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3分読み切り短編集

立春

作者: 庵アルス

「今日は立春だよ、今日から春らしい」

 マフラーに顔を埋めながら、友人と歩く通学路。

 北国の悲しいところ、二月といえど、上旬では寒さが緩まない。

 Pコートにマフラー、手袋は欠かせない。

 寒がりの友人はこれにイヤーマフも加え、さらに靴下を二枚重ねて履いているという。

 そんなにするのかと驚いたところ、おばあちゃんが編んでくれた毛糸のパンツも履いているというから、尊敬するほどの防寒っぷりだ。

「暦の上ではそうだけどさぁ」

 不服そうに、友人。

「昔と今とじゃ六週間くらい違うんだよ、季節が。こんなに雪あって春なわけないじゃん」

 辺りはまばゆいばかりの白一色だ。もう少し南だと、冬の終わりも感じられるかもしれない。

 だが北国では、二月もそこそこ雪が降るので、まだまだ暖かさを感じられる日は遠い。

「そうだね」

 否定はしない。立春なんて春じゃないじゃん、とは毎年思っている。

 それでも口にするのは、季節の話題はなにかと広げやすいからだろう。他に話題がないわけではないのだが、朝一番の会話は、どうしても今すぐ感じることの方が多かった。

「雪、水不足の地域に送ってやればいいのに」

「ほんとだねー、ダムに放り投げてやりたい」

 道路傍の、背丈を超えるほど積まれた雪山を見つめて思う。雪国で水不足を聞かないのは、雪のおかげではないだろうか、たぶん。

「あ、あそこのカフェ、バレンタインメニューやってるって」

「冬ってスイーツ美味しいよね」

 友人が云うところの、数少ない冬の美点がそれらしかった。よく熟れたミカン、心躍るクリスマスのケーキ、家族で囲む正月のお汁粉、本州では苺が旬を迎え、バレンタインシーズンはチョコレートが目白押しで、桜風味のスイーツが登場すると、北国の冬も終わりが見えてくる。

 寒さもウィンタースポーツも苦手な友人にとって、冬は本当に甘いもの以外苦手なんだなと、笑ってしまう。

「帰りに寄る?」

「寄るー!」

「あ、見て」

 話しながら校門を通ると、学校前は除雪が行き届いているおかげと、生徒たちの往来のおかげとで、雪がシャーベット状に残りながらも、アスファルトが露出している。

 玄関とアスファルトの継ぎ目に。

「もうすぐ春じゃない?」

「ほんとだ」

 雪の重さと冷たさに、枯れて黒く押しつぶされた雑草。その間をかき分けるようにして、顔を出す若緑。

 春の足音が聞こえるようだ。

2021/02/03

昨日の朝一番に祖母上から「恵方ってどこ?」と電話がありました。真南を向いたときの11時の方向だと答えました。

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