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法王のラボ

 ローラは青い発光石が放つ青白い光を鉄格子越しにぼんやりと眺めていた。

「ローラン、いつまで食べないつもりだ?フィーミアがどうなってもいいのか」

「フィーミアは何もしていないわ!」

「あの女は異端者だ。それだけで十分だろう」

「お願い。フィーミアだけは助けて。私は死刑で構わないけれど、彼女は何もしていないのよ!」

 ローラはヨハネを睨みつけた。

「お前が俺に逆らわないと誓うならあの女は見逃してやってもいい」

「どういうこと?私は死刑じゃないの?」

「お前は俺のモノだから死なせるわけはないだろう。だが、今に死刑の方がマシだったと思うだろうな」

「どうでもいい。フィーミアさえ助かれば」

「いいだろう。まずは食事をとれ。食べ物だけはお前の好きな物を持ってきてやろう。それを食べたら地下牢を出るぞ」

「地下牢を出る?」

「ああ。新居へ引っ越す」

 ローラは木の簡素なテーブルに置かれた食事を見る。ローストビーフにサラダ。フランスパンに、スープまでついている。

「スープが冷めてしまったな。交換してこよう」

「最後にフィーミアに会わせて。彼女が生きていることを証明し続けることがあなたに従う条件よ」

「いいだろう」

 そう言って法王は地上への階段を上って行った。


 

 食事を食べ終え牢から出されたローラは、大理石のように表面がツルツルとした首輪をはめさせられた。首輪は軽いがひどく嫌な気分だ。

 地上へ出るのかと思えば地下牢の奥にある木戸まで連れてこられた。法王が木戸に触れると音もなく扉が開く。

 薔薇城と同じね。

 中から光が漏れ、ローラは思わず目を瞑る。眩しさが収まり、目を開けると、白く開けた空間が広がっている。

「私のラボへようこそ」

 何もなかった空間に、何かのグラフや絵のようなものが現れローラは息を飲む。

「最新式のスクリーンだ。これで実験結果がすぐに分かるし、AIがグラフやレポート作成までしてくれる」

「お帰りなさいませ。ヨハネ様」

 部屋全体に響き渡る声にローラは飛び上がった。

「ただいま、テレサ。コーヒーを用意して。あとCプランはどうなった?」

「かしこまりました。

 Cプランは順調ですが、実験体Cは死亡しました。ブラッディローズの庭園に肥料として埋めますか?」

「いつものように頼むよ」

「承知いたしました」

 ローラは唇を噛んだ。

「テレサ、白衣も頼む」

「かしこまりました」

 扉がまた音もなく開いたかと思うと、半月のフォルムで足に車輪がついた物が、トレイにコーヒーを乗せ、もう一方の長いアームでハンガーにかかった白衣を引きずることなく持ってきた。

「旧型のロボットだが、僕はこっちの方が好きなんだ。レトロ感があるだろう」

 コーヒーを一口飲むとトレイに置き、皺ひとつない白衣を羽織る。

「やっぱり白衣はいいな。法王なんてピエロ、演じるだけで疲れるよ。ここではドクターと呼んでくれ」

「ドクター……」

「ここが僕の臨床研究のための施設だ。

君はローズプロジェクトの中心人物、実験体Rだよ」

 ローラが俯いたのを見てヨハネは満足そうに言う。

「恐らく君はSF小説を読まされていただろう?あの世界が現実だと思えばいい。王宮での生活が虚構だよ。

 父親のニール・キーフブルクは、現実をうまく受け入れるようにするため本を使って君に教育を施していたと考えるのが普通だ。

 これでSFが禁書になっていた理由が分かったろ」

 ローラの心臓が波打つ。

「異端者を裁くのは、真実を隠す為ね」

「神の仕事の訳ないだろ。君の言う通り、真実を隠蔽するのと、実験体を用意するための口実さ」

 ローラは怒りに打ち震えた。

「何の権利があって国民をそんな目に合わせるの?絶対に許せない」

 ヨハネは鼻で嗤う。

「この国の連中はすべて受刑者だ。犯罪者をどう扱おうが関係ないだろう。

 帝国に対して大量虐殺を行ったその報いさ。一番の戦犯はアランだがな」

「アラン?」

「あいつは化物さ」

「化け物はあなたよ!」

「信じたくないならそれでいい。私は事実を言っているまでだ」

「アランが死んだからって適当なことを言わないで!」

「僕はあんなことでアランが死ぬとは思ってない。たぶん、洗脳システムを解除するために、わざと心肺停止にさせたんだと思う」

「洗脳システム?」

「本当に何も知らないんだな。詳細はのちのち話すよ。生憎、時間はたくさんある」

 ドクターヨハネはニヤッと不気味な笑みを浮かべた。

「仮に生きているとしても、どうしてアランを見逃したの?」

「どうしてって、君だよ。

 罪人として捕まえれば僕の手の中。アランより君の方が価値がある」

「私がローズの娘だから?」

「そうだ。ローズの力をすべて引き継いでいるであろう君を、母親と同じ実験体にするためだよ」

「母親と同じ?」


「君はもう逃げられない」


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