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第二十七話 米と味噌

 期待を胸に食堂へと足を踏み入れた信也達は、そこに用意された料理の数々に目を見張った。


「おおっ……種類も多いけど、量も山盛りだな」

「これは食べごたえありそーだね。どれもこれも大皿に載ってるって事は、皆で取り分けて食べるのかな?」


 並べられた料理の数々は、どれを見ても冗談のような量が豪快に盛り付けられている。


 大きな肉の塊を焼いた物や、山程積まれた川魚の塩焼き等などメイン料理らしき物だけでも数種類。更には寸胴のような容器に入ったスープもいくつか用意されており、いったい何十人前が用意されているのかと思ってしまう程である。


 そして料理が並んだテーブルとは別のテーブルに、信也達が座るための席と取皿らしき物が用意してある事から、セルフ形式なのだろう事が読み取れる。


 そんな中、料理が並んだテーブルの上をキョロキョロと見ていた祥子が、とある一点を指差した。


「土鍋よ、土鍋! これは間違いなく炊きたてのお米が入ってるわね!」

「食いもんの趣味は知ってるけどよ……だからってどんだけ米に飢えてんだよ……」


 指差した先には蓋がとじられた状態の土鍋が置いてある。そんな見た目であるため、一見見ただけではそれが米かどうかは分からない筈なのだが、祥子は何故か自信がある様子である。


 途中で祥子と一緒になって騒いでいた直人も、流石にここまで高いテンションには付いていけない様で、祥子から一歩引いた位置で呆れてしまっている。


「ほら、祥子。取り敢えず一旦落ち着いて席に座ろ? そんなんだと、いつまで経ってもご飯タイムが始まらないよ?」

「はっ!? そ、そうね! 分かったわ」


 流石に見かねた夕梨が、子供をあやすように席に着くように促すと、一刻も早く米を食べたい祥子は慌てたように着席した。


「うむうむ、もう待ちきれんようだな。お主達に少し話もあるのだが、今は食事を楽しむとしよう。今日は我が国に入国できた祝の様なものだ。さあ、各々自由に好きな物を好きなだけ食べるがよい!」


 騒がしくしながらも全員が一旦席に着くと、それまでの様子を楽しげに見ていたクラークが食事会の開始を告げるのであった。





 開始の号令と共に席を立った信也達は、それぞれが片手に取皿を持って、気になる料理はないかとテーブルの上を見て回る。


 どうやら信也達男性陣は、ひとまず肉料理等のガッツリとした物を先に取ってくる算段らしい。


「ごっはん! ごっはん! 真っ白っなごっはん!」


 そんな中、もちろん祥子もウキウキとしながら、ご飯茶碗に似た器を持って土鍋へと駆け寄っていく。そして待ちに待った米への期待を胸に、土鍋の蓋を勢い良く持ち上げたのだが、そこには期待していた白米は存在しなかった。


「……えっ? こ、これは……まさか!?」


 そこにあるのは期待した通りの白米ではなく、無精米の玄米を炊き上げた物であった。もちろんそれが米である事に間違いはなく、米粒の形を見ても日本の物と似た種類であるようなのだが、結果的に予想を大きく外された事になってしまった。


「いやいやいや……玄米も好きだし食べるけど、真っ白なご飯はどこにッ!?」


 祥子は器に玄米を溢れそうな程に盛り付けながらも、どこを見ても白米が見当たらない現実に、悲しげな声をあげている。


 そんな悲痛な声をあげる祥子を見て、喜んでもらえるものだと思っていたクラークは驚きに目を丸くしていた。


「むう……な、何故そのような声を出しておるのだ? 米と言えばこれであろう? お主達の世界では違ったのか?」

「これもお米で間違いないんですけど……私達の元いた世界じゃこれを白くしてから食べるのが一般的なんです……」


 クラークが言うには、自分達が普段から食べている米といえば、普通は玄米の事を指すのだそうだ。しかし現代日本においては、玄米に対してこだわりのある人か、健康志向の人が食べる物であって、米と聞いて真っ先に玄米を思い浮かべる人は小数派であろう。


「なんと……これは初代様より伝わってきた食べ方であったのだがな……そちらでは長い時を経て食べ方も変わったという事なのだろうか」

「それは私にも分かんないです。でもこっちだと白いお米は食べないんですか? 美味しいのに……」

「いや、一切食べないという事は無いのだがな。だが儂らがアレを食べる状況は限られるな」


 一応この世界でも白米を食べる事はある。だがそれは専ら戦場での食事の時なのだそうだ。だからクラーク達の世界においては、白米の事は陣中米や兵糧米等と呼ばれているらしい。


 そんなクラークの話を、いつの間にか祥子と一緒になって聞いていた夕梨であったが、この話から別物であるのは米だけでは無い可能性に気が付いた。


「って事は……一応予想はしてたけど、お味噌も私達が思ってるのとは違うのかなぁ?」


 初代勇者より伝わった食べ物は米の方ではなくむしろ味噌の方だと先程聞いたばかりなのだ。ならば味噌の方も、自分達が思い浮かべる物とは別物である可能性があるのではないかと考えても無理はない。


「味噌か……一応聞くが、お主らの国ではどのように食べていた? やはり米や肉にのせて食べるモノであろう?」

「え? あっ……いや、確かにそんな食べ方もありますけど、パッと思いつくのは味噌汁とか……よね?」

「だねー、後は煮物に使ったりとかかな? でもお味噌の焼おにぎりとかも美味しいよね。私は好きだよー」

「ほう、第一にあがる使い方が違うのだな。となると米と同様に、味噌も互いの認識が違うのかもしれぬな」


 そうして話し込みながらも、どんどん料理を取皿に載せていく祥子達三人であったが、話題の味噌が置いてある所で再び足を止めた。


「さて、これがこちらの世界の味噌だな。お主達が知っている物と比べてどうだ? やはり多少の違いはあるのか?」


 クラークが味噌だと指し示した物は、黒っぽい色味をした豆の粒がそのまま残った状態の物である。試しに匂いを確認してみれば、確かに味噌のような香りはするのだが、袋詰めの物しか見た事がない祥子の知識では、味噌のような別物に見えてしまうようであった。


「んんん? これって……なんか違わない? 私は見た事ないんだけど?」

「んー、たぶん粒味噌ってやつだよ。これをすり潰すと、私達が普段食べてた味噌になるんじゃなかったかなぁ?」

「え、そうなの?」

「たぶんだよ? 詳しい工程なんて知らないけどねー」


 しかし夕梨の方は似たような物を見た事があるらしく、玄米同様にもう少し手を加えれば一般的な味噌になるようだ。


「ふむふむ、すり潰した物がそちらでの標準的な物なのだな。まさかこんな所で世界間の認識の違いが出てくるとは……あやつに言えば目を輝かせるかもしれんなあ」


 二人の味噌に関しての反応を見て、クラークはしきりに頷いている。その顔は誰を思い浮かべているのか、なにやら楽しそうにも見える。


「おっと、これ以上話し込んでいては、いつまで経っても飯が食えんな。そろそろ席に戻るとするか」

「そーですね。むしろ私ってば、あれもこれもって取りすぎちゃったかも? 無理そうなら信也にでもパスしよっかなー」

「そうね、私もひとまずはこれで大丈夫。足りないようなら、また取りに来ればいいでしょ」


 会話をしながら料理を取って回っていたので、それぞれが手に持っている取皿の上には既に十分な量の料理が盛り付けられている。


 なので皆で席に戻って、いよいよ食べ始める段になったのだが……





「いよいよ……念願のお米タイム……それじゃ、いただきます!」


 ここまで米に対しての期待を膨らませてきた祥子が、白米ではなく玄米が盛られた器を手にしてゆっくりとその口に運ぶ。


 食器に関しては残念ながら箸は伝わってないようでスプーンなのだが、だからといって味が変わるような事はない。


 味を確かめるかのように目を瞑り、米の一粒一粒を噛み締めて味わっていた祥子であったが、ゆっくりと咀嚼した物を飲み込むと、それまで抑えていたモノを開放するように、取皿に盛った料理と並行して、勢い良く米を口に入れ始めた。


「これは……美味い!? 玄米ってもっと硬くてぼそぼそしてるはずなのに……モチモチとしてて美味いんだけど!? おかずとの食べ合わせも最高ね!」


 山のように盛り付けた料理と米をあっという間に半分程食べ終えると、一旦落ち着いて米に乗せて食べるのだと聞かされた味噌を取り、玄米と合わせて食べてみる。


「ああ、これは確かに合うわねッ! 食べてみれば確かに味噌なんだけど、豆の食感も面白いし、ちょっと塩味が強めな感じでお米が進む味ね。んんん……美味いッ!」


 先程から勢い良く料理を口に運んでは、誰に話しかける訳でもなく評論家のような事を口走る祥子の様子は幸せそうでありながらも、どこか異様ともいえる雰囲気であった。


 まだ料理を取りにいっている時は落ち着いているように見えたのに、いざ食べ始めれば今日一番の暴走を見せつけられて、信也や嶺二などは食事の手が止まってしまっている程だ。


「これは……精神的にキテるように見えるんだけど、僕だけか?」

「お、おい直人。これ……落ち着くんだよな!?」


 祥子と一番長い付き合いの直人に助けを求めて声を掛けるが、当の直人は呑気に食事を続けている。


「ああ、大丈夫だろ? 精神的に疲れてんのは間違いねえとは思うけど、ストレス発散で暴走してるだけだろ。寝て起きたら元に戻るぞ。それよりこの肉美味えよな? もっかい取りに行かね?」

「あははっ、流石に幼馴染みだねー。私ももう祥子の事は諦めたし、今は私達もご飯を楽しまないとだね」


 あくまでも食事を楽しんでいるだけなのに釘を刺す必要もないだろうと、それまで祥子を落ち着けようと奮戦していた夕梨も静観する事に決めたようである。


「まあ、明日には戻るっていうのなら……態々僕らが口を出す事じゃない……のか?」

「…………そうだな、俺達も食べる方に集中するか」


 こうなれば自分達も気にしないでいようと決めた信也と嶺二は、肉料理を取りに席を立った直人を追い掛けていく。


「ふむ、どうやら大事な話をする雰囲気でもなさそうであるな。まあ今日の内にしなければいけない話という訳でもなし。明日以降に話すとするか……」


 そうして結局この日の内に祥子の暴走が止まることはなく、クラークが言った通りに食べきれない程の料理を好きなだけ食べ続けた信也達は、満足感と共に休みにつくのであった。

次回からは真面目な話に戻してまいります。

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