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第三十七話 クラークとフラー

 信也達の魔法の先生になると宣言したフラーは、満面の笑みを浮かべている。


「ボクに送った手紙にも書いてた通り、ボク達――裏切りの魔族の存在については、もう話してるんだろ? だったら魔法に関しては独学でやるんじゃなくて、ボクが手を貸したほうが良いに決まってる」

「ふむ……フラーが彼等に魔法の訓練をつけてくれるのならば一安心だ」


 現状の信也達は、未だに魔法の訓練に関してだけは、どうやれば良いのかハッキリとは分かっていない状態であった。


 移動中に受けた魔族による襲撃事件以降、何故か信也だけは身体能力の強化にのみ、魔法を使う事ができるようになっている。しかしその信也自身が、なぜ自分が魔法を使えるようになったのか、その理由を理解してはいないのだ。


 そういう訳であるから、信也達全体で見れば、魔法の訓練に関しては一切の進展がないと言っても過言ではない。


 日々の信也達の努力を間近で見てきたクラークとしても、魔法の訓練方法については密かに頭を悩ませていたので、このフラーの申し出は渡りに船というものであった。


「それで魔法を教えるにあたって、必要な物は何かあるか? 可能な限りの物を揃えるぞ」

「魔法の訓練で、特定の何かが必要だってのは別にないかな。それよりも勇者達の、最近の様子とか教えて欲しいな」


 なんでも魔法の訓練には、何か特別な道具が必要な訳ではなく、ちゃんとした指導係さえいれば、すぐにでも魔法が使えるようになるはずなのだという。


 なので訓練場所さえ用意すれば十分らしく、それよりも信也達がどんな人物なのかを知りたい様であった。


「ボクが最後に受け取った手紙は、閲兵式を終えたので、今から南下を始めるぞ、って内容で止まってるんだよね。色々と聞きたい事もあるから、よろしく頼むよ?」 


 ローテーブルに並べた便箋の中から、狙った一枚を抜き出したフラーは、見せつけるようにクラークの目の前へと突き出した。


 それは確かに閲兵式を終えた翌日にクラークが送った手紙であった。それ以降にも何度か手紙を送っているのだが、どうやら他の手紙が届く前に船に飛び乗ってきたらしい。


「おう。オオギシ殿達の事を話すのは構わん……というより、元々聞かせるつもりであったのでな。なんでも聞くがよいぞ」

「おっ、頼もしいね。それじゃあ先ずは――」


 それからはフラーがひたすら信也達の事を質問しては、その都度クラークがあれこれと答える時間が続いた。


 最初のうちは信也達がどんな人物なのかという、手紙の文面だけでは分からなかった事を、色々と質問していたフラーであったが、信也が魔法を使っているという話を聞くと、驚きの表情を浮かべた。


「へ? いやいや……自主訓練してるってのは手紙にも書いてあったけど、そんな事で魔法が使えるようになる訳ないじゃないか! どんな魔法を使ってるんだい!?」

「身体強化の魔法だな。オオギシ殿が言うには、敵の襲撃を受けた時に、何故か使えるようになったらしいぞ?」


 やたらと話に食いついてきたフラーに内心驚きつつも、クラークは落ち着いて魔族の小部隊に襲撃を受けた時の事を話した。


 とはいえ大半は直に見ていた訳ではないので、概ね信也達と護衛隊の報告を合わせたような話になっており、どうして突然魔法が使えるなったのかまでは、分からないようである。


 しかし話を聞き終えたフラーには、信也が魔法が使えるようになった理由が分かったらしく、深い溜息と共に、ソファーに深くその身を沈めた。


「はあ……理由は分かったよ。危険な目に合って怖かっただろうに、凄い子達だね。でもそれじゃあ、まだまだ魔法としては不完全。魔法未満だよ」

「……そうなのか?」


 魔法に関しては全くの無知であるクラークから見れば、信也の身体強化は立派な魔法である。しかし専門家であるフラーからすれば、魔法では無いのであろう。


「勇者達がそんな危険な目に合ってたなんて知らなかったよ。でもまてよ……それじゃあ魔族であるボクの事を、怖がったりなんて……しないよね?」

「はっはっはっ。フラーのどこを見れば、怖いなどと感じるというのだ。あの者達は魔族というだけでは恐れたりはせぬだろうさ」


 魔族との交戦を経験した信也達が、魔族である自分を見て警戒したり、恐怖したりしないかと心配しだしたフラーの様子を見て、クラークは笑いだした。


 この大陸に住む人族であれば、魔族というだけで恐怖を抱く可能性は十分にあると言えるだろう。


 しかし信也達にはそういった偏見も無く、クラークから裏切りの魔族達の話を聞いているため、見た目に迫力がある訳でもないフラーを、魔族というだけで態々恐れる理由はないだろうというのが、クラークの考えであった。


「ちょっと引っ掛かる言い方だけど……でも、今はクラークの言葉を信じるしかないよね」


 ソファーから身体を起こしたフラーは、少し拗ねるような表情になるが、一先ず心配は解消されたようである。


「さて、色々と話したが、後は本人達と会って確かめればよかろうよ」


 クラークがそう言ってソファーから立ち上がるのと同時に、部屋の扉がノックされた。どうやらこの部屋に人が近付いて来ている事に、事前に気が付いていたらしい。


「おや、なんだろ? ボクには覚えが無いけど、クラークが何か頼んでたのかい?」


 時間を忘れてクラークと話していたフラーは、何故部屋がノックされたのか、ピンとこない様子で首を傾げた。


 そんなフラーを見たクラークは少し笑うと、部屋に備え付けられている柱時計を指さした。


「何を言っておる、そろそろ夕食が運ばれてくる時間であろう」

「あっ、もうそんな時間? そういえばお腹も減ってきたような気がするね」


 柱時計の針が示す時間を見て、フラーは恥ずかしそうに笑っている。


 扉の前まで歩み寄ったクラークは自ら扉を開けると、扉の前に設置された配膳台の上に並べられた料理を部屋の中へと運び込んだ。


 運び込んだ料理をローテーブルの上に手際良く並べ終えたクラークは、ついでとばかりに部屋の棚から酒を一本取り出すと、グラスを二つ持ってソファーへと座り直した。


「さて、今日の所はこれくらいでよかろうよ。ここからはのんびりと食事でもしながら、数十年ぶりの再会でも祝い合おうではないか」

「ふうっ……ボクはあんまり、お酒は飲まないんだけどね。でも今日は特別に飲もうかな、お祝いだものね」


 そうして食事を楽しみながら夜遅くまで語り合った二人は、翌朝揃って二日酔いの頭を抱えながらも、信也達が待っている王都に向けて旅立つのであった。

次回より信也達の方に話が戻ります。

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