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第五話 模擬戦①

 勇者召喚の儀式について知識がある勇者の末裔、さらには帰る方法の手掛かりも知っている上に協力も申し出ているとくれば、信也達からすれば乗らない手はない。


 もしかしたら、餌をぶら下げて言う事をきかせようとの意図もあるのかもしれないが、どのみち信也達には拒否権は有って無い様なものだ。

 それなのに、これだけ期待が出来そうな情報元がこの場で飛び出して来てくれた。昨日のオーレルとヴァロの様子を思えば、最悪この場では何もわからないかもしれないとも覚悟していたのだから、寧ろ想定外とすら言える。


 おそらくこれ以上はないと言える、元の世界に帰るための助けになり得る人物を前にして、驚きで固まってしまっている信也の様子に、初老の男はまだ納得していないと考えたようで説得を続けた。


「これはお主達の立場を明確にするために必要な事なのだ。先程も言った通り、元の世に帰る方法を見つけるのに最大限の協力をしよう。そして、帰る目処が立つまでは住む場所や生活の質の保証も、こちらが提供出来る限りを尽すと約束しよう」

「信也、しーんーやー、固まってる場合じゃないよ、早く返事しちゃおう」


 初老の男からの説得が再開されたところで、信也耳に聞き慣れた幼馴染の声が微かに聞こえてきた。


 それまで静かに座っていた夕梨であったが、信也が固まっているのを流石に見兼ねたようだった。小声で話しかける事で信也の再起動を促そうとしているようだ。


「ハッ!? すまない夕梨……助かったよ」

「いーから前、前向いて」


 夕梨のサポートに感謝しつつ、決意を込めた眼差しで初老の男を見た信也は大きく頷いた。

 これ以上変に話を長引かせて、協力の話はなかった事に等と言われては堪らない。実力を確認とは言われたが、まさかせっかく召喚した勇者が死ぬようなものでは無いだろう。

 そう考えた信也は、何をするのか全くわからないものの、言われた通りに挑戦する事を決めたのであった。


「大丈夫です、納得出来ました! 実力確認だってやってみせます! その代わり協力の話は絶対にお願いします!」

「ああ、もちろん任せてくれ。先程の約束を違わずに果たす事をこの儂、二十八代タイラー王、クラーク・タイラーの名と、儂に流れる勇者の血に誓う。我らタイラー王国はお主達への協力を惜しまんぞ!」

「んな!? ……お、王様?」


 初老の男――クラークの宣誓を聞いた信也は再び衝撃を受けた。

 どこかの将軍だと思っていたクラークは、タイラー王国という国の王様であるらしい。

 連合軍の将軍達の集まりだと聞いていたが、どうやらもっと偉い人物も来ていたようだ。


「はっはっは、気にするな。お主らは儂らが呼んでしまったのだ。この世の地位を気にして萎縮する必要もない。儂の事はクラークとでも呼ぶが良いぞ」

「わ、分かりました、クラークさん」

「おうおう! それで良いぞ。それとどうやらオオギシ殿の仲間達も納得してくれているようだな」


 信也の決定に仲間達も文句は無いようで静かに頷いている。

 例え危険な目に会おうとも、ここで引いていてはいつまで経っても帰る事は出来そうにない。それが信也達一同の共通認識でもあった。


「さて、それでは実力確認についてだ。ここはやはり誰の目から見てもわかりやすいだろう一対一の模擬戦を行おう。しかし、なにも全員がやる必要はないからな、必要派と不安視派からそれぞれ一名選抜する事としよう。連合軍諸将もそれでよかろう?」


 クラークの提案に各国の将軍達から意義なしとの声が挙がる。どうやら信也達全員ではなく、二人が実力を示せばそれで充分らしい。

 将軍達からの同意を得たクラークは少し考えてから、信也達の対戦相手として二人の人物を指名した。

 

「よし、それではオオギシ殿達の相手だが……ここはやはりお主ら二人が適任であろう。シュタイン! ヴァロ! お主らが彼らの実力を保証すれば、誰も文句は言わん」

「ハイっ、私にお任せ頂き光栄の至り! フラクト王国の名にかけて公正な戦いを披露いたします!」

「クソっ、やっぱりこうなるかよ……オレは手加減が苦手ですが、それでも構いませぬな?タイラー王よ」


 名指しで指名されたオーレルは勇者の相手を務める事を光栄な事だと思っているように顔を輝かせている。それに対して、ヴァロはいかにも面倒だと言わんばかりの態度で、少々物騒な事を言いつつ返事を返した。


「俺達も二人出せば良いんですよね、それならまずは俺は確定として……」


 対戦相手は決まったが、信也達からも二人選抜しなければならない。

 一人は信也自身が務めれば良いと早々に決めた、模擬戦ともなれば武器を振り回す事になるのだろうが信也達の中では一番武器、もとい剣の扱いに自信があったからだ。


 後はもう一人という事になるが、夕梨と祥子は選択肢には入らない。となると、嶺二か直人の二択になるのだが、そうなるとやはりこちらだと考えた信也が指名しようとしたところで、直人が野性味溢れる笑顔になると共に勢い良く右手を挙げた。


「それじゃあもう一人は、な――」

「こういう場面ならやっぱりオレの出番だわな!」

「――おと……が、出てくれるみたいです」

「おうよ、任せろ!」


 別に信也の意を汲んだ訳では無いのだろう、この期に及んでもなお緊張感皆無の直人は、やる気を全身に漲らせていた。そんな直人を見て、呆れれば良いのか、頼もしく思うべきなのかと少々悩んだ信也であったが、今はそれどころではないと改めてクラークの方へと向き直る。


「どうやらオオギシ殿達も決まったようだな。それでは練武場まで移動しよう、そこなら模擬戦で使う武器や防具の類が一式揃っているはずだからな」


 そう言って会議場に集まった全員と、扉の護衛に就いていた騎士達で、練武場と呼ばれた場所までぞろぞろと移動する事になった。





 練武場は屋外にあり、地面も石なのかコンクリートなのか高校生の素人目にはよくわからない物で出来ているようだ。


 広さは高校の校庭を四つか五つ合わせたほどであり、とても個人のトレーニングで使うような場所には思えなかった。おそらく兵士の訓練などに使用する場所なのだろう。

 一対一の模擬戦に使うための舞台がある訳ではなく、あくまでも平で広い空間だ。


 信也達が練武場に到着する頃には、先行していた騎士が模擬戦用に色々な武器を用意していた。


 剣、槍、斧の洋風ファンタジーではお馴染みの武器から、薙刀や刀のような物まであるのには信也達も驚いた。案外東に行けば日本っぽい国でもあったりするのかと少し騒いだほどだ。


 そんな色々用意された武器の中から、信也は腰に吊るしたレプリカ剣と同じ六十センチ程の刀身の片手剣を探して右手に、左手には盾としてバックラーのような物を装備している。


 防具はクラークが勧めるままに、金属で出来たヘルメットのような物と、頑丈そうな革手袋、胸の所に鉄板が仕込んであるらしい革鎧を制服の上から装備をしている。

 最初は直人共々かなりの重装備にしようとしていたのだが、慣れないのにゴテゴテと着込むのは、やめておいた方が良いと助言を受けて、この装備に落ち着いたのだ。


 こんな事態ではあるものの、憧れの全身鎧を装備出来なかった事を、非常に残念がっている信也であったが、今はそんな事を考えている場合ではないと、目の前十歩程離れた場所に立っている、真紅の鎧を着込んだ強面の将軍――ヴァロの方へと目を向ける。


 練武場へと向かう道すがら、実際にどちらと戦うのかとの話になった時、どういう訳かこの男は、どうせ戦るならこっちだと、わざわざ信也を指名してきたのだ。


 信也がヴァロと戦うという事は、もちろん直人はオーレルと戦う事になる。

 紳士風のオーレルともなれば、最悪でもちょっとした怪我で済みそうなのに対し、刀身が信也の選んだ剣の二倍以上もある、明らかに重そうな両手剣を、風切り音と共に軽々と振り回しているこの男(ヴァロ)は、積極的にトドメを刺して来そうな雰囲気すらある。


「あんなのに全力でやられたらヤバいよな……どうしよう……」


 危険を承知で模擬戦を了承した信也であったが、流石に殺される覚悟まではしていない。

 ヴァロの威圧感に呑まれ、明らかにガチガチに緊張している信也の背後から、応援する声が聞こえてきた。


「落ち着け、信也! 僕や直人と一緒にチャンバラをやった中学の時を思い出せ!」

「そうよ、中学の時に直人の馬鹿力をきっちりと捌いてたんだから、自信を持って頑張って!」

「信也ー! 今こそ封印した水火流(すいかりゅう)剣術を使う時だよー、素人の意地見せてやれー」

「水火流剣術? なにそれ気になる、教えてよ夕梨!」

「あっ、くそっ! その話は前に止めてくれった言っただろ! 嶺二達だってあの本の事は知らないんだぞ!?」


 夕梨達からの声援を受けて、なんとか緊張をほぐす事に成功した信也ではあったが、代償として夕梨により黒歴史を暴露されたのがなんとも言えない感じになっている。

 夕梨がこれ以上話さないようにと振り向けば、もう既に夕梨と祥子が応援そっちのけで話し込んでいるのがよく見えた。


 今からでは夕梨を止める事は不可能だと察した信也は、背後の悲しみから目を背け、全力で模擬戦に集中するのだと切り替える事にした。


 軽く素振りをして身体の調子を確かめる。どうやら応援の効果と言うべきか、いつもより調子が良いような気もしてくる。緊張が解れてきてしまえば、後には少しワクワクしている自分が残っている事に気がついた信也は、少し皮肉げな笑顔を浮かべた。


「お待たせしました、いつでもやれます」

「おう、待ってやったぞ勇者様。やっぱりオレの見立て通りだ、お前だけ剣の扱いに多少は慣れてるんだろ?」

「…………」


 信也の素振りを観察していたヴァロが、ニヤリとしながら話しかけてきた。


 信也としても、中学の時まで様々な方法で騎士の戦い方を調べ、試してきた七年間の積み重ねがあるので、相手の指摘に反論し辛い。


「ハァ……それが俺を指名した理由ですか……勘弁してくださいよ」


 相手から一切目を逸らさず、声だけ疲労感を滲ませて嘆く信也に、ヴァロは獰猛な笑みを浮かべ、興奮したように口を開く。


「ハッハー! 否定しないって事は図星だな! それじゃあ、この後にお前のお仲間とシュタイン将軍の一戦も控えてるんだ、先手はやるからさっさと掛かってこい! 異世界の剣術ってのを見せてくれ!」

「…………」


 信也達の周囲をグルッと囲んでいる各国の将軍が、向かい合う二人の様子を固唾をのんで見ている中、審判役として二人の近くに立つクラークが右腕を高く挙げる。


「それではこれより、シンヤ・オオギシ殿とルフス・ヴァロ将軍の模擬戦を始める! 双方準備は良いな!」

「ハイっ!」

「出来ております」


 二人からの返事を確認したクラークは、右手を勢い良く振り下ろし、模擬戦の開始を告げた。


 先手を譲られた信也は、盾を相手に向けて突き出すように構え、剣先を相手に向けつつ、剣身が地面と水平になるように、肩の高さまで持ち上げ、いつでも突きを放てるように神経を張り巡らせる。


 信也の剣の刀身は六十センチ程度しかなく、対するヴァロは刀身が百五十センチ近くはありそうな、恐ろしく長大な両手剣。

 先手は譲るとは言われたが、二倍以上のリーチ差に、呑気に間合いに入っては駄目なように思われた。


 相手との間合を慎重に測りつつ、ジリジリと前に進んでいた信也であったが、当初の位置から半分程に詰めた所で、地面を蹴って一気に飛びかかる。


 ヴァロが真上に持ち上げている両手剣には注意を払いながらも、突き出した盾を相手の目線の位置に合わせたまま、右手に持った剣に渾身の力を込め、胴体に目掛けて突きを放つ。

 信也の渾身の突きは、相手が左半身を後に引いた事により空を切った。


「突進の勢いは良し! しかし構えから狙いは丸見えってヤツだな! フンッ!!」

「くっ……!」


 飛び込みつつ放った渾身の突きがあっさりと避けられ、信也の左側から無防備となった頭上へ向けて、両手剣の一撃が振り下ろされる。

 当たればただでは済まなさそうな一撃に、ギリギリで反応が間に合った信也は、振り下ろされる両手剣の腹を盾で殴りつけ、軌道をそらす事に成功し、両手剣は地面へと叩きつけられた。

 これには相手も驚いたようで、剣先を地面に引きずりつつ数歩後退して体勢を立て直す。

 信也も剣を殴りつけた影響で、体勢を崩してしまっていたので、追撃すること無く構え直す事を優先した。


「アレで間に合うかよ。とても『戦った事なんて無い』ヤツの動きじゃねえな」

 

 ヴァロの言う通り、信也自身も先程の一撃を防げるなどとは思っておらず、咄嗟の事とはいえ自分自身でも驚いていた。

 実際、戦い始めてから妙に身体が軽く感じられ、そのお陰か普段とは比べ物にならない程に良い動きが出来ている。


「案外やれる? これならッ!」


 調子が良いならそのままやってしまえと勢い込んだ信也は、再度相手に攻撃を仕掛けようと身構えた――その時。


「――って事は、もうちょっと本気を出しても良いって事だよなァ!」


 目をギラつかせたヴァロが、切っ先を胴体で隠すように両手剣を左脇に構え、信也に向けて身を沈ませながら真っ直ぐに突き進んできた。

 その勢いは野生の獣を彷彿とさせるものがあり、離れた距離を一瞬で詰めてくる。


「ッ!」


 信也の目前まで迫ったヴァロは、突進の勢いのまま全身を捻り、左脇に構えた両手剣を胴体目掛けて薙ぎ払う。


 これにもなんとか反応できた信也は、慌てたように構えを崩し、盾で相手の薙ぎ払いを受け止めようと試みる。

 しかし全身のバネと、突進の勢い、そして剣自体の重量を活かして放たれた一撃はあまりにも強力で、そもそも慌てて防御したからか、踏ん張りきれずに吹き飛ばされてしまった。


「くっ、がァ!?」


 あまりの衝撃に吹き飛ばされ、練武場の床に叩きつけられるように転がっていく信也は、追撃に入ろうとしている相手の様子が目に入った。

 迎撃をしようにも、まだ転倒している最中であるため、まともな体勢を取れそうにも無かったが、幸いと言うべきか吹き飛ばされた影響で、また二人の距離は初期の立ち位置程に離れたものになっている。


 両手剣を上段に構え直したヴァロが、まだ転倒中の信也へと追撃をするべく、突進を開始するのと、信也が転倒状態から、膝立ちまで体勢を立て直すのは同時であった。

 突進してくる相手に対し、信也は立ち上がる余裕はないと判断し、膝立ちのままで迎え撃つ覚悟を決める。


「その姿勢で防ぎ切る気かよ……やれるもんなら、やって見せろ!」


 叫び声をあげつつ、十歩の距離を瞬く間に詰めたヴァロが、上段に構えた両手剣を信也目掛けて振り下ろす。

 対して信也は、振り下ろされる剣の軌道上に盾を構え、盾を支えるように、横向きにした剣を添える。

 そうして襲い来る一撃に備え、信也は全身の神経を集中させた。


「オラァ!」

「ここだッ!」


 ヴァロの強力無比な一撃に、正面に構えた盾がぶつかる……と、思われたが、信也はインパクトの瞬間に盾を外側へと向けて斜めに反らし、相手の剣の軌道と衝撃を左側へと押し込むように流しつつ、無理矢理に一息で立ち上がった。


 相手の攻撃をいなしてからのカウンターを狙っていた信也は、防ぎきれた事で形勢逆転だと信じ、立ち上がり際に振りかぶった剣を、ヴァロの胴体目掛けて振り下ろそうとしたのだが。


「まだまだ甘いな!」

「……うぅ!?」


 ヴァロは攻撃が流されるのを予想していたのか、そこからさらに一歩踏み込み、立ち上がった信也の腹に目掛けて、左足で突き放すように前蹴りを放った。

 革鎧の上から強烈な衝撃が加えられ、たまらず後方に転倒した信也は、ヴァロが自分の首筋に切っ先を突きつけるのを、呆然として眺めていた。


「そこまでだ! 双方見事な腕前であったぞ!」


 模擬戦の終了を告げる声があがり、それと同時に彼らを囲む将軍達から大きな拍手が鳴り響いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 実力差はやはりありましたね。ですが可能性を示せたのは大きいですね。
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