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アラン王子からの求婚、そして別れ

 収花祭の三日前、アランから公式に二人きりのお茶会に呼ばれたローラは不安を隠せなかった。

 ジュリア様と結婚したいなんて言われたらどうしよう。

 ハチミツの小瓶を眺めローラは溜息を吐く。

「とても綺麗ですよ、ローラ様」

長い髪を巻き、後ろで真珠のバレッタで止めたローラは薄い桃色のドレスを身に纏う。

「うん、ありがとう」

「ではそろそろアラン様のお部屋へ向かいましょうか」

「うん……」

 ローラはピンクの小瓶を持つ。 

「私がお持ちしましょうか?」

「大丈夫よ」

 小瓶を握りしめローラは心を落ち着けたくて深呼吸する。

 アランの部屋は城の中心部に一番近い。

 初めて行くけど、ジュリア様は行ったことあるのかな。

 ぶんぶんとローラは頭を振る。

 考えても仕方ない。たぶん、アランの中で答えは出ているはず。

 あっという間に、金色の豪華な薔薇の飾りがあしらわれた扉の前に着いた。扉の前にいる衛兵が頭を下げ、ドアノブに手をかけ扉を開けた。

 ローラは会釈をして中に入る。

「いらっしゃい」

 そう優しく微笑んだアランは窓の日差しだけではなく、とても眩しく見えた。ローラの胸が高鳴る。

「悪いんだけど、フィーミアは別室で待っていてもらえるかな」

「わかりました」と答えたローラは、フィーミアに目配せし、扉が閉められたのを見守った。

「どうぞ」

 アランが椅子を引いてくれたので、広い部屋をゆっくりとローラは進む。 

侍女は見当たらず完全に二人だけの空間だ。椅子に腰かけると、アランがローラのカップにお茶を注ぐ。

「お見舞いにも行かずにごめんね。首の怪我は良くなったかな?」

 苦し気な表情を見せたアランにローラは言う。

「首はすっかり良くなりました。ただずっと放っておかれたことの方が辛かったです」

 自分も椅子に座り、お茶を飲もうとしていたアランは一瞬固まり、カップを戻す。

「本当にごめん。またローラを傷つけてしまうんじゃないかと思うと、恐ろしくて会いにいけなかったんだ」

「それでジュリア様には何度も会いに行っていたのですね。専ら王宮の噂ですが」

「そんなに何度も行ったわけじゃないよ。噂ってのは怖いね。妬いてるの?」

「悪いですか!」

 涙目で顔を赤くしているローラの傍に来たアランは跪いた。

「辛い思いをさせてごめん。でも、もう二度とそんな思いはさせないから」

 ローラの手を握りアランは真直ぐにローラを見つめる。


「ローズ、僕と結婚してください」


 ローラは息を飲む。

 え?今、なんて?

 ポカンとしているローラにアランはもう一度言う。

「僕と結婚してください」

 ローラの目からボロボロと涙が零れ落ちる。

「もちろんです」

 アランが指でその涙を拭い、立ち上がり抱きしめた。

「不安にさせてごめんね」

 ローラもアランの背中に手を回し抱きしめる。

「未来は決められたもので変えることができないとずっと教えられてきた。

 ローズ女神は全知全能、全てを知っていて未来を完全に予測できる。つまり、未来は一つしかない。だから、どう足掻こうが無駄なことだと言われてきた。

 やがてはジュリアと結婚し、ローズ教会に忠誠を誓い一生を過ごしていくんだと法王に言われて生きてきた。

 僕は絶望していたんだよ。

 君に会うまでは」

 アランがローラを抱きしめる腕に力を込める。

「いつか教えてくれたよね。ミクロの世界では未来は一つじゃない。未来には色々な可能性があるって。

 僕にとってローズはたった一つの希望の光なんだ」

 アランはいままでどれほど辛い思いをして生きてきたんだろう。不自由に歪められた世界で。

「私も未来を変えられるように努力します」

 二人は手を取り合った。

 アランが絨毯に転がっているピンクの小瓶に気づく。

「これって薔薇入りハチミツ?」

「そうみたいです」

 ローラはちょっともじもじとした。

「薔薇入りハチミツって大好きなんだよね。紅茶に入れてもいいかな?」

「もちろん」

 ローラはクリスタルの蓋を回してあけると、とろりと艶のあるピンクのハチミツをアランのカップにティースプーン一杯くらい入れる。

「いい香り」

 アランが椅子に座って、紅茶を飲むところをローラは凝視する。

「何?どうしたの?」

 あまりに見られるのでアランは一口飲んでローラに聞く。

「実はねそのハチミツは」

 そう言いかけたローラはみるみる青ざめた。

 アランが椅子から崩れ落ち、絨毯に倒れた。激しく咳込み顔面蒼白になって、胸を押さえている。

「アラン!?」

 ローラは慌てて駆け寄るが、アランはぐったりして反応が薄い。


「だ、誰か!」


 声が震える。


「誰か!誰か来て!」


 ありったけの声で叫ぶ。


「どうされました」と扉を開けて入ってきた衛兵は動揺を隠せない。

「医者を!」

 泣きながらローラは叫び、衛兵は大急ぎで出ていく。

 ローラはアランの手が驚くほど冷たいことに気づき、凍りつく。

 恐る恐るアランの口元に顔を近づけるが呼吸音が聞こえてこない。


 複数の足音が廊下から聞こえ、医者と衛兵が部屋に慌てて入ってきた。医者が呆然自失のローラに退くように言い、脈を調べる。発光石をはめたライトを目に当て、顔をアランの顔の近くに下げると、そこから胸部を確認する。ゆっくりと起き上がると首を振った。


「残念ですが、亡くなっています」


 その場にいる全員が言葉を失った。


「王子は私が連れて行きましょう」

 唐突に発言をした人物に皆の視線が集まる。

「葬儀の準備をしなければ。人も呼んできましょう」

 そう言ったのはゲッカ男爵で、遺体担架に乗せさせると、布をかけ外に運ばせた。


「嫌!アラン!」


 ゲッカ男爵は目で合図し、使用人を先に行かせる。追いかけてきたローラの肩をゲッカはつかむ。


「王子は亡くなったんです」


 ローラはその場に座り込むと泣き崩れた。


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