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プロローグ

 大岸信也(おおぎししんや)は幼い頃は『騎士』になりたかった。


 ゲームやマンガで出てくるような、弱きを助け強きを挫く、囚われの姫を助け、悪竜を倒し、いつしか世界も救ってしまうような、そんな『正義の騎士』に憧れた。


 憧れが過ぎて、小学校の卒業文集にも『将来は騎士になって、冒険の旅に出る!』などと、ありったけの情熱を詰め込んで書ききった程である。


 切っ掛けは小学三年生の時にハマったゲームであった。彼は幼いながらもいたって真剣に、『騎士になる』などという荒唐無稽な夢の実現に向けての努力を惜しまなかった。


 騎士たるもの体力は必須だと思えば、幼馴染達も誘って毎朝の走り込みを始め。装備を扱うための筋力も必要だろうと思えば、トレーニングも必死に頑張っていた。

 

 信也の両親は、中学校に入れば落ち着くのではないかと思っていたようだが、本人は引き続き『騎士になる』夢を叶える為の努力を止めようとはしなかった。


 トレーニングが趣味だと言う同級生がいると知れば、その同級生に教えを請い、より激しい走り込みや筋トレに励むようになった。お小遣いを貯めて通販で購入した、西洋剣のレプリカを手に入れてからは、合わせて購入した中世騎士の剣術が書いてある本を参考に、基礎的な練習もしながら、自己流の型や技を創ろうともしていたのだ。


 高校受験を控えた中学三年になっても、相変わらず信也は騎士を目指すと公言し、毎日のように鍛練を続けていた。しかし信也の両親も、このまま叶いもしない夢を追わせ続けるのは可哀想だと思ったのか、普段から信也と一緒にいる親友達に協力をお願いして、荒唐無稽な夢について諦めさせようと説得に乗り出した。


 そうして両親と親友達から騎士になるなんて夢は、現代日本で叶えるには到底無理なんだと諭された信也は、当の両親が驚くほどに呆気なく、騎士になるなんて事を言わなくなり、高校生になる頃には年相応の落ち着きを見せるようになったのである。


 ただ信也本人としても、自分の語っていた夢がとっくの昔に空想やファンタジーの類でしかない事は理解していた。しかし、たった数年ではあるが自分から言い出して周りも巻き込んで努力し続けてきたのに、今更止めるものかと引くに引けなくなっていたのだ。


 そんな中で、自分が鍛練の為にと巻き込んでいた親友達から真剣に諭された時、やっと引き時を見つけたような気がして、内心ではホッとしていたのは信也本人と一人の幼馴染の間の秘密である。





 そんな信也も高校ニ年生になり、そろそろ夏服へと移行しようかという、ある初夏の日の出来事であった。県内の市立高校の教室には、一緒の高校へと進学してきた信也と親友達の男女五人が集まっていた。


 既に放課後である現在、教室はおろか廊下にも彼ら以外の人影はない。


 しんと静まり返った教室の中で、彼ら五人は教室の机を四つほど引っ付け合わせたテーブルもどきを、緊張感溢れる顔つきで囲んでいた。


 テーブルを囲んだ親友達の顔をゆっくりと見渡した信也が一人立ち上がる。その表情には自信をにじませながら、手を大きく振り上げて声を大きく宣言した。


「よし! それじゃあ第一回、テーブルトークRPG大会を開催します!」


 宣言を聞いた周りの親友達は、先程まであった筈の緊張感なんぞ何処へやら、笑顔と共にノリのいい感じでワーワーと声を上げていた。


「よっ、待ってました!」

「信也の腕の見せどころだぞー」

「ふふん、元中二病患者の妄想力を魅せてもらおっかな?」

「久しぶりにシンの本領発揮ってヤツだな、期待してっぞ!」


 引くに引けなくなっていた時期に、ヤバい奴だと離れる事もなく付き合い続けてくれた恩人であり親友達。そんな彼らからの、半分馬鹿にされているのでは? と思わないでもない歓声を聞きながら、信也は更に言葉を重ねていく。


「祥子の中二病発言は聞き流すとして……苦節半年! ルールブックを熟読し、どんなストーリーにしようかと嶺二と打合わせしていたら、気がつけば二年生になってたけども、今日は時間の許す限り楽しもう!」


 中二病発言に言及している辺り、まったく聞き流しきれていないのだが、そんな事は気にせずに話を進める。


 いつの間に身に着けていたのか、腰に装着している剣帯から、仲間内ではお馴染みとなっている西洋剣のレプリカを随分と慣れた様子で抜き放った。


 今日遊ぶ予定のテーブルゲームが洋風ファンタジーを扱ったものなので、面白いかなとの思いで持ってきた一品である。


「中学の時に買ったやつだよね、いつの間に学校に持ってきたの? バレたら怒られるでしょ、またおじさん達泣いちゃうよー」


 信也の親友達の中で幼馴染でもある片桐夕梨(かたぎりゆり)から、ジト目と共に至極当然な質問が飛んできた。


「フハハッ、ちゃんと許可は取ってあるぞぅ!」

「ホントに? 信也ってば、ごく稀に嘘つくからなー」

「いやいやいや、本当にキッチリ許可取ってるから」


 当初はノリノリでいたが、夕梨から疑うような発言が出てきたので、信也は信じてくれと慌てて身振り手振りでアピールをし始めた、夕梨はそんな信也の目の中の何かを確認するようにジッと見つめる。暫くして何かを確認し終えた夕梨は、ジト目から普段の無表情に近い顔に戻る。 


「あー、本当に許可は取ってるっぽいね。レプリカだからってこんな凶器の持ち込みを許可するなんて、何考えてるんだろうねぇ、ここの教師は」


 夕梨は高めの位置で括っているポニーテールを頭と共に左右に振りながら、やれやれと呆れるように声を出した。


 前日に放課後の教室の使用許可を取りに職員室へ行った時、試しに担任に剣の持ち込み許可をお願いしてみたら、放課後まで職員室に預けるのを条件に許可が出たので持って来ていたのだ。そんな職員室では、今朝から教師の数名が興味津々な様子で剣を触ったり、構えたりしている様子がたびたび見られていたようだ。


「うちの高校はそこら辺かなりゆるいからな、こんなの持ってる奴なんか珍しいだろうし、先生も見てみたかったんだろうな」

「ああ、それはあり得るな」


 夕梨と同じく幼馴染である霧峰嶺二(きりみねれいじ)が眼鏡を光らせながら、教師達の内心を言い当てている横で、大柄でやたらとガッチリとした体つきをしている崎守直人(さきもりなおと)が、その無駄に逞しい腕を組みながらしきりに頷いている。


「あははっ! それにしたって、相変わらず無駄にキレイに剣抜くじゃん。笑えるんだけど」


 高校生だとは思えない程の女性らしい柔らかな丸みを帯びた体と、背中の中程まで届く髪を揺らしながら、瑞希祥子(みずきしょうこ)は信也の無駄に洗練された無駄でしかない動きを笑っていた。


 剣を格好良く抜き放つ方法なども練習していた事もあり、妙に様になっているのが周囲の笑いを誘っている。しかし本人はそんな事は気にしないし、周りも今更気にする様な仲ではない。


 決めポーズも取ったので、そろそろゲームを始めようかと、信也は抜いていた剣を手元で大袈裟にグルッと回し、慣れたように綺麗に鞘へと仕舞い込んだ。


「ようし、それじゃあ進行役は予定通りに嶺二に……ってなんだこれ!?」


 開会の挨拶らしきものを終えたので、信也は自分の席へと座り直し、自分の対面に座っている嶺二へと声をかけようとしたその時。教室の床に突如として不思議なとしか言いようのない光の線が幾重にも浮かび上がった。


「うわっ、なになに? なんの仕掛け?」

「おっわ、すごく眩しいんだが!?」


 初めの内は、なんだこれはと全員が教室内を見渡していたのだが、突如として現れた光の線は、教室の床一面を瞬く間に埋め尽くしていき、目も開けられないような光量でより一層に輝き出した。


 急な光に夕梨は興味津々と、信也は驚きに声をあげるものの、その場からは動かずに騒ぎはじめた。


「俺はこんなの仕掛けた覚えが無い……ってか、なに仕掛けたら地面がこんなに光るんだよ!」

「あー……ほんとにすごく光ってるねぇ、どうしよっかー?」


 予測も出来ない事態に、信也は自分の無実を主張し始め、夕梨はあまりの眩しさに両手で目を覆いながら呑気な感じでどうするのかと周りに問いかけた。


「どうするって言っても、目も開けられないし動けないよ! すっごくファンタジーな出来事なんですけど、私達どうなっちゃうの!?」

「え? 眩しいだけなんだが、どうにかなるのか? 嶺二はどう思うよ」


 意味の分からない状況に、祥子はパニックに陥りながらも、あまりの眩しさに動けないと声を上げ、自分達に何が起こるのかと危機感を覚えた。直人は眩しいだけで一向に何も起こらない現状に、多分何かを考えているんだろうと、仲間内での参謀役として頼りにしている嶺二に声をかけた。


「いや、どうだろう? 目も開けられない状態で迂闊に動いて怪我をしても駄目だし、一旦様子をみてみればいいんじゃないかな?」

「あぁ、そうかもな。慌てて怪我しても馬鹿らしいからな」

「出口の方向もよく分からなくなっちゃってるもんねー、仕方ないかな?」


 声をかけられた嶺二も、現状眩しいだけで、熱も痛みも感じない事から、無理に動く方が危ないかもしれないとの考えを述べた。この状況にも落ち着いている直人と夕梨は、嶺二の意見に同意しつつ、とりあえず様子見でいる事にしたようだった。


 まぶた越しですら眩しく感じる程の光ではあるが、眩しいだけで熱を感じるようなものでも無く、多かれ少なかれ全員が危機感を覚えつつも誰も動けずにいた。


 そうして何分か経った頃、光の収まった教室の中には、何処にも彼らの姿は無かったのであった。





 その後、その教室の使用許可を出していた教師が、完全下校時間になっても鍵の返却に来ないのを不審に思い、教室の中を確認しに行ったものの、そこには許可を取りに来た生徒はもちろんの事、教室に集まると事前に聞いていた生徒達は誰一人としていなかった。


 教室の中を確認してみると、教室中央付近に散乱したカバンや教科書が残っており、校内失踪事件として捜査される事になったのだが、彼らが見つかる事は無かったのであった。

初めまして、初投稿の小説になります。

今後ともお付き合い頂ければ、幸いでございます。

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