第二話 呼ばれた理由
信也達はオーレルと名乗った男の先導で場所を移り、十人掛けのテーブルがいくつも並んだ食堂に通された。
先程までの部屋とは違い、綺羅びやかな造りだ。美術品の事は分からないが、テーブルの上には綺麗な花瓶や金色の像が、壁には大きな絵が飾り付けられていた。
食堂と言っていたが、恐らくは会食やパーティーなどをする時に使う部屋なのだろう、テーブルクロスもシミ一つない綺麗な白で、触るのも少々戸惑われる。
「オーレルさん……でしたか、それであの……」
信也は横並びに着席した自分達五人の向かい側に座っている、オーレルともう一人の男に説明求めて声をかけた。
「はい、それでは御説明させて頂きます。理解し難い話かと思われますが、最後までお聞き下さい」
そう言ってオーレルが話し始めた内容は、マンガやゲームでも使われ過ぎて最早出がらしになっているようなモノであったが、当事者になってしまえば到底受け入れ難いものであった。
長い話ではあったが要約すれば、約800年前まで人族は魔族に支配されていたそうで、勇者を召喚する事に成功した人族が、その勇者を旗頭に人族の運命を賭けた革命を起こしたのだそうだ。
異世界より召喚された勇者に率いられた人族の革命軍は、魔族の予想を超え各地で連戦連勝をあげ、遂には大陸の西にある大山脈にまで魔族達を追い詰め、人族はおろか魔族ですら踏破する事が困難な、大山脈の向こうへと追い払う事に成功したのであった。
しかし今より三年前、約八百年前に追い払った魔族達が、大山脈を越え人族の国々に襲いかかってきたのだ。
帰ってきた魔族達は大山脈の近くにある国々を次々と落して回り、人族の生活圏が脅かされる事となった。
小国ばかりが落とされたとはいえ『魔族』が戻ってきた事に各国は恐怖し、魔族に対抗する為の人族連合軍を結成。
しかし人族全体で連合を組んでも前線は未だに不味い状況であるため、過去の伝説である勇者の召喚を行い、人族全体の旗頭として魔族を撃退する事が決定したのである。
つまりは魔族との戦争のために、信也達はこの世界へと呼び出されたのであった。
「と言う訳でして、あなた方は間違いなく勇者様なのでございます。どうか我々人族を導く光となっていただきたい」
長かった話を一通り終えたオーレルは、満面の笑みで信也達に協力を求めた。
しかしオーレルの隣で、信也達と同様にそれまで静かに話を聞いていたもう一人の男はオーレルの言いようが気に入らなかったのか、いつの間にか持ち上げた右手を振り下ろし、ドンッと大きな音を立ててテーブルに叩きつけて、待ったをかけた。
「待て待て! 見るからにまだまだガキとしか言いようの無い奴らであろう、たとえ勇者なのだとしても使い物になるとは思えんのだが?」
「ガキなどと……口を慎まぬか!」
男は紳士然としたオーレルとは違い、口調には荒々しさがあり、見た目からしても顔にいくつもの傷跡があり、何処か歴戦の勇士を感じさせる風貌である。短く刈り込まれた黒髪は逆立っており、何処かギラついた所のある目つきは威圧感すら発生させているようであった。
そんな粗野な雰囲気すらある男は、オーレルから叱責されるものの、一切怯む事もなく言い返した。
「いいやオレは黙らんぞ、それに明日にでも勇者達のお披露目を連合軍の諸将達にする予定であろう? その場でこやつらがオレ達の旗頭として相応しいかどうか話し合うべきなのではないか? いくら勇者とはいえ、オレ達が勝手に総大将を立てたとあっては誰も納得出来なかろうよ。そこはどうなのだシュタイン将軍よ」
「ぬうっ……それは」
男にどうやら言い負かされたらしいオーレルが、再度信也達の方を向き申し訳無さそうに話しかけてきた。
「どうやらここはヴァロ将軍の言う通りの事になりそうでございます、申し訳ありませぬ勇者様方」
「あ……いえ、今までの話も含めて、それはそれで大変気にはなりますが、そんな事よりも俺達はですね」
オーレルとヴァロ将軍と呼ばれた男の口論の結論なんかよりも、信也達には他にもっと重要な事があった。
今この状況でこういう主張をしても大丈夫なのかの判断はつかなかったが、それでも言わなければ何も進まないと思い、皆を代表して信也は恐る恐る声を出した。
「その……元の世界に帰るってことはできるんですよね? もちろん」
「ん? 帰りたいのですか?」
信也の質問に、さも不思議そうな顔をしたオーレルは、隣で呆れた風にしているヴァロを見遣った。
「ほれ見ろ、だいたい他所から勝手に呼び出した奴が、必ずやる気に溢れてる訳ではなかろうに」
「いやっ、しかし」
「しかしではない。おい、お前ら!」
それまで話しかけて来なかったヴァロが、急に信也達に向けて声をかけてきた。
オーレルは紳士風な爽やかな風貌であったからまだ話やすかったのだが、歴戦の勇士を思わせるヴァロからギラついた目を向けられ、信也達は少々恐ろしくなった。
「残念だったな小僧共。あいにくだがオレ達は、おまえらを元の世界とやらに帰す方法を知らんのだ」
ヴァロから飛び出した一言は、確実に信也達全員に大きな衝撃を与えた。
先程までヴァロのギラついた目に恐れをなしていた信也達も、流石に黙っていられずに騒ぎ出した。
「そんな!? 俺達帰れないんですか!」
「ふざけるなよ!! 無理矢理連れて来といて帰れない上に、命がけで戦えなんてどういう事だよ!!」
「それは流石に虫が良すぎるんじゃないかなー」
「僕達が戦争なんか出来そうに見えますか? 流石に受け入れられないです!」
「そうよそうよ! 元の世界に帰してよ!」
そうして猛抗議を続ける信也達を気にした風でもなく、ヴァロはさらに煽るかのように、容赦のない言葉を重ねる。
「だから帰し方がわからんと言っているだろうが、さっさと諦めるのだな」
「ヴァロ将軍! いい加減にせんか!」
あまりの言いように、オーレルが流石に止めに入る。ヴァロが黙ったとしても、帰れない、諦めろと言われた事は変わらない以上、信也達は抗議の声を上げ続けていた。
そんな今にも暴れだしそうになっているのを少しでも落ち着けようと、オーレルは頭をテーブルに押し付けるように下げながら、必死になって宥めにかかった。
「ゆ、勇者様方、どうか落ち着いて下さいませ。そもそも召喚儀式は国家機密どころでは無い物であります。ですので、我ら二人が知らないだけなのやもしれません、今しばらくお時間を頂けませんか?」
テーブルにゴツっと音を立てながらオーレルが頭を下げる様子に、信也達も一旦落ち着きを取り戻した。
確かにオーレル達の知っている事が全てと言う訳では無いだろうし、まだ希望を捨てるには早すぎる。そう結論を出した信也は、今聞くべきだと思った事を聞く事にした。
「しばらくとの事ですが、いつまで待てば良いんですか? 俺達が帰れるような、ヒントとかを知ってそうな人はいないんですか?」
信也の強い眼差しを受けて、オーレルは改めて姿勢を正し、真っ直ぐと目を見返しながら答えを返した。
「それは我等にも分かりませぬ、しかし明日の朝から、連合軍の諸将が集まる勇者様方のお披露目がございます。その場でならば、あるいは何かわかるやもしれません。しかし勇者様方、我々の勝手でこうなりましたのは申し開きようございませんが、我々には勇者様方が必要なのです! それだけは何卒ご理解頂けますよう、お願いいたします」
一通り言い終えたオーレルが、再度深く頭を下げる。その横でヴァロが手をヒラヒラと振りながら再び口を開いた。
「まあそういう事だ、今オレ達が話せる事はこれ以上は無い。とりあえずおまえらは勇者としてここに呼ばれた訳だからな、コチラの事情ではあるが明日までおとなしく待つことだ」
「……わかりました……とりあえず明日まで待ってみる事にします」
確かにこれ以上この二人に言い募った所で、関係性が悪化する可能性もある。癪ではあるが、最悪この場で殺されたり、ここから放逐される可能性を考えるなら、ここは一旦言う事を聞くべきなのだろう。そう結論づけた信也はひとまず明日まで待つ事にしたのであった。
今年最後の投稿です。
ここまで読んでくださった皆様、どうぞ良いお年を。
来年もエタらないように頑張って参ります。




