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新しい生

気づくと窓の外はすっかり暗くなっていた。


 突っ込みどころ満載なんだけど!


 机の上にあるペン立てから、ペーパーナイフを取り出すと、本の裏表紙に四角く切れ込みを入れる。

 中には赤い液体の入ったクリスタルで出来た小瓶が固定されて入っていた。

 


 心臓が波打つ。


 これが……ヴァンパイアになるための、永遠の生を受けるための血液?


 取り出して眺めると、小瓶は光を反射して輝く。



 頭を振った。


 きっと何かの冗談だよね。


 小瓶の蓋を取ると、甘い香りが漂い、まるで蜂を誘う花の蜜のようだと思った。


 とりあえず、一口だけ。


 蜂蜜のような血液が、喉を流れて食道へと入っていき、喉が焼け付くように熱くなる。

中身が半分になった小瓶に蓋をして、机に置いた時、異変は起きた。

 

 身体が急激に熱を持ち、心臓が悲鳴を上げる。冷や汗が大量に吹き出し、次の瞬間、意識を失った。


 意識を失っていたのは、時間にしてほんの数分だったのに、目覚めた時には全てが変わっていた。


 どうして忘れていたのだろう。私はもう50年も少女のまま生きていた事を。

 私は、パパやシルビア、この国の人達は人間じゃないかもしれない。ママの書いた小説が現実だとしたら……辻褄が合うけど。

 

 でもなんでだろう、不思議と怖くない。

 全くの別人になった気分で、今なら何でも出来る気がした。

 

 私がやるべきことは、まず現状を把握する事。

 この国が本当にバルバトス帝国から支配を受けているか知ること。


『目覚めたかい?スカーレットの娘』


 頭の中に直接響く、男の声に飛び上がるほど驚いた。


「誰?」

 辺りを見渡しても、もちろん誰もいない。


『初めまして。僕はブレイド』


「ブレイド……?ママと一緒に呪いを受けた、あの?」


『そうだよ。君が10歳になり、スカーレットの血を飲むのを待っていた』


「私を殺すため?」

 自然と自分の口から出てきた言葉に少し驚いた。この異常事態に冷静に対応出来ている自分は、やはり以前とは別人なのかもしれない。


『……違う。君を守るようスカーレットに頼まれたんだ』


「ママを帝国に引き渡した裏切り者に助けてもらう事なんて一つもないわ」


『どうかな?この国の現実を僕なら見せてあげられるけど』


「どういうこと?」


『こういうことさ』


 頭の中に見たこともないような、高層の建造物が現れたかと思うと、円盤のようなものが高速で空を飛び交っている。

 映像が切り替わり、建造物に映し出される巨大な人が見えた。


『スクリーンに動画が映し出されているんだよ。君たちのいる監獄スペッターコロの様子が流されているのさ』


 映像では、オレンジ色の髪をした美しい少年が剣を構えていた。


 胸が高鳴る。

 彼を知っている気がする。


『アランだよ。今はアラン王子か』


「アラン?ママがずっと好きだった……?」

 何故か胸が苦しくなる。


『結ばれる事はない運命の二人だ』


 何故か胸がひどく締め付けられ、涙が溢れた。


『血の記憶かな。ローズ女王の記憶が血に残っていたんだろう』


「こんなに想っていたのに、どうして……」


『そんなものだろ。初恋なんて。僕だって』


「え?」


『なんでも。どんどん見せるよ』


「待って!一度にこんなには無理」


『もう待てない。どれだけ長くこの時を待っていたか。勝手な事は承知している。

 でも、君に託すしかないんだ。君しかやり遂げられないんだ。

 僕らが犯した誤ちを君に正して欲しいなんて、間違えてる。

 それでも、君に頼むしかもう方法がないんだ。

 助けて欲しい』


 絞り出すような苦し気なブレイドの声に胸が締め付けられる。これは血の記憶なのか、自分の感情なのかも分からない。

 自然と涙が溢れた。

 

「これがスペッターコロ、いえローズ王国を支配しているバルバトス帝国」


 帝国民は見た目はあまり私達と変わらないように見えた。ただ、生活はまるで違う。SF小説で見た未来の生活そのもの。

 私達とは真逆な快適な生活。

 無意識のうちに、あかぎれが出来た手を握りしめていた。


『みんな殺す?』


 言葉の内容とは裏腹の、ブレイドの軽い口調に、心が震えた。


「私が死ねと一言、言ってしまえば……叶うのよね?」


『世界は君のものだよ』


 鼓動が大きく跳ねた。


「ママはなんで……バルバトスの皇帝を殺さなかったの。それだけの力がありながら」



『記憶を……奪われたのさ』


 そう言ったブレイドの声は苦しそうに震えた。


『全てを奪われ、囚われの身となり、そして君の父親と恋に落ちた。全て、皇帝が仕組んだこと』


「記憶を奪う?そんな事、可能なの?」


『僕が研究していたんだよ……。僕自身の血を使ってね』


「なんでそんな事!」


『叶わない恋が苦しくて。ただ忘れたかったのさ』


「他にする事なかったの?……惚れ薬とか」


 ブレイドは吹き出す。


『無理やり好きにさせてなんの意味がある?』


「そこまで好きだったのに。そんな人を忘れてよかったの?」


『半分、冗談みたいな実験だった。ぶっちゃけ、現実逃避だし』


「ママを裏切ったのも、その辺の理由?」


小説では、ブレイドに呼び出されたママが、帝国の人間に背後から襲われたとあった。


 裏切り者。


 確かにそう書かれていた。


 そのブレイドに、ママは私の事を頼んだ?


『僕はスカーレットに頼まれて、スパイとして帝国へ潜入していたんだよ。僕の変身能力は適役だった』


「それで二重スパイになったってワケ?」


『それも作戦の内さ。皇帝の信頼を得て、隙を見て殺すつもりだった。殺せるはずだった……でも皇帝は』


 通信が乱れたようにブレイドの声が遠くなる。


『不死に近い身体をヴァンパイアの研究で手に入れていたんだ。致命傷を与える事が出来なかった』


 上手く言葉が出てこない。まだ信用すると決めた訳じゃないし、何が真実なのか分からない。

 しかも変身能力って、かなり厄介な能力じゃない?

 裏切りにはもってこい。


『慎重なところはスカーレットとは真逆で面白いな。幸い、時間はまだたっぷりあるから、少しずつ僕を知ってくれたらいいよ』


「そうだね。でも、ママを裏切っていたとしたら、絶対に許さない」


『構わない。今日はここまで。また会いにくるよ』


 ブレイドとの通信が切れ、思わず溜息をついた。













 


 

  




 

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