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第二十九話 山盛りの朝食

 信也が案内された部屋は、これまで泊まってきたどの部屋よりも、シンプルなものであった。


「おおっ……家具は揃ってるけど、なんだか生活感がないな」


 大型のベッドやテーブル、ソファー等の基本的な家具類は質の良い物が用意されているようなのだが、クローゼットの中には何も無く、大きな棚の中も空っぽだ。


 しかしだからこそ、ここが宿泊のためでは無く、住むために用意された部屋なのだと感じ取る事が出来る。


「そっか……これからここに住むんだよな」


 これから短くても半年以上はここに住むのだから、恐らく少しずつ私物も増えていく事になるのだろう。


 部屋の中をある程度確認し終え、少し休憩しようと、ソファーにその身を沈めるようにして座った信也は、目を閉じて身体を休めつつ、ぽつぽつと独り言を口にし始めた。


「最初はいったいどうなるんだとか思ってたけど……元の世界に帰る方法は、クラークさんの協力で見つかりそうなんだよなぁ。でもだからって今すぐ帰れる訳でもなさそうだし」


 召喚魔法陣を作った魔族の子孫の人と、勇者の子孫であるクラークが知り合いらしいからこそ、これだけ手早く元の世界に帰る道筋が見えたのだ。


 具体的にこうすれば帰れると言われた訳では無いのだが、それでもきっとなんとかなると信也は信じている。


「クラークさんは俺達に無理をしなくても良いって言ってるけど、この前の襲撃みたいな事もある……あんな事は二度と体験したくないよなぁ……でも、だから……俺……つよ……く……」


 一休みのつもりで座ったソファーであったが、思いの外柔らかな座り心地であったからか、単純に疲れていたのか、とぎれとぎれになっていた独り言が示すように、信也は眠りについてしまうのであった。





 結局少しの休憩のつもりが、すっかり夜になるまで寝こけてしまった信也であったが、どうやら親友達も似たりよったりであったらしく、結局クラークから訓練について説明を受けたのは、晩餐を終えた後の事であった。


「つまり、皆で揃って訓練するのは基礎訓練までって事ですよね?」

「ああ、そうだ。どうやらお主達は、それぞれ目指す所があるようだ。ならば一から十まで同じ訓練をする意味は無いだろう」


 先程聞いたばかりの内容を整理しようと質問した信也に、クラークがその意味も含めて答えを返す。


 これから半年を期限として始まる訓練は、最初の三ヶ月は徹底的に基礎訓練に費やし、それ以降はそれぞれの適性や本人の希望に合わせて専門的な訓練をしていく予定なのだそうだ。


「召喚陣により呼び出されたお主達は、魔力の助けもあって既に並の兵達よりも動ける事だろう。しかし例え素早く力強い動きが出来たとしても、無駄な動きが多ければその分、相手に付け入る隙きを与える事となってしまう」


 信也達は実際の所、戦いに関しては素人でしかないのが現状だ。魔力による身体能力の強化があったとしても、肝心の動きが素人では、戦場で何かあった時に生き残るのは難しい。


 前回の魔族の襲撃時はなんとかなったが、それは相手が信也達の事を無力な子供だと侮っており、その隙きを突く事が出来たからでしかない。 


「だからこそ、まずはお主達が生き残るための訓練をきっちりと受けてもらうぞ。それ以降の訓練内容については、この三ヶ月のお主達の調子を見てから、決めていくとしよう」

「あっ、クラークさん! 一つ確認したい事が!」


 クラークがそう言って話を締めようとしたタイミングで、まだ聞いていない事があると信也が慌てて声をあげる。


「こっちに到着したら特別に鍛えてくれるって話は、やっぱり三ヶ月の基礎訓練が終わってからなんですか?」


 襲撃を乗り切った翌日。信也と直人、それに夕梨の三人はクラークに鍛えて欲しいと望んだ。


 クラークもそれを受け入れ、希望者に限り特別に鍛えるとの約束をしてくれていたが、基礎訓練と並行して行うものだとも思えない。


「ふむ、それか。特別訓練についても考えてはおるが、少なくとも基礎訓練の間は、そこまで時間を取って行う事は不可能に近い」

「……ですよね」


 話を聞いている限り、戦いの基礎を僅か三ヶ月で整えようというのだ。かなりきつい訓練になる事は間違いない。そこに更に訓練を追加する余裕があるのか無いのか、現時点では信也も全く想像が出来ない。


 だから出来ないと言われるのも仕方ないと、肩をがっくりと落として落ち込む信也であったが、クラークの返答はまだ終わっていなかった。


「……一刻も早く強くなりたいとの気持ちは、もちろん儂も分かっておる。なので、もし基礎訓練後に体力が残っている様ならば、少しだけ儂自らが稽古をつけると約束しよう。もちろん希望した者に限るがな」 

「本当ですか!? 俺、頑張ります!」


 信也の気持ちを汲んだのか、クラークは改めて信也達の訓練の相手をすると引き受けた。体力が残っていればとの条件は付いてしまったが、それも信也達が無理をしないようにとの配慮なのだろう。


「やったな、シン! 当然オレも付き合うからな!」

「私も頑張るけど、体力持つかなー? そこだけはちょっと不安かも?」

「ははっ、ありがとうな直人、夕梨。なんにしても、まずは基礎訓練から地道に頑張っていこう!」


 早とちりで落ち込んでしまったが、こうして

やる事が決まったからには、後は力の限り挑戦するだけだ。そう覚悟を決めた信也は、見るからにやる気を漲らせるのであった。





 そうしてその翌朝。訓練が始まるのは今日の朝食後からである事を聞かされていた信也達は、朝食を食べようと食堂に集まったのだが、そこで遭遇した信じ難い状況に冷や汗をかいていた。


「ね、ねえ……夕梨? なんだか今日の朝ごはん多くない?」

「あー、アレだねぇ。身体を動かすなら、しっかり食べとかないとーって事だよ、きっとね」

「だからって多すぎると思うのよね!?」


 朝食を食べるべく席についた信也達の目の前に、どんぶりサイズの器に山程に盛られた玄米や、粒味噌がたっぷりと塗られた肉を焼いた物、様々な種類の野菜が入ったスープなど、どう見ても朝から食べるには重いとしか言いようのない量の料理が、テーブルの上に続々と並べられていくのだ。


 朝からエネルギーを……というのは分からないでもないが、これではまともに動けなくなるのではないだろうか。


「あ、あの……ヒーアマンさん。なんで今日の朝食ってこんなに多いんですか? どう見ても僕達五人で食べる量には思えないんですけども……」


 流石にこれはどういう事なのかと思った嶺二が、食堂の入り口近くで静かに控えているヒーアマンへと声を掛けるが、こうしている今も、どんどんと新たな料理が使用人によって並べられていく。


「おや? 昨夜クラーク様より説明を受けられたのでは?」

「えっ? 僕達が説明してもらったのは訓練についてなんですけど?」


 ヒーアマンから返ってきた言葉の意味が分からず、困った様子の嶺二を見て、何かを察したヒーアマンが呆れたと言わんばかりに額に手をあてた。


「はあ……どうやらクラーク様の説明が不十分であったようですな……申し訳ございません。クラーク様の方にも後で一言申しておきますので、どうかご容赦くださいませ」


 そこからヒーアマンが説明してくれた話によると、どうやら夕梨が言っていた通り、身体を動かすにあたってしっかりとエネルギーを摂っておくために、この大量の料理は用意されたようであった。


 訓練の途中で挟まれる休憩時にも、随時飲み物や軽食が摂れるようにはなっているらしいのだが、それでも毎年の新兵訓練では、十分に食事を摂っていなかった事が原因で、倒れる者が続出しているのだそうだ。


「なので朝食におきましては、最低でも米と肉料理だけは全て食べていただく方がよろしいかと存じます」

「米と肉だけでもって……これ結構な量がありますよね……」


 ヒーアマンによる丁寧な説明で、これだけの料理が並べられた理由は理解出来たが、それでもこれ程の量は用意し過ぎなのではないだろうか。


 しかし必要な事だと言われては、食べない訳にはいかないだろう。


「それじゃあ、これも訓練の一環って事かよ……気合入れて食うしかねえな」

「そういう事になるよな……俺だって食べる方ではあるんだけど、ここまで多いとチャレンジメニューとか、そんな感じになってるよなあ……」

「玄米の方はペロッといけちゃうけど、おかずまでってなるとキツイわね……」

「いやー、それは流石に祥子だけじゃないかなぁ? 私はお米だけでもお腹一杯になるかもなんだよぉ」


 思わぬ所で訓練が始まっているものだと思った信也達であったが、これも必要な事だと割り切って、料理の味をゆっくりと楽しむ暇もなく、必死の形相で朝食を詰め込む事になるのであった。

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