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第三十話 訓練初日、体力の限り

 今日を含めた基礎訓練が行われる事となっている場所は、王都の中枢区画の近くに建てられた近衛兵用の練兵場であった。


 この練兵場の広さは都市の中枢部に建てられているからか、信也達が通っていた高校の体育館より少し広い程度でしかないが、石造りの一階建てであるために、天候に左右されず訓練が出来るようになっている。


 王都の郊外にはもっと広大な面積を誇る一般兵用の練兵場もあるのだが、そちらは信也達の家からも遠く、屋外施設であるために現時点では使う予定は無いようだ。


「ううっ……お腹がキツイんだけど……今から運動するとか信じたくないわね……これ」

「ははっ、流石にあの量はキツかったよな。オレも結構ヤバいわ……」


 そして現在、信也達は練兵場の入り口で訓練の監督役であるクラークの到着を待っているのだが、非常識な量の朝食を食べてきたためか、それぞれが身体の辛さを訴えていた。


「僕も暫くは動きたくないな……これから毎朝あんな量を食べないといけないって考えると、気が重くなるよ」

「にしたって、こんなに無茶な量を食べて、休憩中にまで食べ物が用意してあるなんて、いったいどれだけハードな訓練なんだろうな?」


 昨夜受けた説明によれば、訓練初日はまず信也達がどの程度の体力、持久力があるのかを試すとの事であったが、具体的に何をするのかまでは聞かされていない。


「体力を試すって事は持久走とか、そんな感じのやつじゃねえの?」

「うえぇ……今走ったりなんかしたら、私お腹が痛くなる自信があるんですけど……」

「同感だねー。今すぐ走り出せって言われたらキツイだろうなぁ……でも――」


 口々にこんな状態で訓練を始めるのは無茶だと話す皆の中で、夕梨が意味ありげな顔をして自分の考えを語り始めた。


「でもね……たぶん持久走とかじゃないと思うなぁ。確かにこういう時の基本って、走り込みとかなんだろーけど、ただ走るだけで毎年何人も人が倒れる事なんてあると思う?」


 朝食の席でヒーアマンは確かに、毎年の新兵訓練で倒れる者が続出(・・)していると言っていた。


 長時間の走り込みならば、倒れる者が出ても不思議ではないのだが、自分の意志での休憩や、飲食も許されている状況で、毎年倒れる者が続出するとは少し考え辛い。


「それじゃあ夕梨はどんな訓練内容だと思うんだ?」

「さあ? 人が倒れるような訓練なんて、想像も出来ないよ。取り敢えず今言えるのは、私達は倒れないように気を付けようねって事くらいだよね」


 それからもう少し皆で話し合い、どんな訓練であろうが倒れたりしないように、お互いが気を付けていこうと話がまとまったタイミングで、何人もの兵を引き連れたクラークが信也達の前へと現れるのであった。





 訓練が始まってから、かれこれ二時間が経とうとしていた。


 練武場の舞台の上で、信也は目の前に立ち塞がる二人の男を打ち倒すべく、必死の形相で訓練用の木剣を振るっている。


「っりゃあッ!」

「おっと。それじぁ当たりませんよ?」


 しかし信也が狙いを付けた男は、後に下がる事で剣の間合いからあっさりと離れてしまい、上から思いきり振り降ろした剣の腹を、相手の木剣で強く払われてしまった。


 剣を振りきった所を狙われたために、信也の体勢は大きく崩されてしまった。そこを狙って、もう一人の男が横合いから攻撃を仕掛けてくる。


「シンヤ殿! 戦場で一対一なんてのは稀なこと! そして今の相手は二人ですぞぉ!」


 長い木の棒を振りかぶった男――デューイは信也に注意するよう声を掛けながらも、遠慮の無い……いや、デューイからすれば大きく手加減した、薙ぎ払いの一撃が飛んできた。


「そんなの分かって、ぐっ……おわっ!?」


 信也は体勢を崩しながらも左手の盾でなんとか相手の攻撃を受け止めようと試みるが、あまりにも重い一撃に耐えられず吹き飛ばされ、舞台の上をゴロゴロと転がっていく。


 数メートル転がった所でようやく止まった信也であったが、もう立ち上がる力も無いらしく、仰向けの状態で大の字になって荒い息を吐き出している。


「っ……ハァ、やっぱり、駄目だ……もう、キツイ……」


 先程まで信也の相手を務めていた二人も、暫く待っても倒れたままの信也が戦闘不能になったと判断すると、構えを解いて信也の方へと歩み寄っていく。


 二人の接近に気が付いた信也が、なんとか起き上がろうと奮闘しているが、体力が尽きた身体では上半身を起こして座り込むのがやっとのようであった。


「オオギシ様、大丈夫ですか? 流石に少し休まれた方が良いと思いますが……」

「ハッハッハ! この二時間ほとんど休憩も無しに頑張っておられましたからなぁ!」

「そ、そうします……もう、暫くは動きたくないくらい疲れました。にしても、訓練内容が模擬戦だって聞いた時は、別に変わった事はしないんだなとか思ってたけど……まさかこんなにキツイなんて……」


 信也達が何をするんだろうと気にしていた訓練とは、クラークが連れてきた者達との模擬戦であった。


 ただし一対一での試合形式ではなく、先程信也がやっていたような、ある程度の乱戦を想定した形での、一人に対して複数人数を相手にしなければならない、非常に荒々しいものであった。


 しかもこの模擬戦は、誰かの攻撃が当たった、或いは当てたからといって、戦いを止める事は原則禁止されており、自分から休憩を望まない限りは、入れ代わり立ち代わり攻撃を仕掛けてくる相手にひたすら対応し続ける事となっている。


「実戦でどこまで体力が続くのか見極めるために、シンヤ殿達は極力休まずやるようにとのお達しですからな! とはいえ、二時間も持つのは大したものですぞ。毎年の新兵訓練では、シンヤ殿の半分も動ければ期待の新人だと評価されますからなあ!」


 それに訓練中の相手や人数は常に同じという訳でもない。気が付けば相手が待機中の人員と入れ替わっていたり、人数が増えたり減ったりと、目まぐるしく変化していく状況は体力だけではなく、精神も削りにくる仕様となっている。


 しかし実際の所、ここまで厳しくやっているのは信也と直人の二人くらいで、残りの三人はそれぞれが迫る相手に囲まれない様に、武器で牽制して逃げ回るという訓練内容になっており、相手から攻撃される事はほとんど無い。


 それでも逃げ回って、囲まれて、武器を突きつけられてという一連の流れを何度も何度も繰り返しており、剣を打ち合うような事をしていなくとも疲労は激しいようで、夕梨達は先程から何回も休憩を挟んでいるようであった。


「ハァ、まだ昼にもなってないのになあ……でも本当の戦場じゃ泣き言なんて言ってられないもんな。水分だけ摂って、俺ももう一回頑張るか!」


 これも魔力の影響というべきなのか、ほんの十分程の休憩で、ある程度体力が回復したような気がした信也は、いつまでも休んでいては訓練にならないとばかりに立ち上がり、デューイ達に自身の訓練の再開を告げるのであった。

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