得意分野になるとめっちゃ早口言葉になる人いるよね。とても親近感わきます
――ピ、ガランガラン。
自動販売機の前で少し背伸びをして一番上の列のボタンを押す宮古。
時刻は18時と少し。俺と宮古は今、地下フロアの休憩室に移動していた。
……ピロリン! ピロリン!
「あ、当りました。本当にコレって当たるんですね。初めてです。よかったら兎神さんどうですか?」
自動販売機で当たりを引いたことに驚く宮古。あとから聞いた事だが今回が生まれて初めての当たりだそうだ。
しばらくしても返事がなかったことに気がついたのか、宮古は当たりが出たもう一本分は緑茶を選んでいた。コクコクと冷たい飲み物を喉に流し込む可愛らしい音が聞こえてくる。
「あの……宮古先生、ちょっとだけいいでしょうかね」
「なんですか? ……別に先生じゃありませんが」
「先ほどの試合内容について質問があります」
休憩室のイスにぐったりと座る俺は、天井を仰ぎながら魂の抜けたような声で先生もとい宮古に話しかける。
「そうですね。私の方からも色々と聞きたいことがあったので丁度いいですね。その質問お聞きしましょう」
宮古は飲んでいたジュースをテーブルに置き、俺と同じテーブルに腰をかける。
……ちなみにその飲んでいたジュースが『バナナコーラ』という謎のジュースなのは保留にしてこう……やっぱ少し変わってるよなこの子……。
「で、質問とは何ですか? 上達の方法でしたら練習あるのみですよ? それとも兎神さんの使っていたキャラのコンボレシピを教えて欲しいんですか?」
「え? いや、そうじゃなくて――」
「兎神さん途中でキャラ変更もしてましたがそうですね。一番初めに選んだチームで言うなら火力でダメージを出すには連携を頭に入れていないと難しいので難易度の低い初心者向けのセットプレイで稼ぐ方が効率はよさそうですね。練習方法としては……」
俺の質問を予想して全然違う回答を活き活きと口にする宮古の言葉を遮り、その心の叫びにも似た心情を吐く。
「待て待て待て! いや、そういうんじゃないから!」
「この質問ではありませんでしたか?」
「俺が聞きたかったのは、話の流れ的に宮古は俺に負けてくれるんじゃなかったのかって質問なんだけど!? グレイ君人形を俺にくれる名目上だけの試合だったんじゃないのコレ!?」
「――? なんでわざと負けないといけないんですか? ちゃんと始める前にゲームで勝ったら差し上げるって条件を出してたじゃないですか?」
俺はその言葉に絶句するが、宮古のその表情には何の迷いも含みも無くただ素直に俺の質問に答えている様子……。
――なんてこった完全に俺の勘違い、一人相撲だ。なんて恥ずかしいッ!
あぁ、グレイ君……運命の巡り会わせともいえるレベルのこの出会いを逃がす不甲斐ない俺を許してくれ……。
まるで恋人と生き別れるかの如く、ガックリと肩を落とす。
「そこまで落ち込まなくても大丈夫ですよ。別にこの試合の期限は決めませんから、いつでも挑戦しに来てください」
「……ははは、そうか、それは有り難いが俺が勝てる未来が全然想像できなけどな……ちなみに今さっきだけで何試合したと思ってる?」
「20試合ほどですね。そのうち兎神さんが私に与えたダメージは見事にゼロです。まさかこれほどまで苦手だったとは、正直びっくりしてます」
「大正解……」
――そう、俺自身でもこの結果に驚きを隠せないでいた。いくら苦手なジャンルと言えども、ここまで圧倒的有利な条件の元、惨敗をするとは想像だにしていなかった。
ずっと集中してプレイしたせいで、集中力を全て使い果たし身も心もクタクタの俺。
――対して、横にちょこんと座るその小さい女の子はゲームだとしても年上の男子を軽く一蹴し、涼しい顔をしながら会話している今の光景は不思議でならない。俺ってまさか集中力やスタミナは女子以下なのッ!?
「……まぁ俺が弱いってのはひとまず置くとして、宮古は格闘ゲームの腕前的にはどの程度なんだ? 凄い方なのか?」
その不思議な光景が起きてしまった原因の答えを求めるかのように、ふいにそんな事を宮子に尋ねていた。
「……それは……難しい質問ですね…」
「――何でだ? そこまで難しい事聞いてる訳じゃないだろ?」
てっきり「はい、強いですよ」と少しばかりのその胸を張って俺に自慢でもするかと思って何気なく尋ねた言葉に思いもよらない返答が返ってきた。
――意外と謙虚な面もあるかと思った矢先、それは思い違いだと確信する。
「いいですか兎神さん、格闘ゲームにおいて一概に腕前と言っても色々あるんです。まず分かりやすく大きく二通りに分類するとします。一つはプレイヤー相手に戦う対人戦においての強さ。もう一つは技の練度です。前者は格闘ゲームの醍醐味である他のプレイヤーとの直接対決ですがコレは兎神さんも知ってのとうり勝敗がきっちり付きます。――ですが結果だけ見て取れる情報のみで強さを判別するのは早合点と言わざるえません。何故なら上級者同士の戦いでは一回の試合でどのぐらい相手の癖、攻撃、防御手段といった手札を出させるかも重要になってきます。隠したい相手の行動をいかに実行させるか、そんな技術なども腕とされるんです。そして後者、技の練度。主にコンボ精度を差す言葉ですがこのコンボにも実践向きと実戦には向きませんがその攻撃のバリエーションを見せる通称魅せコン――」
俺が聞いた何気ない質問は、予想の100倍以上の丁寧な説明で返される。その喋る言葉を形容するのであればマシンガン。昨日のチンピラまがいの男性と言い争ってた時とは比較にならないほどの連射速度ど弾数だ。
――宮古の説明は多少分かる部分もあるが、そのほとんどが意味不明。俺も知識がつけばこの専門用語満載のトークに割って入ることが出来るのだろうか……。それもまた想像が出来んな……。
あぁ……まずいなこりゃ、何か変なスイッチ押しちゃったかな。
10話 END
11話 「百万回やられても、負けない…!――なんて事を思ってみたい」へ続く