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第十話 勇者召喚の儀式と、秘密の歴史

 あれから二度の移動と一度の休憩――訓練時間を挟み、夕暮れ前には無事に大きな街に到着する事ができた。

 信也達のイメージとは違い、これといって城壁に囲まれている街並みではなかったが、赤色の屋根の建物が所狭しと並んでいる風景は大層見応えがある。


 慣れない馬車の旅ではあったが、馬車の乗り心地が良かったからか信也達には疲労の色はあまり見えず、武器の試用での疲れが少し残っているくらいである。


 今夜クラークから色々と話を聞く事になっているが、これなら途中で眠くなるような事にもならないだろう。とはいえ、元の世界に帰るための手掛かりや勇者が使える力、魔力と召喚儀式についてなどなど……聞くべき事は大量にある。果たして今夜で全てを聞けるのかは分からない。


 しかし信也達にとっては、元の世界に帰るために必要なのはもちろん、どれもこの世界で生き抜くのに重要な事なのは間違いない。であるならば、一つでも多く、一日でも早く聞きたいというのは我儘ではないはずだ。


 この街の領主の居館だという大きな建物が今日の宿らしく、外観は歴史を感じさせる雰囲気があり、元の世界の海外にある古城ホテルのようであった。

 居館に到着直後、公爵を名乗る渋い中年男性からの挨拶があったが、クラークが勇者達と内密な話があるのだと話すと、何かを心得たように食堂まで案内をしてくれた。

 この世界の人達は食堂で重要な話をする文化でもあるのだろうか?


 案内された食堂は領主の居館だけあり、銀食器や金色に輝く燭台がテーブルの上に並べられ、如何にも豪華な食卓であるように見える。

 しかし今朝までいたファルドゥーツのそれと比べてしまうと、信也達から見ても装飾品の質や、食器類の品の良さは数段見劣りしてしまう作りであった。

 道中クラークから受けた解説を思い出すならば、あの食堂の内装のほぼ全てが魔族統治時代から使用されている物であったらしい。魔族と関係の無い物はそれこそテーブルクロスとカトラリーのみであろうとの話である。

 こうして見比べてみれば、魔族統治時代の技術力や装飾品にかける熱量の高さがよく分かる。


 そうして信也達が席に着くと、テーブルの上に出す順番も関係ないと言わんばかりに様々な料理が一度に並べられた。


 公爵は居館の主だというのに食事の席に同席する事もなく、給仕のためにいたはずの使用人達を全員引き連れて、すぐさま食堂から退出していった。こうして信也達五人とクラークだけの説明会を兼ねた食事会が始まったのである。





 普段はわいわい騒ぎながら食べる信也達も、もうすぐ自分達にとって重要な話が控えているとあっては、豪華な料理を前にしても騒ぐ気にはならないようであった。

 そうして全員がある程度食べ進めたのを確認したクラークは、これからする話は絶対に他言無用だと前置きをして話し始めた。


「さて、やはり最初は召喚儀式についての説明だ。この儀式が生まれた当時の話も交えて説明する事になるが、この話をせん事には魔族や魔法について、勇者とは何なのか、お主達が帰る方法の手掛かりなどの説明もできんからな」

「元の世界に帰る為の手掛かりとも関係がある話だと……そういう事ですか?」


 待ち望んでいた情報が手に入る、そう思うと思わず気が急いてしまうが、順番に聞く必要があるのならばと、一旦気を落ち着けるしかない。


「そういう事だ。それでは早速、勇者召喚の儀式についての話だが……お主達も分かっているように、アレは正真正銘の魔法だ」


 クラークの言う通り、信也達にもそれが魔法だという事は見当がついていた……いや、魔法としか思えなかったと言う方が正しいのであろう。日本においてファンタジーな世界観に慣れ親しんだ信也達からすれば、それ以外の発想が無かったのである。


「それは約八百年前、一人の魔族が魔王……当時で言うところの魔帝に復讐するために編み出した執念の結晶。それが後に勇者召喚の儀式と呼ばれる事になる召喚魔法の正体だ」

「召喚魔法は魔族が作った? それに復讐のためにだなんて……」


 それじゃあ元々勇者はその魔族の復讐のために、この世界に呼び出されたという事なんだろうか?

 でもそれではオーレルから聞いた、人族を勇者が率いたというのはどういう事なんだろうか……魔族が魔族に復讐するために召喚魔法を作り出したのだとすると、どう考えても間に人族が入る隙間が無いように思える。


「かの魔族は魔帝城で初代様を密かに召喚し、数日後の人族の一斉蜂起に合わせて魔帝を討つ計画を立てた。人族の独立戦争とは、そもそもその魔族がいてこそ成り立った事なのだ」

「人族の独立にも関わっていたって事ですね」


 つまり、その魔族は人族を予てから支援しており、魔族の国全体を相手取るつもりだったという事だ。


 数百年の間、一方的に支配され続けていた人族を煽り、同志であった十人の魔族を各地の人族の支援に当てて、自身は勇者召喚を用いて復讐相手であった魔帝を討つ。その試みは見事に功を奏し、強大な力を誇った魔帝は勇者によって見事に討ち果たされた。


 その後はどういう流れがあったのか、蜂起した人族を勇者が率い、大陸各地に配されていた魔王達との激戦が繰り広げられる事になる。結果、オーレルが語ったように魔族達は敗北し、大陸西部にある大山脈の向こうへと追いやられていった。


 独立戦争終結後、裏切りの魔族と呼ばれた十一人の魔族達は人族から身を隠すように姿を消した。そして独立を果たした人族達は、その魔族達に感謝しつつも、正式な記録からは魔族の支援があった事の一切を無かった事にしようとした。


 その事の賛否もあり、独立戦争の指導者達は袂を分かち、各々が好き勝手に国を打ち立てて行く事になる。しかし結局は時代の流れで、裏切りの魔族達の存在は闇へと消えていった。


「魔族からの支援で人族の独立が成った事を、今でも知っている者は儂も含め数人しかおらん。人族全体の秘中の秘であるな」


 長い話であったが、支配していた魔族を打倒して、人族がこの地の支配者として成り代わった事は理解できた。攻めて来た魔族達は過去の報復か、奪われた土地を取り返しに来たのだろうか。


 しかしその事は今の自分達にとっては関係の無い話だと割り切って、信也は話を先に進める事にした。


「でもそれじゃあどうやって俺達を召喚出来たんですか? 人族には魔法は使えないって言っていましたよね」


 信也からの質問に、クラークはその通りだと頷いた。


「確かに魔法を自在に扱う事ができるのは原則として魔族のみだ、なんせ人族には魔力が無いからな。しかし召喚魔法は魔力さえ用意できれば、人族でも同じ魔法を使用できる魔法陣というもので作られておる」

「魔法陣……」


 何故人族に魔法が使えないのかと思っていたが、そもそも魔力が無いのでは仕方ない。しかしそれでは、どうやって魔法陣を使用出来たのかという疑問が残ってしまう。

 しかし『魔力さえ用意できれば』と言っている以上、なんらかの方法で人族でも魔力を用意する事ができるのだろうか?


「そして魔力自体は宝石の類に含まれておるらしい、だから数百年の間に国の宝として溜め込み続けたそれらを各国はこぞって提供し、その全てを考えもなく魔法陣にブチ込んだ。だから一人ではなく五人もの勇者が呼び出されたのやもしれぬな……」

「す、全て? しかも考えもなくだなんて……」

「僕なら怖くて、一回に全てを賭けるだなんて無理だな……」

「総額でいくらぐらい掛かったんだろうねー?」


 自分達を召喚した方法と、何故五人も召喚されたのかは分かったが、数百年間溜め込んだ宝石を全て使うだなんて、いったいどれ程の金額が掛かったのか考えたくもない。しかし今はそんな所に引っ掛っている場合ではないと、信也はなんとか気を取り直す。


「それで……この話が俺達が帰るための手掛かりとどう繋がるんですか?」

「うむ、魔法は魔族しか使えず、召喚魔法陣は魔族が作った。ここまでは理解出来ておるな?」

「それはもちろん理解出来てますけど……それだけ聞くと諦めろと言われている様なんですが……」


 召喚のための魔法陣をそのまま帰還のために使用可能だというならともかく、ここまで持って回った言い方をする以上、それはなさそうだ。であるならば、送還用魔法陣のような物が必要なんだろうが、今の話の流れでそんなものが用意されているとは考え辛い。


「この大陸において十人と知らぬ事ではあるのだが……復讐のために人族に協力した裏切りの魔族。その子孫がとある国でひっそりと魔法陣の研究をし続けていると聞けばどうだ?」

「え? 姿を消したんじゃないんですか?」


 召喚魔法を作り出した魔族の子孫。その居場所が分かるなら、当然それに越したことはない。しかし先程、彼等は姿を消したと言ったばかりではないか。


「誰にも何も告げずに消えたとは儂は言っておらんぞ。初代様は自分を召喚した魔族から、彼等がどこへ行くのか伝えられておったのだ」


 姿を消す前に彼等がどこへ行くのか聞いていた勇者は、独立戦争終結の数年後に彼等が逃れた地へと使いを出した。そしてそれ以降も途切れる事なく交流は続いているのだという。


「更に言うと、送還魔法陣について心当たりはないかと、昨日の段階で儂から文を出しておいた。遅くとも半年後、お主達が訓練を終える頃には返事が儂の元へと届くであろうよ」

「おおっ!? ありがとうございます!」


 最大限の協力をしてくれると約束してくれていたが、既に打てる手を尽くしてくれているのは素直にありがたい。

 これで帰る方法が見つかるのかは分からないが、少なくとも希望を持つ事はできるのだから。


「礼なんぞ言わんでもよい。一方的にこの世界の事情に巻き込んだのは儂らなのだからな。さて、次はお主達が得た力についてだ」


 そうだ、まだまだ聞くべき事は残っている。浮ついた心を落ち着けた信也が再び話を聞く姿勢を取ると、クラークは続きを語りだした。

今回は説明回となりました。

そして次の回も引き続き説明回になります。

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