表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みそギ!~三十路で始めるギター教室~  作者: ボラ塚鬼丸
Bonus track2~Californication編
98/175

宣戦布告/神様、僕は気づいてしまった

 あぁ、自己嫌悪……この状況を、一体アズサにどう説明したらイイのだろうか?


「エリカ、さっきから変じゃない? 何かあった?」


 前日キクチに対して宣戦布告してしまったコトを、アズサに伝えられないまま二人で音楽室に向かっていた。


「あの、うん。昨日ね? 私一人で練習していたのだけれど、ちょっとトラブルというか、軽く揉めてしまったというか……」


「え? なになに? 誰かとケンカでもした?」


 アズサは私の心配をするでもなく、興味津々といった様子だ。


「まぁそんな感じ……あ、あのね?」


 変に食い付いてきたアズサからは逃げられないと思い、昨日起こったコトを包み隠さず説明した。


「アハハ! キクチそんなコト言ってたんだ? まぁチアから逃げた……ってのは間違ってないからね?」


「だって! と、友達……が、あんな風に言われたら、悔しいじゃない!」


 出会って数日のアズサを堂々と『友達』と呼ぶには、まだ若干の照れがある。


「いやぁ~嬉しいなぁ。エリカがウチのためにそんなに怒ってくれるなんて♪」


 廊下を並んで歩いていたハズのアズサが、ニヤニヤして私の回りをぐるぐると回りながら、俯いた顔を覗き込んでくる。


「そ、それはそうでしょ! 文化祭でアズサが本気で歌ったら、聴いた人はきっと感動するもの」


 キクチの言い分に腹を立てたのも、アズサの歌が凄いと思うのも嘘ではなかった。


「まぁエリカが怒ってくれたのは嬉しいけど、キクチの言う通り、出番がトップで盛り上がるかは不安だよね?」


 その不安は、本番を待たずに私が一人で盛り上がってしまい、キクチ相手に啖呵を切ったのが原因なのだけれど。


「えぇ……ホントにゴメンなさい。当日のステージって体育館よね? 少なくとも半分くらいの人が集まれば、何とか客席が埋まってる感じに見えるかしら?」


「んー、たぶんパイプ椅子とか出すだろうから、全面使うワケじゃないと思うけど、入学式とか卒業式で生徒と保護者が入るワケだから……満席で400人ぐらい?」


 おそらくアズサは、少なく見積もって400席という見立てなのだろう。


 午前中から、模擬店を回らず体育館へ直行する人が、客席の半数である200人も居るかどうか、というところだ。


「それって結構厳しい……のよね? この学校の文化祭って毎年どのくらいの来場なのかしら?」


「あー、ここ女子校だから誰でも入れるワケじゃないんだよね? 家族とか友人向けの招待券持ってないと入れないから、一般客に期待するより生徒集めないと厳しいと思う」


 コレはもう、確実に詰んでるじゃない……転校生の私と、学科を転籍したばかりのアズサでは、クラスメイトや友人をかき集めるなんて出来るハズがない。


 とりあえず、埋まるかどうかもわからない客席のコトを考えていても仕方がないので、今は練習するしかない。


「とにかく、本番でアズサが完璧に歌えるように練習しましょう! イイ歌を歌えば、きっと歌声を聞きつけて人も集まる……と思いたい」


 キクチに大見得を切ってしまった手前、藁にもすがる思いではあるが、現段階ではそんな博打に賭けるしかなさそうである。


「まぁまぁそんなに心配しなくても、ウチが秘策考えてあるから安心しなよ!」


 そういえばそんなコトを言っていた気もするが、所詮は付け焼き刃だろうし、アズサのセンスに任せるのも不安なので、その秘策ごとお蔵入りになる可能性も高い。


「1ミリも安心出来ないのだけれど……練習だけはやりましょう。あと、アズサの希望通りアニソンの曲も練習してきたから、あとで合わせてみようと思うのだけれど」


「ウソ! チョー嬉しいんだけど!! あ、でも練習必要無いからね? どの曲が来ても完璧に歌えるし……あー、なんか心に余裕が出てきたかも♪」


 キクチとの一件で後ろめたさを感じているからか、練習が必要なのは私なのだけれど、とは言い出せないまま、アズサと並んで廊下を進む。


 音楽室に到着して早々に練習を始めたが、キクチと顔を合わせたくなかったので2~3回通して歌い、早めに切り上げて教室に移動した。


「そういえばさ、エリカが留学してた時の話聞かせてよ!」


「そんなコト言って、ただ座学をサボりたいだけでしょ? ほら、覚えてるか確認するから、歌詞の穴埋めしていきましょう」


 本番まで時間がないので、正直アズサには、歌詞のみならず感情もろとも詰め込めるだけ詰め込みたいので、1分1秒だって惜しいのだ。


「違うってば! ウチもアメリカのロックカルチャーに触れておきたいんだよ。あの……ブッ飛んでる婆さん、名前なんていったっけ?」


「グランマのコト? ジェシカだけど……普通は名前じゃなくてエピソードとか訊くんじゃないの?」


 この怪しい言動は、きっとアズサの時間稼ぎなのだろうと、質問に対する返事はしているが、私の視線は手元のノートに注がれたまま、虫食いになった英詞が埋まるのを待った。


「ジェシカさんて、ジャニス以外はどんな曲聴いてたの?」


「そうね……ウッドストックに出てたバンドやアーティストなら、大抵聴いてたと思うけれど」


 雑談はしつつも、アズサはノートにペンを走らせている。きっとアニソンの保険があるコトを知って、プレッシャーから解放されたのだろう。


 その後も、暇さえあれば留学中の話をさせられたが、意外にも歌詞の飲み込みは良く、意味もしっかりと理解していた。


 模擬店の準備が無い日は、キクチから逃げるように音楽室を利用して、教室でおさらいをする日が続く。


 日に日に歌詞を間違えるコトも少なくなり、メロディもほぼ完璧に歌えている……のは良いけれど、初めて聴いた時のような衝撃を受けるほどではない。



 結局、練習では神懸かった歌声を聴くコトの無いまま、本番当日を迎えてしまった。



 当然だが文化祭なので授業は無く、朝のホームルームでパンフレットを渡されて、クラスの展示の持ち回り当番が終わったら解散という流れのようである。


 あれ? パンフレット? ……って、確かタイムテーブル載せるから、バンド名決めて報告しろってキクチに言われていたような……


 気まずくてキクチを避け続けてたから、そんなコト完全に忘れてた!


 パンフレットに記載が無かったらどうしよう……というか、あったらあったで何て書いてあるんだろう? と、軽音部ライブのページを恐る恐る開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ