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第三十四話 急な休日

 訓練が始まってから、かれこれ三ヶ月近くもの時が過ぎた。


 そろそろ基礎訓練も終わりに近付いてきているのだが、それでもまだまだ学ぶべき事は山積みで、クラークの特訓も含めて必死になって訓練に励んでいる信也達は、日常を懐かしむ暇も無い程に、慌ただしい日々を過ごしていた。


 そんなある日の朝、毎朝の恒例となった大量の朝食を摂っていた信也達の元へ、急ぎの報せが届けられたのであった。


「……え? 今日の訓練は休みになったんですか?」


 突然の事に一旦食べるのを止めた信也達は、報せを持ってきた使者を注視した。


 訓練の休日は五日に一日と決められており、本来ならば予定上の次の休みは明日であるはずなのだ。だというのに、今朝になって急に休みだなどと連絡がくるのは、クラーク側の方に重大な問題でも発生したのかと心配になってくる。


「はい、急な事で申し訳ありません。王都から少々離れた町に急な来客が御座いまして……クラーク様が近衛隊の全隊を率いて迎えに行ってしまわれたのです。そうなると、暫くは勇者様方の訓練の監督と指導が出来る者もいなくなってしまいまして……」


 そんな信也達の心配を解す様に、申し訳無さそうな表情をした使者が、一体何があったのかを説明してくれた。


 どうやらこの王都から、南に馬で二日程進んだ所に、この国一番の港町があるらしい。そしてその港町にクラークの想定外な重要人物が来訪して来たのだという。


 その人物への対応はクラークが自らする必要があるらしく、今朝になって急遽出発したのだそうだ。


「って事は……僕達の訓練はどうなるんですか? 南に二日って事は、行って戻ってくるだけでも四日は掛りますよね?」


 休みになった事情を聞き終えた嶺二が、それじゃあ訓練は今日だけではなく、数日は休みになるのかと質問すると、使者は大きく頷いた。


「それに関しましては『暫く王都を留守にするので、その間は自由に過ごすがよい』と、王より言伝がございます。何かしたい事、行きたい場所がございましたら、ヒーアマン様にご相談いただければ対応していただけるかと存じます」


 そうして話すべき事を話し終えた使者は、一度大きく頭を下げると食堂から静かに退出していったのであった。





 あの後、食べかけの朝食をキレイに平らげた信也達は、この降って湧いた連休をどう過ごすのか話し合うために、ヒーアマンも加えて歓談室に集まっていた。


 この場にヒーアマンも参加しているのは、信也達が出した案に対して、それが実行可能かどうかを判断してもらうためである。


 とはいえ休日をどう過ごすのかという、緊張感も何も無い話し合いであるために、どこか浮ついた様な楽しげな空気が漂っている。


「さて、自由にって事だけど……皆はどうする?」


 歓談室に備え付けられているソファーに浅く腰掛けた嶺二が、まずは会話の切っ掛けになればと軽く声をあげる。


 そんな嶺二の声に応えるように、目を輝かせた夕梨が全力で手を挙げて自身の希望を話しだす。


「はいはいはい! 私は街を見て回りたい! 王都って言うくらいなんだから、きっと見所とかがいーっぱあると思うんだよね。今日まで我慢してたけど、せっかくの連休なんだから一日くらいは遊ぼーよ!」


 信也達は今日までにあった休日の殆どを、身体を休める事か、自主練習にあてていた。なので特に差し迫った用事がある訳でもない街中を、のんびりと

見て回る事もなかったのである。


 しかし三ヶ月近くも訓練にばかり明け暮れていた夕梨としては、せっかくの機会だからと気分転換も兼ねて街を散策したいようであった。


「そういや街ん中を見て回るなんて、随分と行ってなかったよな。良いんじゃねえの?」

「私も賛成。たまにはリフレッシュしなくっちゃダメよね」

「だよねッ! まだまだ見慣れないモノばっかりだし、歩いてるだけでも絶対楽しいよぉ!」


 夕梨の意見に、直人と祥子の二人がいち早く賛成を表明した。やはり毎日が訓練のための生活になっていた事で、ちゃんとした気晴らしが出来ていなかったからだろう。


「俺も良いと思うな。嶺二はどうだ?」

「そうだな。僕も良いとは思う。ただ……僕達が出歩くってなると、護衛の人が必要って話だった……よな?」


 信也と嶺二も賛成して、満場一致で皆で街を見て回る事が決まった……と思いきや、嶺二が護衛に付く人がいないのではないかと言い出した。


 信也達はこのタイラー王国に来るまでの道中で、何度か気晴らしがてらに、街を見て回った事があるのだが、その際はいつも護衛が付いていた。


 それは信也達が、この世界における一般常識を全く把握しておらず、買い物一つとっても案内役が必要だったという事もある。


 それに加えて、唯一無二の存在である『勇者』を安全な街中とはいえ、護衛も無しに歩き回らせる訳にはいかないとの事情も含まれているのだ。


「あっ……そうか。いつも一緒に来てくれてたデューイさん達も、全員出払ってるんだよな……」

「えー! まさか好きに過ごして良い範囲って、この屋敷の中限定ってことぉ!?」

「いやいや。そんなのは頼めば、誰か付いてきてくれんだろ? 何も危ない所に行こうってんじゃねえんだしよ」


 なんだか話の雲行きが怪しくなってきたのを察した夕梨が、なんとも悲しげな声をあげている。


 しかしここで、それまで部屋の隅で静かに控えていたヒーアマンが、信也達の近くへと進み出てきた。


「そういう事でしたらご安心ください。オオギシ様達の護衛は誰でも良いという訳には参りませんが、今回は(わたくし)めが務めさせていただきましょう」

「え? ヒーアマンさんが付いてきてくれるんですか?」


 ヒーアマンの口から飛び出した言葉は、外出を後押しするものであった。しかし信也達が知らない事ではあるのだが、つい先程ヒーアマン自身が言った通り、信也達の護衛は誰でも良いという訳ではない。


 最低でも現状の信也達よりも強く、たとえ魔族と遭遇したとしても、ある程度は時間を稼ぐ……或いは倒せるだけの実力が、護衛する側に求められているのである。


「はい。ですので全員で纏まっていただく必要はございますが、自由に出歩かれても問題ございません」


 だがそんな事情を知らない信也達は、ヒーアマンが護衛役として付いてくれる事を違和感なく受け入れるのであった。

 

「これで外出は問題無しになったよね。皆は他に何かしたい事とかはないのー?」


 予定は一つ立てられたが、街の散策に一日を使ってもまだ日数的には余裕がある。


 夕梨が案出しの先陣をきったのが切っ掛けになったのか、話し合いは活発になっていく。


 そうして朝から始まった話し合いは、ああでもないこうでもない意見を出し合いながら、昼近くになるまで続けられたのであった。

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