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父との再会

 黒の砦ではニールとシルビアが今か今かと二人を待っていた。

 ニールとシルビアに抱きしめられたローラはほっとして、どっと疲れた。 

「ローラ、疲れただろう。少し休みなさい」

「でも……」

「話は後でも大丈夫だから」

 シルビアがローラを連れて二階の客室へ向かう。

ニールはフランシスの肩を叩き労う。

「フランシス、ご苦労だったな」

 ニールはブラッディローズ入りのコーヒーをフランシスの前に置き、正面に座る。

「でもアランが……」

「たぶん大丈夫さ。僕を殺すまでは死なないだろう」

「それはそれで心配ですが……」

アランの冷たい目を思い出し、フランシスは頭を振る。

「そんな怪物を目覚めさせても、ローラさえ守れたらいいなんて父親ってすごいですね」

 フランシスはコーヒーを一口啜る。

「ローラはきっと僕を許さないだろう。だが、いくら嫌われたっていい。ローラが生きていてくれるなら」

 体の隅々にブラッディローズが行きわたり頭が冴えたフランシスは、痛みが和らいだと感じた。

「フィーミアは本当に残念だった」

「そうですね。パーツもすべておじゃんな上、ここは圏外なのでバックアップもなくお手上げです」

「君が作っただけに、シンクロ率も良かったしね」

「そうですね。それに、ローラは彼女を慕っていました」

「済まない。君には嫌な役を任せてしまった。フィーミアと君の関係を知ったらローラは何と言うか」

「僕が望んでやった事ですから。それに、もうバレました」

 目を見開き慌てたニールは身を乗り出す。

「それで、ローラは?」

「十五歳とは思えない大人の対応をされました。彼女は本当に十五歳ですよね?」

「ファンタジアではその筈だし、君も見てきただろう?ローラは優しいから君を思いやったのかも」

「帝国のした事に比べたら、可愛いものだと言ったんですよ?思春期の女の子の言葉じゃないですよ。前に話をしましたが、この国の事情も知っていて受け入れているようでした。十五歳の少女にそんな事が出来ますか?」

「その事については僕もローラから話を聞きたかった。スカーレットの書いた『ローズ王国物語』を読んだとしても、現実だとすんなり受け入れられるような内容じゃない。小説としてローラに残したのも、真実を知った時のショックを和らげる為で、事実を知らせる為ではない。それなのにローラはこの国の歴史だと気づいた。僕らが知らない何かがローラの身に起こったのかもしれない」

「そうかもしれませんね。それから……、今回の騒ぎはどう収拾をつけますか?」

「地盤沈下でいいんじゃないか。国王にはそう提案した」

「ブラッディローズの庭園はどうなったのでしょう?」

「シルビアと様子を見に行くから、その間に休むといいよ」

「ガーネット様に報告は?」

「ローラが法王に捕まり気が気じゃなかったようだから、報告しておいたよ」

 それを聞きほっとしたフランシスは急に眠気が襲ってきた。

「シャワーを浴びて少し休みます」

「フランシス、娘を救ってくれてありがとう」

 ニールは深々と頭を下げた。

「当然のことをしたまでですよ」

 そう言ってフランシスは店の奥にある二階へ続く螺旋階段を上っていった。


「とりあえずコーヒーでもいかがですか?」

 シルビアはマグカップを両手に持ち、さっきまでフランシスが座っていた席に形の良い脚を組んで座る。

「ニール様、大丈夫ですか?」

「僕は最低の父親だ。自分は表舞台に立たず、コマのように娘を動かして……娘の手を汚させて」

 俯いたニールは拳を握りしめた。

「ヨハネは用心深かった。ローラ様でなければ近づく事も難しかったでしょう」

「それでも!自分が不甲斐ない!」

いつもの穏やかな姿からは想像出来ない、眼光鋭いニールがいた。

「落ち着いてください。黒騎士の顔になってますよ。それに、貴方はお尋ね者ですから、表舞台にはそもそも立てないでしょう。スカーレット様も人質に取られてますし、派手な動きは取れないのですから」

「そうなんだが、情けなくて」

「そう思うなら、帝国を打ち滅ぼして下さい」

まじまじと見つめられた、ニールは瞳を真紅に染めた。

「そのつもりだ。そもそも、私が兄上をもっと早く止めていたら……ローズ王国はスペッターコロなどと呼ばれる事もなかった。その為には例え、アランに殺される事になっても構わない」

「罪滅ぼしは貴方の死ではありません。数多く死んでいったローズ王国の人々の為にも生きて償わなければ。

死神をも遠ざけ、神に近づこうとしている悪魔を止められるのは、もはやアランとゲッカしかいないでしょう。 

ですが、貴方にしか出来ない事があるでしょう」

「そうだな。それに今はまだ……ローラのために生きていないと」

 顔を顰めたシルビアはニールの顔を見つめた。

「ゲッカの事は調べたかい?」

「はい。ゲッカのデータを監査局で調べましたが、帝国に現れたのはここ一年の間です。それなのにスペッターコロへの入国を許されている。帝国へ入国する前の情報はなく、謎に包まれています」

「フランシスから聞いた話と一致するな」

「それでゲッカの話を信じますか?」

 シルビアがコーヒーを飲む。ニールは角砂糖を二つほど入れ、スプーンで混ぜた。

「僕は信じるよ。『ローズ王国物語』とも一致するしね」

「千年前にローズ王国に隕石が落ちた記事がありました」

「千年前か。ちょうどスペッターコロがローズ王国と呼ばれはじめた頃、帝国バルバトスとの冷戦が始まった時期だな」

「スペッターコロいえ、ローズ王国の闇歴史の始まりですね」

「帝国と同盟を結んだのに。初めから兄さんは、家畜のようにしか扱っていなかったんだ」

苦々しい顔をしたニールは拳をきつく握りしめる。シルビアは気を遣い声をかける。

「そろそろブラッディローズの様子を見に行きますか?生命力の強い品種ですから大丈夫だと思いますが……」


「ブラッディローズを見に行くの?」


 ニールは心臓が飛び出そうなほど驚いた。シルビアも目を見張る。

「ローラいつからそこに?」

 口の中が乾いていくのを感じながらニールは聞く。

「怖い夢を見たの。それで降りてきたところ」

「大丈夫かい?一緒にベッドまで行こうか?」

 ローラは首を振る。

「私も一緒に行ってもいいかな」

 思わずニールとシルビアは目を見合わせた。

「ブラッディローズのことを、この国のことをもっと知りたいの」

 父親としては連れて行きたくなかったがニールは覚悟を決めて、分かったと頷く。


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