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第七話 行き先は

「明日出発する事になったぞ!」

「急な日程で申し訳ありません、勇者様方」


 模擬戦から数時間経った夜。食堂で五人集まってのんびりと食事をしている最中、クラークとオーレルの二人が唐突な事を言いながら食堂に入ってきた。


「んぐっ……出発? どこにですか?」


 状況が飲み込めないながらも、とにかく返事をしなければと考えた信也は、食べていたものを飲み込んで、とりあえずどこへ行くのかと無難な返事を返した。


「それはもちろん我がタイラー王国だな! 一度前線近くの結集地に寄って勇者の顔見せをせねばならんが、半年ほどは我が国で用意出来る手掛かりを元に、お主らが帰るためのヒントとやらを探そうではないか!」

「タイラー王よ、一つ抜けておりますぞ……」

「分かっておるわ、そう急かすな。それでだな――」


 そうしてクラークが語ったのは、今いる場所からクラークが治めるタイラー王国に向かうまでの約四十日前後と、到着してからの半年の時間を使って信也達の戦闘訓練をする事になったという事である。


 模擬戦で信也達の勇者としての素質に疑いを持つ者はいなくなったが、どうしても歩き方等の身の振る舞いに素人臭さが出ており、このままでは総大将として将兵の前に出た時に、下手をすると士気が下がりかねないとの意見が出たためであった。


「ああ……僕らの見た目の若さだけを問題視したんじゃないと……そういう事か」


 話を聞き終えたところで、会議場でのひと悶着を思い返した嶺二がポツリと呟いた。嶺二の独り言が聞こえたらしいオーレルは、無念そうな表情でクラークの説明に付け足すように話し始める。


「もちろん、前線の将兵達とて、勇者様方の戦う姿を一目でも見ればそんな事にはならないと言えるのですが……」

「現状で総大将であるお主らを前線そのものに立たせる予定なんぞは無いからな、そんな意見が出たとしても儂がなんとかしてやるさ」

「そういう事でございます。武人ではない勇者様方を召喚してしまったのはこちらの落ち度。決して同意も無しに前線に出ていただく事は無いとお考えくださいませ」


 前線に立たなくて良いとの話は、信也達からすれば歓迎できる話ではあるのだが、どうにも違和感を覚えたらしい祥子がクラーク達に疑問をぶつける。


「あの……でも、私達が前線に出なくて良いんなら、なんで戦闘訓練が必要なんですか? 立派に見えるような歩き方や、立ち方を訓練するとかじゃ駄目なんですか?」

「それは簡単な話だな。前線ではなくとも魔族の部隊と遭遇する事が稀にある。その時に戦うか逃げるか……どちらを選ぶにせよ、生き延びるには最低限戦える事は必須と言えるのだ。それにお主らには……いや、これは訓練が始まってからだな」


 遭遇戦のような事態があるのなら、確かに身を守れる程度には強くならないと、それこそ本当に死にかねない。クラークの説明には納得出来るものがあるのだが、なにやらまだ理由はあるようだ。


「なんにせよ、明日の朝食後だ。そこから暫くは馬車に揺られる事になる。よろしくやっていこうではないか! では邪魔をしたな、今日はゆっくりと休むが良いぞ、さて行こうかシュタインよ!」

「勇者様、私やヴァロ将軍などの諸将は日の出と共に結集地へ向けて移動しますので、現地に到着された際に再びお会いしましょう。それでは失礼致しました。」


 ひとしきり伝える事を話し終えたようで、用事は終わったと言わんばかりに、クラーク達は食堂を出て行った。

 明日の事を伝えに来ただけのようだが、王様が自らする事だったかと思わないでもない、きっと勇者に対する配慮かなにかなんだろう。


 突然の事に食事の手も止まっていた信也達の中で、唯一マイペースに食後のお茶にまで辿り着いている夕梨が、静かに茶器を置いて皆に語りかける。


「まーとりあえず、私達がやる事は変わらないよ。帰る方法を探して皆で無事に帰る。そうでしょ? 戦闘訓練だって、無事に帰れる確率が上がるんだーって思えば気楽なもんでしょ?」

「ハハハッ! さっすが夕梨だな! オレも見習わねぇとな!」

「いや、直人……アンタは夕梨の事見習わなくていいわよ? 今でも十分マイペースなんだから」


 一転賑やかになり始めた食卓に、信也も思わず顔が綻んだ。親友達とならこれから先、どんな事だって乗り切れる。そんな思いを抱いた所で、隣に座っている嶺二が静かに話しかけて来た。


「信也、僕としても戦闘訓練自体は歓迎なんだけど……いざって時に本当に戦えると思うか?」

「おいおい……いきなりなんだよ?」

「いざって時、つまり実戦ってなると殺し殺されの世界だろ? 僕はとてもじゃないけど、やれる気がしないんだ。信也はどうなんだって思ってさ……」

「…………」


 賑やかに談笑している夕梨達を横目に暗い雰囲気を醸し出す嶺二に、信也も直ぐには答えを返せなかった。

 大体、肝心の戦争相手である魔族が、どんな見た目をしているのか……そんな事さえもまだ一切説明されていないのだ。そんな状態で今すぐ答えを出すのは信也には難しかった。しかし――


「俺だって今すぐそんな世界に馴染めるのかなんて分からないさ。それでも……それでも俺は、皆を守るためならやるよ。俺が躊躇する事で夕梨や祥子、直人……それに嶺二、お前が死ぬかもしれないなんて、考えたくもない。それじゃ駄目か?」

「皆を守る為なら……か。信也のそういう所は、こんな時でも変わらないよな」


 信也の答えになにか思う所があるのか、嶺二は昔を思い出すように目を細めた。


「皆を守る騎士になるってよく言ってただろ? 昔っから仲間を守るって事に関しては譲らない所があるもんな、信也は」

「いやいや、その話を持ち出してくれるなよ……幼さ故の夢ってやつなんだからさ」

「ははっ、幼さ故だなんて、つい2年前まで言い続けててよく言うよ」


 幼馴染ゆえの会話をする二人は、ついつい笑顔を溢しながら会話を進めていく。

 暫く話し込んだ所で、嶺二は晴れ晴れとした表情になっていた。


「信也ほどの決意はやっぱりまだ持てそうに無いけど……僕はその時に何ができるのか、考えてみようと思う」

「そっか……分かった。でも無理はすんなよ? 全員が無理に戦う必要もないんだからさ」

「しーんやー、れーじー! 二人でコソコソっと話し込んでなにしてるのー? 怪しい話?」


 嶺二が思いを固めた所で夕梨が話しかけて来た。相変わらずタイミングを見計らってるんじゃないかと思わないでもない。


「怪しい話ってなんだよ、ちょっと今後の事で嶺二から相談されただけだよ。なあ、嶺二?」

「そうだな、僕がちょっと信也に相談があっただけさ。それもとりあえずは解決したし、問題ないさ」

「ふーん? 私達は運命共同体みたいなものなんだから、変な相談じゃないんなら全員にしてもいーかもよ?」


 夕梨の一言に、確かになと頷いた嶺二が両手を上げて降参のポーズを取っている。


「分かったよ、これからは極力そうするさ。全員大事な仲間だもんな」

「だな、俺も何かあればそうするよ。そんな事より、明日から馬車に乗るらしいよな! どんな感じか楽しみだよな! なあ、直人や祥子もそう思わないか?」

「ん? 馬車か! 楽しみだよな、ファンタジーの旅の定番って感じだしよ!」

「いや、直人も信也も馬車に夢見過ぎじゃない? きっとガタガタ揺れて楽しくなんか無いわよ? スプリングなんかないだろうし……」

「いやいや、そこは――」


 そうして信也と嶺二の二人も賑やかな親友達の輪に加わった。

 きっと明日からは大変な毎日なるんだろうけども、せめて今だけは楽しくすごしたい。そう思った信也は、その日は親友達と夜遅くまで過ごす事になったのであった。

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