドは始めから一択。『逃げる』だ。迷う余地は無し。


「あ、おい待てコラッ!」


 逃げるが勝ち、三十六計(さんじゅうろっけい)逃げるに()かず。昔の人は中々良い言葉をつくったもんだ。

 俺がこの場で激昂(げっこう)しているこの男性と掴み合いの殴り合いしたって勝敗は火を見るよりも明らかだし、なにより今は女の子の安全が優先だ。 




 後ろから聞こえた男性の制止の声を振り切り一目散に走り、俺は少女の手を引いたまま階段を駆け上がる。


 レトロコーナー、体感型ゲームコーナー、新作ゲームコーナーと、地下フロアへ向かう道を逆走するように賑わう客たちの間をすり抜けそのままの勢いで店の外まで走りぬけた。


 途中、いやでも人の目を()く銀髪美少女の手を物凄い剣幕(けんまく)で引っ張りながら走る俺の姿を大勢の人に怪訝(けげん)な目で見られたが気が付かなったことにしよう。

 なかには携帯電話を触ってた人たちもいたけど通報とかじゃないよね。


 3話 END


 4話 『ゲームの主人公の名前は子供の頃は自分の名前とかにしてた気がする』へ続く


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