フィーミアの正体
「さあフィーミアに会わせよう」
ヨハネが指をパチンと鳴らすと、目の前の壁が急に透明になり、手を拘束され首輪をつけられたフィーミアが現れる。
「ローラン様!何もされていませんか?」
「フィーミア、私は平気よ!」
「良かったです。この時を待っていました」
フィーミアがヨハネを睨みつける。
「ここで暴れる気か」
「お前を殺すために私は存在する」
「ジェスターからお前の話を聞いた。こちらが何の対策もしていないと?」
ヨハネは指を鳴らす。
「ウォーレン、出番だ」
隣の壁も透明になり、旅団の一員、怪力のウォーレンが首を回しながら立っていた。
「待ちくたびれたぜ。暴れていいんだな?」
異様に発達した上腕二頭筋を見せながらウォーレンが聞く。
「強化ガラス壁でこの空間を覆った。思う存分やってくれ」
「フィーミア、あんなのに勝てるわけないわ!あなただけでも逃がしてもらえるようヨハネに頼んだから、負けを認めて!」
フィーミアはにっこりと笑う。
「ローラン様にお仕えできて幸せでした。あと、願わくばもう少しお側に居たかったです」
「フィーミア!」
「お元気で」
あんな筋肉隆々の獣みたいな男にフィーミアみたいなか弱い女の子が勝てるわけない。
「その潔さ、嫌いじゃないな」
そう言うより早くウォーレンが全力で拳を繰り出す。フィーミアは辛うじて避けたが、頬が切れて血が流れた。
「身体強化した俺の攻撃を避けるなんて流石だな。だがいつまで持つか」
繰り出され続ける拳をなんとか避け続けるフィーミアだが、じりじりと押されている。ついにパンチが顔面に入り、フィーミアは見えない壁に激突して床に転がった。
ローラの悲鳴が響く中、フィーミアはすぐに立ち上がり目にも止まらぬ速さでウォーレンに近づくと、隠しもっていたナイフで右腕を切りつけ、鳩尾に蹴りを入れる。
「なかなかいい蹴りだ」
血を吐き出しながらウォーレンはニヤリとする。
ぱっと飛びのいたフィーミアは、ウォーレンの方に右手を上げると、掌から赤いレーザービームを出した。ウォーレンも避けようとするが左足をかすり、肉が焼け焦げる。ビームが当たった床も同じく焼け焦げ、煙が上がった。
え?
ローラは心臓が止まるかと思うほど驚いて声が出ない。
「飛び道具なんて汚いな」
「か弱い女子なもので」
そう言うなり、掌からビームを連射する。ウォーレンは防御に徹するしかない。
「だから最新型は嫌いなんだ」
そう呟いたヨハネは、ロザリオのルビーのボタンを押す。
首輪から電流を流されたフィーミアは苦痛に顔を歪め、片膝をつく。
「卑怯者!」とローラは叫んだ。
ウォーレンがすかさずパンチを打ってくるが、フィーミアは人間離れしたスピードで避けた。
「ウォーレン、これを使え」
ヨハネが三又槍を放った。武器を受け取ったウォーレンがフィーミアに向けて研ぎ澄まされた切っ先を振り下ろすと、槍から電撃が発せられ、命中した。
フィーミアの体から焦げた臭いがして、煙が上がる。フィーミアの持っていたナイフがローラの足元に転がってきた。
「フィーミア!」
ローラが駆け寄ろうとしたが、ヨハネに腕を掴まれた。
ウォーレンは倒れているフィーミアに三又槍を突き刺す。上体ががくんと揺れ、フィーミアが口から血を吐いた。
「やめて!」
悲鳴に近い叫び声をローラは上げた。
「ローラン、よく見ろ。フィーミアはこれでも人間か?」
ローラの腕を引っ張りながらヨハネはフィーミアに近寄る。ヨハネは躊躇いなくフィーミアの身体から三又槍を引き抜き、切っ先で表皮を抉る。
「ヒューマノイドだ。名前は聞いたことがあるだろう」
フィーミアの体内から金属の部品が見えた。
「もう、やめて……」
やれやれとヨハネが頭を振る。
「俺は最新型がやっぱり嫌いだ。人と見分けがつかないからな」
傍にいたウォーレンがフィーミアが上げた右手を踏みつけた。
「まだ動くみたいだぜ」
三又槍を振り上げたヨハネにローラが言い放つ。
「やめなさいよ!」
「何?」
ヨハネは突然の衝撃に震え、目を見開きローラを見つめた。ウォーレンも状況が理解出来ず、一瞬、フリーズしたが、すぐにローラの襟元を引っ掴むと、強引に引き倒す。ローラは強かに身体を打って転ばされた。
「てめぇ!何してやがる!」
ウォーレンの凶暴で背筋が凍るような怒鳴り声がラボに響き渡るが、ローラ怯まない。
それどころか、ローラは嗤っていた。
「ようやく一矢報いたわ」
上体を起こしたローラの両手は血で汚れていたが、気にする様子はない。顔面蒼白で震えているヨハネに言う。
「いい表情ね。実験体が反撃するとは思ってなかった?油断しきってバカみたい」
ウォーレンが殴りかかろうとローラに向かって来るが、ローラは睨みつけた。
「実験体を傷物にしてもいいの?」
「ウォーレン……やめろ」
そう言ったヨハネは吐血し、片膝をついた。脇腹にはナイフが深々と突き刺さり、白い白衣がみるみる赤に染まっていく。
「お前じゃなければいいんだな!」
ウォーレンは転がっていた三股槍を掴むと電撃をもう一度、フィーミアに食らわせた。
「あぁ!」
ローラはフィーミアに駆け寄る。顔の皮膚が半分焼け、金属のフォルムが剥き出しになっている。
「私は平気です。だから……泣かないで」
「痛みがないわけじゃないんでしょう?より人間に近づけるために作られているのだから」
「ローラン様と……過ごせて……幸せでした」
「必ずあなたを救うわ」
フィーミアは薄れゆく視界の中で、あるデータを引き出した。
データはローラがフランシスとのお茶会を終えて戻った時に遡る。




