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第二十八話 王都

「ここが我が国の王都【ノトリア】だ。活気のあるよい街だろう?」


 タイラー王国に入国してから数日後。ファルドゥーツを発ってからで考えれば、ひと月以上にも及ぶ長旅を終えた信也達は、これから当分の間滞在する事になる王都へと、無事に到着したのであった。


 日はまだ高い位置にあるが、今日の所はこれから信也達が住む予定の建物へと移動して、一度落ち着いてから今後の訓練についての説明を受ける手筈になっている。


 広く整備された道をゆっくりとした速さで走る馬車の窓からは、道を行き交う人々の賑やかな様子がよく見える。流石に王都なだけあってか、どこを見ても活気に溢れており、それだけでこの国は良い国なんだろうなという気さえしてくる程だ。


「へー、王都ってだけあって大っきな街だねぇ」

「でも街並みが日本風って事は無いのね。二階建てとか三階建ての石造りな建物も多いし、洋風な感じがするわ」

「だねー。でも他の街みたいに、派手な色が塗ってある建物は、あんまり見当たらないよね。なんだか全体的に落ち着いた感じがするかな」


 夕梨と祥子の二人は馬車の窓から身を乗り出す様にして、楽しそうに流れる王都の街並みを見物している。


 初代勇者が日本の人だという事で、和風な街並みが見れるかもと考えていた様だが、残念ながら街並み自体は今まで通って来た街と、そこまでの変わりは無い。


「そうね、どの建物も白っぽいっ色だし、統一感みたいなのもあるわよね」

「私達が住む所も白っぽいのかな? どんな家なんだろうね!」

「あー……今まで泊まってきた所を考えると、家って言うか小さなお城とか、大きい屋敷とかじゃないの?」


 ゆっくりと流れる街並みをのんびりと見ながら、夕梨と祥子はこれから自分達が住む事になる場所についての想像を膨らませているようだ。


「それにしても、ここって王都なのに城壁とか無いんだな。今まで通って来た街って、だいたいどこも立派な壁があったのに……」

「ああ、それは僕も思ったな。なんでなんだろうな?」

「街がデカすぎて囲えねえとかじゃねえのか?」

「いやいやいや……いくらなんでもそんな理由は無いだろ」


 そんな楽しそうな雰囲気の二人とは裏腹に、同じように外を眺めていた信也達三人は、今まで通ってきた街のような外壁が見当たらなかった事について、何故だろうと話し合っている。


 実際この王都は四方が開けた平地に存在しているのだが、どの方向にも街と外とを明確に分けるような壁の類は建てられていない。もし戦争でも起こって、大軍に王都が包囲されるような事でも有れば、今見物している街並みが為す術もなく蹂躙されるであろう事は想像に難くない。


 しかしそんな信也達の疑問に、クラークは馬車の進行方向を指差して答えを返した。


「ああ、城壁ならば街の中程にあるぞ。なにせ年々王都の範囲は拡大し続けていてな。新しく城壁を建てようとの要望も、少なくともここ百年は出されておらん筈だな」

「えっ? でもそれじゃ王都が襲われたりしたら、籠城戦とか出来なくないですか?」


 王都が拡がり続けているというのは、素晴らしい話である筈だが、それを理由に防衛設備を疎かにしていては、王都守る事は出来ないのではないだろうか?


「籠城戦か……ふむ、この国の歴史を知らぬお主達からすれば当然の疑問だな」

「……歴史ですか?」


 信也達が知っているのは、この国は初代勇者が約八百年前に建国したという事くらいで、それ以外の事はこの国の歴史だけではなく、クラークから聞いた話以外は、どこの歴史も知らないのが現状だ。


「少し長い話になるのだが……まず我が国は建国以来、大規模な(いくさ)には負けた事が無くてな。約八百年以上にも及ぶ歴史の中で、三度(みたび)戦乱の時代があったらしいが、その時ですら我が国の領土が奪われた事は、ただの一度も無いと伝わっておるのだ」


 その後クラークが語った内容を要約すると、建国初期の初代勇者が存命であった時は、そもそもこの国に戦争を仕掛けてくるような無謀な相手はいなかったのだという。


 しかし初代勇者が寿命でこの世を去ってからは、周囲の国々が領土欲から戦争を仕掛けてくるようになった。だがどの国もタイラー王国の領土を奪うどころか、まともに国境を超える事すら出来なかったのだそうだ。


「なので、この王都を含めた国境より離れた街は、今まで一度たりとも外敵から攻められた事が無くてな……国境付近の一部の都市以外、城壁に頼って籠城戦という考えがそもそも存在しないのだ」


 最初はこの王都の城壁の有無に関する疑問から始まった話であった筈なのだが、気が付けば随分と話の規模が大きくなってしまっていた。


 しかしそんなクラークの話は、文献にも残っている公式の歴史らしいのだが、信也達からすればまるで物語のように感じられる話でもあった。


「へえ、何度攻められても、一度も負けた事が無いってのは凄いよな。嶺二はどう思った?」

「ああ、そうだな。僕もすごい話だなとは思ったけど、毎回国境付近で敵を撃退してるって事は――」


 クラークの話を聞いて、嶺二は色々と聞きたい事が出てきた様であったのだが、タイミング悪く馬車が目的地に到着したとの声が外から聞こえてきてしまった。


「ああっ、時間切れか……まだ聞きたい事があったんだけどなあ」

「話の続きが知りたければ、また次の機会にでも尋ねるがよい。まずは必要な事を済ますとしようではないか」





 馬車から降りた信也達のが目にしたのは、三階建ての大きな屋敷であった。外観は最近建てられたかの様に汚れ一つ見当たらず、人の手で丁寧に管理されているのがよく分かる。


「ここが私達が暫くお世話になるお家なんだぁ……でも、なんだか大きすぎない? 掃除とか大変そーだよ?」

「……いや、そこはお手伝いさん……この場合は使用人とか、そんな感じの人が居るんじゃないの?」


 夕梨の口から冗談なのか本気なのかよく分からない感想が飛び出したが、もし本当に信也達だけで目の前の大きな屋敷を掃除しようとしたら、丸一日掛けても終わらないだろう。


「はっはっは! どうだ、元は少々古い建物であったが、見ただけでは分かるまいよ」 


 信也達が住む事になった建物は、元々他国から使者が来た時に長期滞在する為の迎賓館のような施設であった。しかし勇者を召喚する事が連合軍で決定されてから、この日の事を見据えて急いで綺麗に改装させたのである。


 なので一人しか召喚されない筈の勇者が、急遽五人に増えてしまったとしても、元が複数人数が泊まる事を前提にしている施設であった為に、十分に寝泊まりする部屋は足りているのだそうだ。


「さあ、外から眺めておるのも悪くは無いが、そろそろ中に入るぞ?」

「あっ、はい!」

「改装したって事は、中もキレーなのかなぁ?」


 そうして大きな両開きの扉を開けて建物の中へと入ると、そこは高級ホテルのような吹き抜けの広間になっており、広間の奥にある大階段から二階に上がる構造のようだ。


 そんな広間の中央には、スーツのような服を着込んだ初老の男性が背筋を伸ばして一人で立っていた。初老の男性は信也達から視線を向けられたタイミングで、その頭を深々と下げて歓迎の挨拶を述べる。


「勇者様方、遥か遠い異世界より、ようこそおいでくださいました。私はこの館の管理を任されておりますフェリクス・ヒーアマンと申します。何かご不便な事がございましたら、どうぞ私にお申しつけくださいませ」

「よ、よろしくお願いします!」

「わぁー、何ていうか……執事さんっぽい?」


 ヒーアマンと名乗った男が着ている服がスーツな事と、本人がかもし出す雰囲気も合わさって、やり手の執事のように見えてしまう。


「こやつはなかなかに頼りになる男だからな。お主達も大いに頼るがよいぞ!」


 何故か自慢気な顔のクラークが、ヒーアマンの背中をバシバシと叩きながら、どれだけ頼りになるのかを語っていく。しかし当のヒーアマンは背中が叩かれている事を気にした風でもなく、淡々と話を進める気のようであった。


「ではまず、勇者様方の部屋に関してでございますが――」 


 ヒーアマンからの説明によると、信也達が寝泊まりする部屋は全て二階に配置されているらしく、二階に上がる時は広間にある大階段のみを使って欲しいとの事であった。


 それ以外の階段は二階にも繋がっている物もあるが、基本は三階に繋がっているらしく、三階は住み込みの使用人達が寝泊まりするための部屋があるので、よっぽどの理由が無い限りは使わない方が良いのだそうだ。


 そして食堂や歓談室、応接室等の皆が集まる様な部屋はすべて一階に配置されており、いつでも自由に使って良いそうだ。歓談室等を使う際に、軽食や夜食等も頼めば出してくれるそうなのだが、ここまで至れり尽くせりだと、かえって恐縮してしまう程である。


「――という事で、ここでの基本的な注意事項は以上となります。勇者様方におかれましては、どうぞこの館にいる間はゆっくりとなさってください」


 一階を歩いて回りながらの説明でもあったため、三十分程も時間が掛かってしまったが、丁寧にな説明だった事もあり、これで広い館のどこに何の部屋があるのかは大体把握できただろう。


 そんなヒーアマンによる説明が終わった所で、クラークが次は自分の出番だと前に出てくる。事前に話していた通り、今後の訓練についての話があるのだろう。


「では続けて応接間辺りで、訓練についての話でも……と思ったが、流石のお主達にも疲れが見えるな? フェリクスよ、オオギシ殿達を二階の部屋に案内するのだ。一度休憩を挟んだ方がよいだろう」


 しかし長期に渡る馬車の旅を終えた安心感と、ここに着いてから休憩もなしに歩き回ったからか、信也達にも多少の疲れが見えてきたようで、訓練についての話にいく前に一度休憩を挟む事になるのであった。

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