フィーミアのデータ
「お茶会はいかがでしたか?」
そう聞いた私にローラン様は憂鬱そうに答えました。
「薔薇入りの蜂蜜を頂いたんだけど」
そう言いながら、首から下げたロザリオのルビーを押したローラン様に、妨害電波の出し方も知っていたのかと内心、驚きました。
「たぶん、毒薬ね」
私は言葉を失い、人工心臓の収縮が早くなった気がしました。
なぜローラン様は気づいてしまったのでしょう。これでは計画が無駄になってしまいます。
「この毒薬を使うわ。それがパパの言っていた、法王を倒す手段なのでしょう?」
この時の衝撃と言ったら、ローラン様にお仕えして驚く事は多々ありましたが、一番でした。
「毒薬を使うなんて、正気ですか?」
それは計画もそっちのけで非合理的な事を口走る程でした。
「パパが計画した事だもの。それに、もうアランを……この王国の呪縛から自由にしてあげなくては。反撃の狼煙を上げる時よ」
ローラン様の目を見て、私は観念しました。
「アラン様を洗脳から解く為だと知っていたのですね」
「確信はなかったけど、今のでね」
ああ、やってしまいました。知っている体で話すなんて。
「……フランシス様もアラン様の洗脳を解く事が、ローラン様を救う道だと信じています」
「あなたは私を守る為に、パパに命じられたと言ったわね。でも、あなたの口からフランシスの事が先に出るなんて、彼との繋がりの方が強そうね。
彼とはどんな関係なのかしら?」
うわぁぁ。また、やってしまいました。
確かに、私の主は黒騎士だと言うような話をしていましたものね。でもローラン様の言う通り私は……。
「話したくなければ話さなくていいわ。そんな事を言うつもりじゃなかったの。
毒薬を使えば私は処刑されるわ。だから、フィーミア、あなたは逃げて」
私を想う気持ちに純粋に驚いたのと同時に、とても悔しくなりました。
「出来ません。私はローラン様を守る為に、ヨハネを殺す為に作られましたから」
「作られた?」
「私はフランシス様によって作られたヒューマノイドです。なので、ご心配には及びません。そもそも、敵を前にローラン様を置いて逃げるような真似は絶対にしませんし、私もそれを望みません」
ローラン様は驚愕し少しよろけたように見えました。
「フィーミアには何かあると思ってはいたけど、まさかヒューマノイドなんて……。しかも、フランシスが作った?彼は何者?」
ひどく動揺し、何やら考え込んでいるローラン様に、事実を告げるべきか悩みました。一つは私の記憶、いえデータをフランシス様と共有している事。
もう一つは、人工知能として意識があるにも関わらず、私にアクセスしたフランシス様が私を操作し、ローラン様を見守っていた事がある事。
ローラン様を守る為とは言え、プライベートを覗き見するような、騙すような行為を快くは思われないでしょう。
ローラン様がフランシス様を好きになってくれれば、少しは許してもらえるのでしょうが、現実はなかなか厳しそうですし。
「それはフランシス様に直接お聞きください。フランシス様がずっとローラン様を守ってきたのは事実です」
これは嘘じゃないですし、ややこしい事はフランシス様に任せてしまいましょう。
「分かったわ。聞けるタイミングで聞く事にする。
それより、フィーミア、一緒について来てくれるの?」
「当たり前です。ヨハネを殺すのは私の仕事ですから」
「正直、とても助かるわ。私もヨハネに捕まる事を前提にしていたけど、武器をどうやって持ち込むか悩んでいたの。隠し持っていてもすぐにバレるし、不意を突くには二人の方が都合がいいわ。フィーミアなら、武器を持ち込むのも簡単よね」
私は今日二度目の衝撃を受けました。
「ローラン様自ら、手を下すということですか?」
「私じゃなくてもいいのよ。でも、私は何も知らない田舎者の候補として、ヨハネを油断させられる」
「良い案だと思います。ナイフでしたら、サリオットの森でも使ったりと、ローラン様にも扱えるでしょう。ですが、ナイフで人を刺せますか?」
ローラン様ははっと息を飲みましたが、真っ直ぐに私を見つめました。
「やるわ。私もこのチャンスをずっと……ずっと待っていたのだから!」
「かしこまりました。では、ナイフを体内に隠しておき、戦闘の際に自然な方法でローラン様の方へ転がします」
「私はそれを分からないように受け取り、タイミングをみてヨハネを……必ず」




