反撃開始
アランは研究棟を抜け暗い地下通路を全力で走っていた。
頼む!間に合ってくれ!
やがて目の前が開け、飛行場が現れる。スカイドライブに乗り込んでいたジェスターは目を丸くする。
「ジェット装置で飛んできた俺達に追いつくってどんな足の速さだよ!団長!早く出して!」
「遂に覚醒したか」
忌々し気に呟いた団長はスカイドライブを垂直に飛ばす。
「逃げるのか?臆病者め!」
アランが怒鳴りつける。
「これはほんの気持ちだよ、アラン」
団長は機体を旋回させアランの方に向けるとミサイルを発射した。
アランはミサイル発射のボタンが押されたのと同時に、崖に向かって人並み外れたスピードで駆けた。
凄まじい爆撃音とともに飛行場が破壊され、数百メートル下の滝壺へ崩落していく。
爆発が起こった瞬間、アランは崖から飛び降りたが、爆発による気圧の変化で脳震とうを起こし気を失った。
数百メートル下の滝壺へ落下していくアランを、飛行型モビルスーツを着た月華が追いかける。爆風に煽られ、瓦礫が落ちてくる中、なかなか追いつけないが、ようやくアランの足首を捕まえた。引き寄せて抱き抱えると、轟々と音を立てて流れ落ちる滝の裏にある洞窟へと着地する。
アランは額から血を流し、脇腹は抉れ、すぐに血の水たまりができた。
「無茶しちゃって」
苦々しい表情の月華は注射器を取り出すと、腕の動脈へブラッディーローズを注入する。
モビルスーツを脱いだ月華は、上着を脱ぎアランを寝かせると洞窟の奥へ向かう。
「数百年待ったんだ」
懐から取り出したロザリオを何もない空間へ翳すと、シルバーのボディを持つ楕円形の乗り物が現れた。
「反撃開始だ」
大聖堂から出て城へ向かう小道を歩いていたローラは突然の爆音に仰天し腰を抜かす。
「今のは何?」
大聖堂の方をローラが振り返った時、衝撃波による大きな振動が起きた。
「きゃ!」
フランシスもしゃがみこみ、ローラを守るように覆いかぶさる。
「奴ら、まさかミサイルでも打ち込んだんじゃ」
「地面が!ひび割れてる!」
「まずい、走れ!」
「あ、足が」
立てないローラを抱き抱えると、フランシスは全力で走り出す。ローラも全力でフランシスにしがみつきながら、大聖堂が地面に飲みこまれ盛大な音を立て倒壊していくのを見た。
「アラン!」
叫び声も建物が崩れる音にかき消される。
「嘘よ!こんなの……こんなのって」
フランシスは走るのを止めローラを下ろすと、肩で息をしながら大聖堂があった場所を見つめた。
「ローラ、本当にごめん。辛い思いをさせて、その結果がこれだなんて」
フランシスはがっくりと肩を落とす。
「仕方ないわ」
ローラは憂いを帯びた眼差しを向ける。
「私の方こそ、フィーミアを守れなくて……ごめんなさい」
「そんな事!ローラが無事で良かった。それに、君は良くやったよ!あのヨハネに一撃を喰らわせた。今まで誰も出来なかった事だ」
「やっぱり。フィーミアを通して見ていたんですね。私が刺した事は、あなたが来たタイミングでは分からないはず」
フランシスはあっと小さく言ってから気不味そうにした。
「すまなかった」
「騙していた事?覗き見してた事?知っていながら隠していた事?」
フランシスは胸の辺りを押さえ、言葉に詰まってしまう。
「あなたがした事なんて、帝国のした事に比べたら、可愛いものよ。
あいつらは、国民一人一人の目にレンズが入れ、お互いを監視するカメラの役割をさせた。その上、映像は監査局で帝国の人間に管理させ、放映する事で利益まで得ている。
今更、あなたに見られたくらいなんともないわ」
フランシスは黙り込んで俯く。
「何故、泣くの?」
「そんな事を平気そうに話すローラを見ているのが辛くて」
ローラは心臓を急に掴まれたような気がした。触れるのを少し躊躇ったローラの手が、フランシスの頭を優しく撫でる。
予想外の事にフランシスは顔を赤らめた。普段、ローラに普通にやっている事だが、年下のローラにされると気恥ずかしい。この状況では泣く子をあやすようだと感じ、恥ずかしさで涙も止まった。
「カッコ悪いな」
気不味さを隠すようにローラの手を掴む。耳まで赤くなっているフランシスは俯いたままだ。
「ありがとう。私の為に泣いてくれて」
フランシスの鼓動が早くなり、思わずローラを抱きしめていた。
ローラに背中をぽんぽんと叩かれ、恥の上塗り状態のフランシスは別の意味で涙が出そうだ。
「黒の砦へ向かいましょう」
軽く咳払いしたフランシスが手を差し出す。




